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嘘は言ってません ただ言ってないだけです

嘘は言ってません ただ言ってないだけです(by次女)



 別に、と暦の家の愛される次女こと闇夜は思った。

 彼女は三つ子の末っ子にあたり、暦家の次女である。小さい時から長女である真白と光に守られて過ごしてきたが、ある時を境に真白を守ることで日々を過ごすようになった彼女。光とは、守られることがほとんどだが、基本は真白を守るという事にかけて共同線を張っている。が、最近はそうは思わなくなった。何故なら最近、光のスキンシップがちょっとずつ激しくなってきている気がするのだ。というより、アレは本当にスキンシップなのだろうか、と思ってきてもいる。


「もしかして……いや、そんなはずは」


 まさか…………と考えるが、すぐに否定する。だって昔からそうだったのだから、と。

 別に、光に対してそんな態度をとった覚えもないし、とられるようなことをした覚えもない。闇夜は記憶を辿っていくがそれらしいものは1つもない。と言っても彼女が物心ついて2,3年経った後の記憶しか残ってないが。

 闇夜は何でこんなくだらないことを考えているのだ? と考え、布団にもぐりこんで寝ようとした。……が、数十分経っても寝付けず、闇夜はがば、と起きると、キッチンへと向かった。

『寝れない時は温かいモノを飲むとよく寝れる』というが母の教えの1つだった。よくよく思い返してみると、あの母親、結構豪快な性格でしたねーと思う。酒には強く、父親が泥酔しているというのに母親の顔には赤のあの字すら見せず、そのうえものすごくいい飲みっぷりと評判だった。言葉使いといえば『おい! そっちに行くんじゃねぇ!』、『あ〜、何やってんだ! しかたねぇなぁ!』、『ぅん? 父さんなんかほっときゃいーんだよ』なんて感じ。しかも見た目17歳のおてんば娘。いや中身もだったが。でも根は女性らしい優しさだった。言葉使いは悪いもののその言葉にはトゲはなかったし、行動も常にガサツなそれではなかった。


「………………お母さんって何歳だったんでしょうか」


 若作りしてるようには見えなかったが、あの性格の所為で実際年齢はわからなかったのだ。聞けば『あー? お母さんはな、永遠の23歳だ。なんで23歳かって? いや23歳ならもう勉強しなくてもよさげだろ?』と言っていた。それを聞いた光が『俺も早く23歳になりたい!』と言っていたのを覚えてる。

 闇夜は牛乳をコップに注ぐと、電子レンジに1分ほどかけて入れた。


「あれ、闇夜だー」


 暗がりで見えないが、声で真白だとわかった。目が慣れてくると顔も見えてくる。


「姉さん。珍しいですね、こんな時間に」


 時間は0時を過ぎたところ。三つ子の消灯時間は基本10時なのでこんな時間まで起きているのは珍しい類に入る。

 レンジから温まった牛乳を取り出すと、真白はクスと笑った。


「それは闇夜もでしょ。ってか相変わらずだねー。『眠れない時は温かいモノを飲むとよく眠れる』だっけ。お母さん結構豪快だったからねー」


 その言葉に闇夜も頷いた。


「…………ちょっとお話しよっか」


 真白はそう言うと、テキパキとココアを入れてリビングに移動する。闇夜もそれについていき、姉の隣に座った。


「懐かしいなー。えっと今15歳だから……5年前か」


 真白は天井を仰いだ。

 豪快のくせに根は女性らしい17歳に見える母が死んだのは5年前、真白達が小学4年生の時だった。3人がいつものように色々話しながら家路につくと、そこには家中の物が散乱していた。ガシャン、と陶器が割れる音が奥からして、次にドサッと人が倒れる音がした。その音に、3人はすぐさま駆けつけると、そこには複数刺されて血まみれになって倒れている父と、先ほど陶器で殴られたらしい頭から血を流して倒れている母、そして見たことのない男。その左手には父親を刺したらしい刃物と、母親を殴ったらしい陶器の破片が握られていた。真白は、父と母の顔に生気を感じられないのを見た瞬間、恐怖よりもある感情が押し寄せてきた。殺意だった。真白は散乱している物から包丁を掴むと、男へと突進していった。が、真白の意識はそこで途絶え、真白が気がついたときには病院にいた。聞けば光と闇夜の制止を振り切って男の腹に包丁を深深と突き刺したそうだ。そして本来ならそこで真白の人生はほぼ終わったも同然だったが、真白が刺したその男は『裏』の人間だった。真白が気を失った後、2人がこの事を隠さなければと思っているところに、1人の男性が来た。それも、『裏』の人間で、そして殺戮技術学園の理事長だった。理事長が言った言葉は1つ。『私の所へ来れば、そちらのお嬢さんも一緒に生きていく事が出来るけれどどうする?』だった。真白が男を刺した今、2人はそれを隠す事をしなければいけないと考えていただけあって、2人はすぐさまソレに頷いた。


