女子高生、おじさんを拾う
おじさんって、たまに急に飼いたくなるときあるよね。
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はぁ、またやっちゃった……。
思わず吐き出た、ため息。
後悔したって、もう遅いのだけど。
私の悪い癖、発動。
学校帰りにあの道を通った時点で、もうこうなる運命は決まっていたんだよね、正直。
けれども、それでも今回ばかりは本当に後悔してる。
「んー、どうしよ……」
私は、目の前で震えながら丸くなっている『それ』を見つめながら、肩を落とした。
――――また、拾って来ちゃった。
……。
……だって、仕方ないじゃん。
帰り道の道路脇で、消え入りそうに掠れた鳴き声が聞こえてきちゃったんだもの。
いけないと思っても足が止まらなくて。近寄ってみたら、小さくなって震えながら鳴いてて。
放っておけるわけないよ。
本当は鳴き声なんて聞こえなかったふりして過ぎ去れば良かったんだけど、私の胸が痛むから、それはできなかった。
「あーあ、今度こそ、絶対ママに本気で怒られる……」
私が捨てられた動物とかを家に連れ帰ると、ママは毎回ものすごく怒って、すぐに捨ててきなさい、って怒鳴ってくるんだよね。
今回も――――っていうか今回は特に、言われちゃうかも。
だって、捨て猫とか、捨て犬だって、怒るママだよ?
こんなの拾ってきたって言ったら、どんな風になっちゃうんだろう。
心配になりながら、けれどもあんまり不安にさせたらよくないから、私は目の前で怯えたように震える『それ』の頭を撫でてあげた。
「よしよし、大丈夫だよ。私が、ママを説得してみるから、ね?」
私が顔を覗き込むように優しくそう告げると、目の前の『それ』は潤んだ瞳でコクリと頷く。
「う、うぅっ……うん、おじさんは、ここにいたいよぉ」
目の前で、おじさんが甘えるように泣いていた。
鼻水を垂らしながら、私のほうを見上げて。
「私だって、飼ってあげたいんだけど……」
そう。私が、学校帰りに思わず拾って帰ってしまったのは――――――おじさん。
犬とか、猫とか、そういう動物じゃなくて、ダンボールに捨てられた、どこにでもいそうな雑種のおじさん。
たとえ血統書つきのおじさんだって、きっとママもパパも許してくれないはずなのに、こんなに薄汚れた捨ておじさんなんて拾ってきちゃって。
本当、失敗したかなぁ。
やっぱり、拾わない方が良かったかな。
絶対、捨てて来なさい、って言われるだろうなぁ。
「くぅぅぅん……」
おじさんが、裏声みたいな声で鳴いた。
私が暗い顔していたから、心配になっちゃったのかな。
「ううん、大丈夫。きっと飼ってあげられるから」
だから私は、無理して笑顔を作った。
「とりあえず、お風呂……入ろっか」
ママが仕事から帰ってくるのは、だいたい夜の7時。
時計を見上げると、あと1時間くらいは帰って来ないと思う。
このまま待っていてもしょうがないし、お風呂に入れてあげないと。
ずっと外に出されていたせいで、このおじさん、正直ちょっと臭いがきついし。
洗ってあげなきゃ。
おじさんは、犬とか猫と違ってちゃんとお風呂に入れてあげないと、半日で獣臭というか体臭が充満してくるから、割と世話が大変なんだよね。
「お風呂……?」
私の言葉を聞いていたおじさんが、くりっとした目で見上げてくる。
「そう。お風呂はきらい?」
「ぐひひ、お風呂、好き。ぐふふ♡」
おじさんは表情を綻ばせながら、鼻の下を伸ばして嬉しさアピールしてきた。
よかった、お風呂は苦手じゃないみたい、このおじさん。
「おふろ、ぐひひ、ひゃっほぅっ♡♡」
「――――っ!?」
って安心していたら、おじさんが嬉し過ぎて興奮して、まだ制服姿の私に思いっきり抱きついてきた。
「えっ、ちょ、ちょっと……!?」
「ふふっ、ふひっ、ぶふーっ♡♡」
「ちょっと、もぅ喜びすぎっw」
鼻息を荒くしながら、まだ不潔なカラダで抱きついてくるから、私の制服が汚れちゃった。あーあ、後で洗わなきゃ。
さすがに自分が拾ってきたおじさんとは言っても、洗う前に抱きつかれるのはちょっと嫌だった。
けど、ちゃんとお風呂入れてもらってなかったわけだし、嬉しくなっちゃうのは仕方ないよね。
「ぐひひひ、すーっ!はーっ!んぶほぉぉぉぅっ!」
おじさんは更に鼻息を荒げて、私のスカートの裾を引っ張りながら、太ももにすりすり頬をくっ付けてくる。
「ちょっと、おじさん!くすぐったいよ!w」
もしかしておじさん、甘えてるのかな?
それとも、私のことを慕ってくれてるアピール?
よく分からないけど、私のことすごく好きなんだなって反応を見せてくれるから、良かった。
気に入ってくれてるみたい。噛まれたらどうしようって思ってたけど、全然大丈夫そうだし。
これなら、すぐに懐いてくれそう。
「あぁ、かわいいなぁもう」
私は、手入れのされていないくしゃくしゃの髪を撫でてあげながら、おじさんに愛情を注いで上げる。
相変わらず、頭皮もカラダも臭い。けど、本当のおじさん好きは、このクサい状態の臭いも愛せるんだって言ってた。私は、おじさん好きとしてはまだまだかな。
私も慣れたら、癖になったりするのかも。楽しみ。
「うひっ、うひひっ♡」
「もうwちょっと、そんなに興奮しないで。準備するから待ってて」
私はくっ付いて全然離れようとしないおじさんの手をぎゅっと握って落ち着かせると、「部屋で待ってて」と伝えて、一人で出て行った。
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おじさんは、すごく甘えん坊さん。
特に、若い女の子にはすごく懐いてくれるから、私は好き。
せっかく拾ったんだから、これから毎日散歩に連れて行って、お風呂に入れてあげて、エサをあげて、一緒にくっついて寝て……。
たくさん、お世話しなきゃね。
「あーあ、ママとパパ、なんて言うかなぁ」
お付き合いいただき、ありがとうございました(⑅•ᴗ•⑅)