はっぴぃばれんたいんー?
今回はバレンタインということで、本編からかけ離れた話となっています。てかこれもう舞台関係なくね? というツッコミはご遠慮ください。それでも読んでくださる心優しい方は、どうぞ↓↓
はっぴぃばれんたいんー?(by作者)
うーん、とキッチンで首をひねる者が1人いた。
闇夜である。
この間のこともあり、闇夜は毎年作るバレンタインのお菓子のことで悩んでいた。
「ここはいつも例年通りに渡すべき? いや、それともお礼の気持ちを込めるべき? いや、それとも思いっきり『義理』って書いて渡すべき?」
例年通りとなると、トリュフやらなんやらを作って真白と光に渡すというものとなる。ついでに、料理が駄目というか、芸術作品を作り出す彼女のお菓子作りもまた、壊滅的であるので、真白はホワイトデーに市販のチョコで3倍返しするのである。光はわざわざ市販の買ったうえに、凝った手作り菓子を作って返すのだ。そこには『俺の愛を受け取ってくれ!』なんて書かれているのだが。
お礼の気持ちを込めるとなると、例年のチョコに『いつもありがとう』なんて、いつも書かないことを書いて渡すことになる。が、そうすれば光のテンションが無駄に上がり、ホワイトデーのお返しも、さらに凝ったものになり『俺の愛を感じてくれ!』なんて書かれるだろう。え? 愛を受け取ってくれと、愛を感じてくれじゃ大差ないと? いえいえ、受け取ってというのはアピールですが、感じてくれはもうモロに俺たちお互い通じ合ってるぜー! なノリになっちゃうんです。……なっちゃうものなんです。
で、思いっきり義理と書くとなると……もう予想できますよね。きっとホワイトデーは例年通り凝ったものなんでしょうけど、『俺の愛を受け取ってくれ!』なんて書けませんよね。だって拒否られてるのにさらにアピるって、かなりウザい野郎でしかないですよ。
「……………………………………」
闇夜はしばらく悩み、そしてさらに悩み、そしてさらにさらに悩み、挙句の果てにもう何悩んでるのかわかんなくね? な次元に突入した所で、覚悟を決めた。
「別に、光のこと、嫌いなわけじゃないんです。だから、書くのであって、別に変な意味はないんです。本当、いつも光にはお世話になってますし、ただのお礼のつもりなんです」
闇夜は冷蔵庫から材料を取り出すと、生地をつくりはじめた。型に流し、オーブンで時間をかけて焼き上げる。香ばしい香りと共に出てきたそれは、チョコマフィン。そしてその3,4分前からお湯で溶かしていたペンチョコをお湯から取り出すと、先端をハサミで切って、マフィンの表面に文字を書き始める。
「いつも、ありが、とう……と。別に、いつものお礼って感じですよね? 変なところどこにもないですよね?」
強いて言うならいつもと違うパターンな所と、誰もいないのに一人ブツブツ言い訳している闇夜さんでしょうか…………いやいや冗談ですよ、もちろん。だから睨まないでください。一応生みの親なんですよ、私。
「姉さんのは、いつも通りでいいですよね」
真白の方には『最愛の姉さんへ』と書き始める。これがいつも通りって、中々変な光景ですよね。いくらバレンタインでも最愛のとかって結構奇妙だと思うんですよね。そりゃ思うところもあるでしょうけど。
闇夜はラッピングすると、そのまま冷蔵庫に入れた。赤い袋が真白で、青い袋が光のである。
「あとは明日、ふつーに、本当にふっっっっつーに渡すだけです」
普通言うのにどれだけ溜めるんですかアナタは、なんてツッコミはしません。敢えてしません。
闇夜は満足げに頷くと、使った器材を片付け、部屋に戻っていった。
その数時間後。真夜中。もう日付は変わってバレンタインデーに突入しただろうな時間。
基本10時が就寝時間である暦家にとって、こんな時間に起きている人間などはいないはず。が、いないはずなのに、キッチンに忍び足で入っていく影がいた。
「……大丈夫だよな」
