表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で始める金融投資!   作者: 鷹司鷹我
第一章 鉄道会社でのストライキ
8/18

一章 第7話

「セージ。さっき連絡があったんやけど、ジャンベルン鉄道はアンタの要求通り、賃上げを行うらしいで」


 ヨーコは仕事場にやって来るなりすぐ、デスクで書類を調べていたセージにそう告げた。それを聞いたセージは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「……思ったより早いね。驚いたよ。決定にはもうちょっと時間がかかるもんだと思ってたんだけど。なんせ、事が事だからね。承認はそう簡単に得られないはずだ。もっとこじれるだろうって推測してたんだけどな」


 セージはそうつぶやくと、楽しそうに椅子にもたれた。


 労働者の賃金を上げるという行為は、労働者にとっては嬉しい限りであるが、しかし企業を経営する側や株主にとっては、出来ることなら避けたいものだ。


 何もないところから金は出てこない。だから賃金を上げると、その分どこか別の金が“奪われる”事になる。


 多くの場合、削られるのは『株主への株主配当』だったり、その企業の将来のために蓄えられる『財蓄』だったりする。株主や企業経営者からしてみれば、それは嬉しくないことだ。


 極論を言ってしまえば、企業にとってはそのような『株主配当』や『財蓄』を削ってまで労働者の賃金を上げることにメリットは無い。


『できるだけ安く、労働者を利用する』


 酷く悪人染みた考え方ではあるが、それがある意味”健全な”企業経営の鉄則だ。故に、普通なら賃上げは容易く行われないのである。(もちろん例外はあるが)


 だからこそセージは、この『賃上げ』が行われるのは、少なくとももう少し先だろうと予想していたのだが、しかしその期待を良い意味で裏切って、ジャンベルン鉄道の賃上げは行われたのである。


「なんか、ジャンベルン鉄道の上層部二人が無理矢理決定したらしいで。他の役員や株主の批判を無視して、押し通したそうや」

「……ふぅん」


 セージは椅子にもたれたまま腕を組むと、瞼を閉じ思案を始めた。


「……ま、大方『ここで賃上げして労働者の不満を解消しておくべき』とでも提案したんだろうね。さすがに、賃上げをしなければならない『本当の理由』を正直に言えはしないだろうし」

「そうやろうなぁ。……まあ、それを盾に脅してる私らが言うのもなんやけど」


 賃上げを行わねばならない理由。つまり『資金洗浄マネーロンダリングの事実を盾に脅されている』という状況。言うまでも無く、それを知られるわけにはいかない。


 恐らくではあるが、ヨーコの言った『賃上げを主張した上層部二人』というのは、この『脅されている』という事実を知っている者達だろう。


 そしてセージの考えでは、この二人はかなり“デキる”人間だ。


 現状を的確に把握し、どうすれば被害を最小限に抑えられるのかを理解する頭脳。

 そして、その“取るべき行動”を実行できるような人望人脈。

 なにより、資金洗浄マネーロンダリングという犯罪が行われている事実を知りながら、それを隠すことに一切のためらいを見せない『躊躇の無さ』。


 そのどれもが、彼らがそこら辺にいる『普通の人物』では無いことを物語っている。


 なにせ普通なら、こんな要求を突きつけられたが最後、どうして良いか分からず見当外れな行動を取ったり、どうすれば良いか分かったとしても、それを実行しうる権力を持っていなかったり、なにより罪悪感から、こんな隠蔽できないだろうから。


 だからそういう意味で間違いなく、この二人は世の中の”明”も”暗”も知り尽くした、百戦錬磨の企業戦士といったところだろう。




 セージはしばらく思案した後、ゆっくりと瞳を開けた。そして、不気味な笑みを浮かべ、ヨーコのことを見る。


「……ヨーコちゃん。その“上層部二人”についてもっと情報が欲しい。彼らの経歴、人物像、どんな思想を持っているのか……それを知っておきたい。頼めるかな?」


 セージの『調べられるか?』という問いに、ヨーコは「バカにすんなや」と言い返す。


「私を誰だと思ってるんや? どんな情報も調べ尽くす、天才情報収集家(インフォーマー)ヨーコ様やで。その程度の情報、簡単にゲットしてきたるわ」

「うん、それじゃあ頼んだよ」

「まかせときや。そいつらの愛人の数まで調べたるわ」


 ヨーコはそう答えると、踵を返してセージに背を向けた。


 しかし部屋を後にしようとしたところで、思い出したようにセージの方を振り向く。


「そういや、アンタこれからどうする気なんや? アンタの目論見通り賃上げがされるわけやけど、それで株価が落ちるのを、ただ見守るんか?」

「……」


 すでに述べたように、賃上げが行われれば株価は下落する。株価の下落によって利益を出そうと目論むセージ達からしてみれば、あとは“下がりきる”のを待てば良いだけだ。


 なので確かにヨーコの言うとおり、彼らはその“下落する様”を見守ればいいだけだ。


 しかしセージは、ヨーコの『見守るのか?』という問いを聞くと、意地悪く、まるで悪人のような表情を浮かべた。


「見守る? まさか。そんなの“つまらない”でしょ、ヨーコちゃん」

「あん? じゃあどうするつもりなんや?」


 ヨーコに聞かれると、セージは楽しそうに笑う。

 それは、大義名分を得た人間の、正義とは程遠い邪悪だった。


「因果応報。悪人にはそれ相応の報いを与える必要がある。当然だろ? この程度で終わらせるなんて甘っちょろい。ジャンベルン鉄道には、さらなる”爆弾”を落としてあげなきゃね。”正義の味方”として」




ブックマーク登録や評価もよろしくお願いします。

もし内容に関する疑問があれば、感想などで遠慮無くお聞きください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