裸エプロンしてても包丁持ってたら台無しな気がします
裸エプロンしてても包丁持ってたら台無しな気がします(by次女)
がちゃり、と光がドアを開けたとき、そこにいたのは最愛の妹である闇夜だった。
その姿は制服にエプロンと普通だった。が、
「………………………………」
光は口をパクパクさせながらソレを指差す。
指された先は闇夜が手に持っている包丁。
そりゃ包丁持って移動するのはあれですが、エプロンを見れば、まぁ仕方ないか、という念にもなるものです。
が、闇夜の持っている包丁の先には赤い液体のようなものがついていた。
詳しく言うならば、少し赤黒くなってきており、乾いてきたのか垂れてきてる感もない。が、どうみても果汁には見えない。果汁のような水気さはないのだ。
「? ……あぁ、コレですか。大丈夫ですよ、辛うじて生かしてはいますから」
闇夜は冷めた声で言うと、ニコッと笑った。
そう、ニコッと笑ったのだ。いつも無表情の闇夜が笑うときは、楽しい、嬉しい、幸せ、という概念の真逆のことが起きた時なのだ。しいての言うなれば『安心しろ、そんなにヤベェことにはなってねぇから』と言っているようなものである。
「生かしてって…………だ、誰を………………?」
そういうと闇夜はさらにニコッと笑った。
「私だって身内を、しかも数少ない姉妹を殺すなんて酷いことはしません。ただ……人間ってキレる時くらいあるでしょう?」
さり気なく、包丁を構えて言う闇夜に、光はどんどん青ざめていく。
ヤバイ。マジ、ヤバイ。俺もしかして口封じに殺されちゃう? いやでも身内……あれ、数少ない姉妹って、俺いない感じ? ってことは…………?!
「大丈夫、今日もちゃんと美味しく作り上げますから」
闇夜がニコッと、さきほどのとは比べ物にはならないくらい笑って言う。
これは命の危機――――――――!?
と、光が思ったとき、
「やぁちゃんー? 何しゃべってるのー? お姉ちゃんお腹空いちゃったよー?」
と、奥の部屋から暢気な声が聞こえてきた。
「あ、ごめんなさい姉さん。今日は姉さんの大好物の鴨鍋ですから、期待しててください」
申し訳なさそうに奥にいる人間に謝ると、闇夜はパタパタとキッチンへと移動する。
「……………………………………え?」
あれ、いるじゃん。生きてるっていうか元気じゃん。ってかやぁちゃんってものすごく仲いい証拠じゃん。俺だってやぁちゃんって言いたいよ。せーの、やぁちゃ――――ん!! って、そうじゃないそうじゃない。つまり、あれは……
「ちょっとした冗談ですよ。真に受けるとは思ってませんでしたけど」
キッチンの方を覗くと、闇夜が2羽の鴨をさばいているところだった。もちろん、さばいている包丁には当然のように血がついている。
「というより、半分真実ですよ。この2羽は姉妹鳥ですし。ただやりにくくて、キレちゃったんですよ。姉さんが。で、今は落ち着かせるためにテレビを見させてます」
つまり……
「? ……あぁ、コレですか。大丈夫ですよ、辛うじて生かしてはいますから」(この辺は嘘)
「生かしてって…………だ、誰を………………?」
「私だって身内を、しかも数少ない姉妹を殺すなんて酷いことはしません。ただ……人間ってキレる時くらいあるでしょう?」(この辺は事実。言葉か足りてないだけ)
「大丈夫、今日もちゃんと美味しく作り上げますから」(この辺はものすごく事実を言ってるだけ)
……という、ただたんに光が早とちりしてただけですね。……え? 私はしてませんよ? ええ、もちろんですとも。………………ええ、してませんよ?
「俺、着替えてくる」
光はおぼつかない足取りで自室へと戻っていく。
その数十分後には、綺麗な食卓となって鴨鍋が出てくるのだが――――――光はそれ以来鴨鍋を嫌いになったそうな?
裸エプロン……本当にやる人がいるのでしょうか。
でもやったとしても包丁持ってるとなんか怖くありません?
『フフッ、今日はあなたが主菜よ』
って言われてるようで。
もちろん作者の妄想ですが。。。