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夏のホラー2020

雷鳴

 今朝の予報は見事に的中した。グラウンドに降り注ぐ雨は、銀色のヴェールとなって、辺り一面を覆っていた。

 黒く塗り潰された空には、間隙なく雲が横たわっている。

「撤収だ、撤収」

 監督の指示に背中を押されて、部員たちはゴールポストをグラウンドの角に運ぶ。しぶとくボールを追いかけていた仲間たちも、雷鳴が轟くや、橋脚のたもとへと逃げ隠れた。

 雨足が減衰したところで、傘など持たないやんちゃ盛りは、お天道様にようやく帰宅を許された。

「じゃあな」

「ああ、またね」

 一人、また一人とそれぞれの道へと分岐していく。

 ある少年は、電車の時間に遅れることのないように、歩調を早める。予定外に幕を降ろした練習のため、これを逃すとしばらく次はやってこない。

 透明なビニール傘をさした女性の背中を追い越して、踏み切りを駆け抜ける。刹那に左目を淡い閃光がかすめた。

 スニーカーが飛沫を上げる。街道を行き交う乗用車のタイヤが路面の水溜まりを巻き込む音。降りしきる雨の音。雲の影響で低くなった空が届けるどこか遠くの音。

 世界はあらゆる音で満ちていた。そして全てが混濁していた。

「うわっ」

 再び雷鳴が轟く。少年は咄嗟に身を屈める。背後で起きた落雷に、思わず振り返る。

 焦げた地面の代わりに、透明のビニール傘が落ちている。その奥に光る銀色の車体。開かれたままの遮断機。

 首を傾げた少年は、凄まじい衝撃の正体をどうやら勘違いしていたようだ。

 車から降りた大人たちが呆然と佇んでいる。列車は静物画のように微塵も動かない。

 少年の手がビニール傘に触れる。持ち上げると、傘の骨は折れ曲がり、掴むところがそっくり消えていた。壊れた傘は本来の役目を果たせなくなっている。

 銀色の列車。垂直にそそりたつ遮断棒。交差点から沸くクラクション。色のない信号機が雨煙の中に浮かんでいる。(了)


Out of order



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― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きの一文だから、遮断棒が垂直ということで合っているでしょうか? 文章がとっても綺麗で、想像する情景も綺麗に見えて、言葉の選び方が凄いなぁと思いました。 最後、女性がどうなったかが傘によ…
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