雷鳴
今朝の予報は見事に的中した。グラウンドに降り注ぐ雨は、銀色のヴェールとなって、辺り一面を覆っていた。
黒く塗り潰された空には、間隙なく雲が横たわっている。
「撤収だ、撤収」
監督の指示に背中を押されて、部員たちはゴールポストをグラウンドの角に運ぶ。しぶとくボールを追いかけていた仲間たちも、雷鳴が轟くや、橋脚のたもとへと逃げ隠れた。
雨足が減衰したところで、傘など持たないやんちゃ盛りは、お天道様にようやく帰宅を許された。
「じゃあな」
「ああ、またね」
一人、また一人とそれぞれの道へと分岐していく。
ある少年は、電車の時間に遅れることのないように、歩調を早める。予定外に幕を降ろした練習のため、これを逃すとしばらく次はやってこない。
透明なビニール傘をさした女性の背中を追い越して、踏み切りを駆け抜ける。刹那に左目を淡い閃光がかすめた。
スニーカーが飛沫を上げる。街道を行き交う乗用車のタイヤが路面の水溜まりを巻き込む音。降りしきる雨の音。雲の影響で低くなった空が届けるどこか遠くの音。
世界はあらゆる音で満ちていた。そして全てが混濁していた。
「うわっ」
再び雷鳴が轟く。少年は咄嗟に身を屈める。背後で起きた落雷に、思わず振り返る。
焦げた地面の代わりに、透明のビニール傘が落ちている。その奥に光る銀色の車体。開かれたままの遮断機。
首を傾げた少年は、凄まじい衝撃の正体をどうやら勘違いしていたようだ。
車から降りた大人たちが呆然と佇んでいる。列車は静物画のように微塵も動かない。
少年の手がビニール傘に触れる。持ち上げると、傘の骨は折れ曲がり、掴むところがそっくり消えていた。壊れた傘は本来の役目を果たせなくなっている。
銀色の列車。垂直にそそりたつ遮断棒。交差点から沸くクラクション。色のない信号機が雨煙の中に浮かんでいる。(了)
Out of order