序章
お爺さまから聞いた話なのだけれど、何でも200年前に居た僕のご先祖様は、それはもう大層スゴい人だったらしい。
どれほどスゴいのかというと、奴隷から世界一の大富豪になるような、そんなとんでもない才能の持ち主だったそうだ。
しかもそれだけでは飽き足らず、当時国を治めていた王貴族を全て討ち滅ぼして民主主義国家を建国し、あまつさえ世界征服も狙う、生粋の野心家でもあったらしい。
当時の人の言では、そのご先祖様はまるで『全てを知っている』かのように未来を見通し、社会の行く末を占い、誰も思いつかないようなことを成したと言う。
しかしそんなご先祖様も、さすがに老いには勝てず、晩年は奥さんと一緒に田舎で静かに隠遁生活を送ったということだ。
そして時が流れること200年。かの偉大なるご先祖様の子孫として、僕は生まれた。
ご先祖様の残した、恐らく子々孫々使い切れないだろう莫大な財産。そのおかげで、僕は一切の不自由なく、優雅な生活を送っていた。
家族に囲まれ、愛され、未来を約束された……誰もがうらやむ、そんな生活を送っていた。
……が、しかし。栄枯盛衰という言葉もあるように、ご先祖様の栄華にすがり200年間豪奢の日々を送っていた僕の一族の終わりは、あっけなく訪れた。
共産主義国家の誕生。
よりにもよって僕の生まれた国で、しかも僕の生きていた時代に、それは起きてしまった。
『完全なる平等』
その大義名分の元に、ご先祖様が残したあらゆる財産は国に取り上げられ、僕の一族は栄光を失った。
いやそれどころか、僕の一族が失ったのは財や栄光だけではなかった。
命すらも奪われたのだ。
『旧資本主義社会の豚』
平等を標榜する彼らは、僕たちのことをそう罵り、そして弾劾した。
お爺さまは、屋敷に乗り込んできた兵隊達の手によって殺された。
父さんは、燃えさかる屋敷から逃げ遅れて焼死した。
母さんは、僕の妹を庇って撃ち殺された。
妹は、殺された母さんの側を離れようとせず、そのまま殺された。
そして、僕だけが生き残った。
僕は逃げた。生きるために。殺されないために。
走って、走って、ただひたすらに走り続けた。
辛うじて持ち出せた僅かな財を手に。
僕を殺すべく追い迫ってくる、自称『正義の執行人』から、逃げ続けた。
そうして僕は、逃げ延びた。資本主義が社会を支配する隣国、第三民主主義共和国への亡命に成功したのだ。
……きっとこれまでの僕の人生は、他人から見たら『なんと不憫な人生だ』と思われるだろう。確かにそれは間違いではないかも知れない。
富を失い、家族を失い、母国を失った。そんな僕は端から見れば、きっととても不幸な人間だろう。
だけど……僕はそうは思わない。
かつて、確かに僕は恵まれていた。使い切れない程の財産と、僕を愛する家族に囲まれ、世界でもまれに見る恵まれた人生を送れていたといえるだろう。
でも僕は、それを幸せだと思ったことは一度もなかった。むしろ不幸だとすら思っていた。
生まれた瞬間から、全てが約束された人生。
それのなんと滑稽なことか。
なんとくだらないことか。
なんと退屈なことか。
僕はずっと退屈だった。自分の人生が。全てを『手に入れさせられていた』ことが。嫌で嫌でたまらなかった。
違うんだ。僕が欲しいのは栄光じゃない。
僕が欲しかったのは……戦いだ。
栄光を勝ち取るその過程、その道程に待ち受ける困難に立ち向かうこと。困難を楽しむこと。戦い勝ち取ること。それこそがまさに僕の求めていたものだったのだ。
僕は確かに奪われた。富も、家族も。それは間違いない。だけど奪われたことに関しては、むしろ感謝さえしている。奪われたことでようやく僕は、スタートラインに立つことが出来たのだから。
かつてご先祖様は、奴隷からたった一代で巨万の富を築いたそうだ。
なら次は僕の番だ。
僕に残された、僅かばかりの軍資金。それを元手に、今度は僕が成り上がってやる。
戦い、勝ち取り、困難に打ち勝つ。そうやって必ず、栄光を手に入れてやる。
今度は、僕自身のこの手で。
自分の人生を死ぬほど楽しんでやるんだ。
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