一章 第12話
余りにも久しぶりの投稿。
忘れていたわけではありません。
忘れていたわけではありません。
大事な事なので二回言いました。
「ジョージ・セプトンが……死んだ?」
ゴールドマンに『ジョージ・セプトンの死体が発見された』と聞かされ、レインフィールドは呆然とつぶやいた。その手は、驚愕と怒りに震えていた。
ゴールドマンは説明を続ける。
「7月3日、西のベルシア湾沖を航行していた漁船が、水面に浮かぶ彼の死体を発見しました。その顔面は判別できないほどに破壊されており、持っていた免許証とその指紋から辛うじて、彼がジョージ・セプトンだと判明したそうです」
「……他殺かい?」
「破壊された彼の頭部には、無数の弾丸が撃ち込まれていたそうです。ここまで残忍な殺し方をすると言うことは、恐らくマフィアによる報復かと」
淡々とそう説明したゴールドマンだったが、しかしその声色から、彼もまたこのことに胸を痛めていることが窺えた。
そして、レインフィールドもまた、ゴールドマン以上に驚きと落胆を隠せないでいた。
「……なぜだい? なぜ彼……ジョージ・セプトンは、身元を特定された? 我々ならまだしも、マフィアなどに『彼がこの件の首謀者である』などと言うこと、わかりようがないだろう?」
「……どうやら、レンダ元専務が関わったようです」
「レンダが?」
「はい。私達が事態の収拾に追われていたこの約1ヶ月、あの男は自らを嵌めた“黒幕”の正体を暴くことに執心していたようです。普段は仕事の出来ないレンダ元専務ですが、しかし社長も知っての通り、あの男の才能は『他者を嵌めること』にあります」
ゴールドマンの言うように、仕事の出来ないレンダが専務にまで成り上がれたのは、ひとえに彼が『他者を嵌めるのに優れていたから』である。
目の上の瘤である上司はもちろんのこと、出世して自分の障害になりそうな同期や部下。そのほかにも大勢。レンダによって『左遷された』者達は、数え始めればきりが無いだろう。そして、それによって失われた才能も。
レンダという男はそのように、まさしく『ジャンベルン鉄道の癌細胞』とも言うべき存在だった。
そして、その悪の手はジョージ・セプトンにも届いた。
「レンダは、他者の弱みを握ることに関しては天才。情報の収集は奴の十八番です」
「……つまり、敵の素性を調べるのはお得意というわけか」
「……これまでも社内紛争で、幾多の同胞を貶めてきた男です。ジョージ・セプトンの正体にたどり着くのも、そう難しくはなかったでしょう」
「……」
レインフィールドは、「はぁ……」とため息をこぼした。そして、悲しげな表情で外の景色を眺める。
「……まったく、あの男は最後の最後まで使えないクズだったな。いや、使えないだけならまだしも、ジョージ・セプトン氏のような素晴らしき才覚を持った男をよりにもよって……残念なことこの上ない」
「……おっしゃるとおりです社長。私も……残念でなりません」
これまで常に、経済の第一線で働いてきたレインフィールドとゴールドマン。これまで幾多の敵と戦ってきた彼らだからこそ、そしてジョージ・セプトンと実際に争った彼らだからこそ、よくわかった。ジョージ・セプトンという男は、ここで死ぬにはあまりにも惜しい男だと。
最強の敵。そして、怪物と呼ぶにふさわしき才覚。そんな恐るべき人物ジョージ・セプトンと戦った彼らは、彼に対して畏敬の念すら抱いていた。故に彼らは『死ぬにはあまりにも早すぎる』と感じずにはいられなかったのだ。
室内に沈黙が訪れる。それは、相まみえることの出来なかった敵に対する、黙祷のようでもあった。
しかし、そんな沈黙を破るかのように、レインフィールドの携帯電話が音を鳴らした。
――――プルルルルルルル……
横脇に置いていた電話が鳴り始めたのに気がつくと、レインフィールドはため息をこぼす。
最近は毎日のように、電話が鳴り続けていた。それも、その内容はどれも自分に対する文句だったり批判だったり、そういう耳の痛いものばかりだ。さすがのレインフィールドも、着信音を聞くだけで嫌気がさすノイローゼになっていた。
しかし電話に出ないわけにもいかず、レインフィールドは携帯電話に手を伸ばす。そして、電話主を確かめるべく画面を覗いた。
……が、誰からの電話かを知ることは出来なかった。
「……非通知?」
レインフィールドは訝しげに首をかしげる。どうやら電話の主は、自分の知り合いでは無いらしい。正体不明の何者かが、レインフィールドに電話をかけているようだ。
一瞬警戒したレインフィールドだったが、しかしそこはさすがに実力で社長まで成り上がった彼女だけあって、躊躇いもせずに電話に出た。
そして開口一番「誰だ?」と電話口の相手に問いただした。
『どうも初めまして、レインフィールドさん。突然のお電話、申し訳ありません』
電話の相手は、レインフィールドにまずそう謝った。その声から、どうやら若い男のようだ。
電話口の男は、まるで笑っているかのような声色で、言葉を続ける。
『あなたとは一度、こうしてお話をしたいと思っていましたレインフィールドさん。電話越しでも、こうして話せて光栄です』
「……御託は良い。本題に入りたまえよ。君は誰だ? なぜ私にコンタクトをとった?」
レインフィールドの問いに対して、顔は見えないが、しかし電話の向こうで男がニヤリと笑ったことが、レインフィールドにはよくわかった。
男は数秒の沈黙の後、ゆっくりとした言葉でレインフィールドに告げた。
『ジョージ・セプトン。僕について説明するなら、これだけで十分でしょう。Ms.レインフィールド』
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