キョロキョロと周りを確認するの影の正体は光だった。光は冷蔵庫に狙いを定めると、慎重な足取りで冷蔵庫へと近づいていく。狙いは闇夜の手作りお菓子と見える。冷蔵庫を開けると、そこには赤と青の袋。バレンタインのお菓子とわかるが、どっちがどっちなのかわからない。例年通りでいけば、赤は真白。青は光。性別でいえば、当然光は青である。が、闇夜の愛となると――――――――やっぱり当然光は青になるんですけどね。が、そうは思いたくない光は、思い切って赤の袋を掴むと、そのまま自分の手中へと収め、行き以上に慎重な足取りで部屋へと戻っていった。
そのまま時は過ぎ、朝日が昇った。闇夜は眠い目を擦りながら起き上がると、バレンタインのお菓子を渡さなければと思い、キッチンへと向かった。勘違いした光が赤色の袋を取っていったら困るからだった。もう手遅れだなんて言えませんけど。
冷蔵庫を開けた時、闇夜はあれ? と思った。袋が両方ともないのだ。片一方が無くなってては困るが、両方ないとなると、まぁ2人ともどっちがどっちかわかったのだろうと思い、まぁ別にいいか、と思った。
「ふぁ〜あー……。あ、闇夜。おっはよー。ありがたくお菓子いただきましたー。相変わらず美味しかったよん」
大きな欠伸を一発かまして登場したのは姉の真白だった。口元にはマフィンを食べた後が残っている。
「もう食べたんですか、速いですね。でも美味しかったのなら嬉しい限りです」
闇夜は今から食べる朝食を素早く準備すると、リビングへと移動した。
「いやー、今年はマフィンで来るとは思ってなかったよー。いつもとちょっと違ってたし」
その言葉に闇夜は首を傾げる。
ちょっと違ってたというのはお菓子の系統のことだろうか? 確かにマフィンを作ったのは初めてでないにしろ、何年ぶりかである。いつもは生チョコやらトリュフやら、はたまたただチョコを溶かして型に入れて固めただけなんてものであった。
が、闇夜が聞こうとしたときには真白の姿はなかった。
動くのも速いなー、と思いつつも、まぁいっかとその疑問を忘れる事にした。
そのとき真白は部屋に戻って、食べかけのマフィンをかじる。実はまだ食べかけだったのだが、忘れないうちにと闇夜にお礼を言いに行ったのだった。マフィンを包んでいたラッピング用紙を皿の代わりにして。もちろん、そのラッピング用紙の色が青色だなんてこと、闇夜は知る由もなく、真白が言っていた『いつもとちょっと違ってたし』というのが、ラッピング用紙の色が青色だったということを言っていたなんて、さらに知る由もない。
光はというと、部屋に戻って中に入っているマフィンを取り出すと、文字が書いてあるのに気付く。いつもは書いてないのになーと、思いつつも電気をつけた。そこにはせっかくペンチョコで書いたというのに、マフィンの熱さの所為で、すっかり染みこんでしまったぼやけた文字。かろうじて読めたのは『最愛』の部分で、そこだけ画数が多いが為に細く書いたからだと思われる。が、光にとっては『最愛』の部分が大事で、いつも『最愛の姉さんへ』なんて書いてることを知らない光は、
「(いや、姉に対して『最愛』なんて使わねぇだろ!? つーことは、アレだよ。やっと闇夜の俺のことに気付いてくれたってことだよ。そうだよな!? そうとっていいんだよな!?)」
顔を泣きそうにしてまで、そう思い込まそうとしている光を見ていると、『いやいや、それは『最愛の姉さんへ』って書いてあるんだよ』なんて言えなくなる訳で…………
闇夜は勘違いされることなくお菓子が2人に渡ったと信じ、真白はそんなことには気付かずにお菓子を頬張り、光は勘違いで1人浮かれ喜んでいる。
もちろん、それを知っているのは私と皆さんだけですが…………
『はっぴぃばれんたいんー?』
皆さんはいかがお過ごしになられるでしょうか。
前にも申しましたように、私の住んでいる田舎ではそう時めくようなことはございません。友チョコで盛り上がる程度でございます。
今回は勘違いな幸せが一応テーマなのですが……まぁ、光は普段から報われなさすぎだったので、今回は勘違いでもいいから幸せにしてやろうと。で、だったらバレンタインがいい舞台じゃないかと、そう思ってわざわざバレンタイン前日に書きました。ええ、鬱陶しいですよねこういうの。すいません、どうしても書きたかったんです。で、長ったらしいのもいやなのでそろそろこの辺で失礼させていただきます。
皆様が良いバレンタインを過ごされることを祈っています***