花はそうして落ちていった
「この花が枯れたら…」
「なに?」
小さな俺は聞いたんだ。
爺さんは教えてくれたはずなんだけど、上手く聞きとれなかった様な気もするし、それとも教えてくれなかったのかもしれなくて、ただもう昔過ぎて思い出せない。
そこには沢山の花が咲いていて、色んな人が横切っていく。
人々は花を見ては写真を撮ったり、匂いを嗅いだりして去っていく。
中には毎日訪れて、話しかけて行く人もいる。
花は、人間の癒しなんだな。
雨の日は、みんな花を見には来ない。
だってわざわざ傘さして花の前に来てどうするんだ?
肌寒くて足元だって濡れるだろうし、花を輝かせる太陽の光だって無い。匂いだって届かない。
そもそも花だって雨に濡れてしなだれた姿を見られるのは、恥ずかしいだろ。
だけどたまに、雨の中やってきては、濡れた花を熱心に撮り続ける奴もいるんだ。
次に雨が降るのはいつかな、なんて言いながら。
濡れた花がいいだなんて、変わってるよな。
いつからか、俺一人でそれを見てるんだ。
爺さんはいつの間にかいなくなって、俺だけが見てるんだ。
隣には誰かいたような気がするんだけど、
誰だったのか、それが昨日の事だったのか、もっと前の事だったのか…。
花びらが萎れて、落ちた。
しょうがない事なんだ。
花は咲いたら、いつかは枯れて、終わるんだ。
終わった後の事なんて考えないさ。
ただ、落ちるだけなんだ。
「次はお前の番だな」
爺さんはそう言ったんだ。
その時になって思い出すなんて、上手くできてるよな。