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異世界で始める金融投資!   作者: 鷹司鷹我
第一章 鉄道会社でのストライキ
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一章 第8話

 6月24日:ジャンベルン鉄道本社 大ホール 記者会見会場



「……よって以上の理由より、準公共機関と認定されたジャンベルン鉄道での争議権は認められていないものの、しかし従業員の方々の労働賃金の増額要求を、我々ジャンベルン鉄道経営陣は真摯に受け止め、来月より我がジャンベルン鉄道に勤める従業員の賃金を一律に引き上げることを決定致しました」


 レインフィールドはマイクに向かって、用意された原稿を一言一句そのままに読み終えた。


 そして彼女が読み終えると同時に、記者達の持ったカメラから何十ものフラッシュが発せられた。








「社長、お疲れ様でした」


 会見場を後にして、二人きりになったところで、ゴールドマンはレインフィールドにそう言った。ゴールドマンの労いに、レインフィールドは顔をほころばせる。


「まったくだよゴールドマン君。パシャパシャとシャッターを切られて大変だった。あんなにカメラで撮られたのはいつぶりだろう? やれやれ、私のような年増を撮る暇があったら、もっと若くて可愛い女でも撮影すればいいものを……」


 レインフィールドはそう言って「私なんて、それこそ賞味期限切れの売れ残りだってのにね」と笑った。


 しかしレインフィールドはそんな風に謙遜していたが、実際の所彼女の容姿はそれ程悪くはない。年の割にはむしろ、若く見える方だ。


 ゴールドマンもまたそう思っていたので、「いえ、そんなことないですよ」とレインフィールドを元気づけた。


「おや、嬉しいことを言ってくれるじゃないかゴールドマン君。……ははぁ、さては君、私のことを狙っているな? うん、よろしい。それなら今から、誰も来ない場所にでも行こうか、二人きりでね。そこでこの私の疲れた体を慰めてくれたまえ」

「……社長。いい加減にしないとセクハラで訴えますよ。だいたい社長が自ら、レンダ専務をセクハラで辞職させたことをお忘れですか? 人のこと言えませんよ」

「ははは、それもそうだ」

「……というか、こんな場所でそんな話をして、誰かに聞かれたらどうするつもりなんです? 変な噂が出回っても良いんですか?」


 しかしそんなゴールドマンの心配を余所に、レインフィールドは「なはは、君との噂なら望むところだよ」と笑う。


 だがしばらく歩くと、レインフィールドはそんな笑みを引っ込め、険しい顔つきになった。そして、周りに誰も居ないことを確認すると、小声でゴールドマンに尋ねた。


「……ところで、君の方はどうなっている? 頼んでおいた口封じは?」

「……」


 ゴールドマンは周りを見まわした後、レインフィールドにだけ辛うじて聞こえるように、耳打ちした。


「……一応、できる限りの手は尽くしました。恐らく、これ以上広まることはないでしょう。ただ……」

「ただ?」

「……送り主は依然、見つかっていません。社内の関係者は一通り洗いましたが、尻尾すらつかめていない状況です」

「……相手の方が一枚上手か」

「えぇ、残念ながら。このままだと最悪、第2第3の要求が来るかも知れません」

「……困るね、それは」


 レインフィールドはそうつぶやくと、頭を抱えた。


 とりあえず、今回の『賃上げをしろ』という要求は渋々受け入れた。しかし当然、レインフィールドらが未だにこの『謎の脅迫者』によって首根っこを掴まれていることに変わりは無い。そして脅迫者側からしてみれば、このまま『脅迫材料』を遊ばせておく道理もない。


 普通に考えれば、これから数日以内に、脅迫者が次なる矢を放ってくる可能性は極めて高かった。故に、一刻も早く脅迫者の身元を特定し、口封じを行わなければならない。


「ハッキリ言って、完全にお手上げです。敵の尻尾を掴むには、あまりにも手がかりがなさ過ぎる。指紋も残っていない紙切れだけでは、どうしようもありませんよ」

「なるほどね……それは困った」


 レインフィールドはそう言うと、腕を組んで立ち止まった。そして、天井を見上げる。


「手がかり無し、打つ手無し、為す術無し……無い無い尽くしか。いつぶりかね、こんなにも追い込まれたのは」

「……少なくとも私は初めです、レインフィールド社長」

「ふふ、そうだろうねゴールドマン君。君は優秀な男だ。きっと今まで、挫折なんて味わったこともないのだろう? まあ、かく言う私もそうだが」


 レインフィールドはそう言うと、楽しそうに笑った。


「……会ってみたいものだね、この人と。業界では『向かうところ敵無し』と恐れられる私達二人を、ここまで悩ませてくれるとは。一体どんな人物だろう?」

「さぁ、私にはわかりかねます。……それで、どうしますか社長? これからの対処は?」

「……うん、そうだね。とりあえず、このまま手がかりを探し続けてくれたまえ。ただし、それと平行して私と君の近辺を“監視”させよう」

「監視……ですか? 私と社長を?」

「その通りだ。敵はきっと、再び我々に要求を突きつけてくる。しかし、証拠は残さないだろう。ここまで注意深い相手なんだからね。そんなへまをやらかすとは思えない。故に“接触してきた瞬間”を押さえるしかない。唯一、敵に“肉薄できる”瞬間だ」

「……なるほど。つまり我々が囮になるという事ですか?」


 ゴールドマンの問いに、レインフィールドは「うん、そういうことになるね」と答えた。


「我々の近辺を見張っていれば、そのうち相手も接触してくるだろう。そこを取り押さえて、万事解決だ」

「……しかし、もし敵が我々に接触してこなかったらどうしますか? 私達は無駄な労力を払うことになりますが?」

「それは君、むしろ望むところだよ。なんたって、敵が向こうから『もう関わりません』と宣言してくれるようなものだからね。願ったり叶ったりだ。まあでも……」


 レインフィールドはそういうと、とても楽しそうな表情を浮かべ、


「……私としては、このお相手さんがそんな“つまらない人間”であって欲しくはないけどね」


 とつぶやいた。





 この会見の後、ジャンベルン鉄道の株価は当初の予想通り、ある程度下落した。しかしその下落も一時的なもので、三日ほどで下落は収まり、横ばいとなった。



 ……が、しかし。騒動が収まったかのように見えたその一日後。事態は急転する。


 6月28日から30日の間で、ジャンベルン鉄道の株価が急落し、同社株価の最低価格を更新することとなったのである。


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