「そして行き着いた先が殺戮技術学園(ココ)だもんなー」


「色々ありましたけど、でもなんやかんやで理事長にはお世話になりましたし」


 裏の人間を殺したということあって、真白達は裏の人間として生きていくことを余儀なくされたが、三つ子で生きていく事が出来るならそんなのどうでもよかった。


「お母さんとお父さんには申し訳ないと思うんですけど、私今の生活結構幸せです」


「うん、それは私も……光も一緒だよ。きっと3人一緒だったからだね」


 ズズーとココアをお茶のように啜る真白。


「確かに、今やってるのは殺戮だなんて野蛮なモノだけど、私はそんなに嫌でもないんだよね。多分、昔みたいに『表』の世界で生きてたら有り得ないと思うけど、『裏』じゃ日常茶飯事だからさ」


 闇夜は姉が言わんとしていることがわかった。殺戮に対して普通と思っているわけではないけれど、別に特別嫌悪感を抱いているわけでもない。ただ今の自分達にとってソレがやるべきことなのだ、ということだろう、と。


「――――――姉さん。私は、どんなことがあっても姉さんを守ります」


 闇夜は牛乳を一気に飲み干すとそう言った。


「うん、ありがと。私も闇夜も守るから…………いや、闇夜にはいらないか。光いるし」


 そうじゃんねーと真白はポンと手を叩く。


「……え?」


「いや、ここはやっぱ『私も闇夜を守るからね』って言わなきゃいけないとは思うけど、アンタには光いるし、別にいいよねー。それに変な誤解されても嫌だし」


 闇夜はその言葉に、先ほどのことを思い出す。


「なななななななななななななななな何言うんですか!! 光だって私のこと守ってくれますけど、姉さんのことだって……!」


「何言ってんのー。光は昔から闇夜に一途じゃんかー」


 またまたーと手をヒラヒラさせて言う真白。


「ア、アレはただのスキンシップであって……!」


「え、マジで気付いてないの?」


「何にですか!?」


 ぜーはーと息を切らす闇夜に対し、真白は目を見開いて驚いていたが、その内ニヤリと笑った。


「闇夜、スキンシップだと思ってたんだー。光も報われないなぁ。可哀想にねー」


「違うんですか…………?」


「うん」


 姉の即答に闇夜は顔を真っ赤にした。

違うってことは違うってことは違うってことは違うってことはぁ――――――?!


「だって光、あんなにも闇夜に対して態度が違うじゃん」


「……………………う」


「アイツが(ワイヤー)の技術つけたのってどんな時でも闇夜を守るためだって言ってたじゃん」


「…………………………うっ」


「第一光がまともな行動するときは闇夜のためだけにしか動かないときだけだし」


「……………………うぅ」


 闇夜はその言葉にガクリと肩を落とす。


「そっかー、マジで知らなかったんだ。そりゃ報われないはずだわなー」


「それって、何時からですか……?」


「ん? 物心つく前からだって、本人は言ってたけど?」


 その言葉に、闇夜は奈落の底へ突き落とされたかのように、机に顔面から突っ伏した。


「でも、私は案外闇夜もその気があると思ってたんだけどなー」


 コップを片付けるべく立ち上がった真白に、闇夜はがばっと上半身を起こして言った。


「ね、姉さんは別にいいんですか?!」


「私は2人がそうやってくっついてくれるなら嬉しい限りだからね」


 その言葉に這い上がってきた闇夜は再度、奈落の底へと突き落とされた。

 真白はそれを見てクスリと笑うと、コップを片付けて部屋へと戻っていった。そのときに、


「姉さんは結構お似合いだと思うけどねー」


 なんて言葉を残して。もちろん闇夜には聞こえてませんが。

嘘は言ってないんです。ただ言ってないだけで。

……なんてそんな言葉が通じたら世の中やっていけませんよね。

言ってない時点でそこで作意的なものがありますし。

要するに騙してることには変わりないんですよね、きっと。

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