9、民謡
今日風邪引いちゃったので短いです。すいません。
「ここが保存庫、、、。」
セイディーが感嘆の声をあげているのも無理もない。
あれから規則を破った時の罰金など、色々説明された。そして、革手袋を装着させられ、通されたのが此処だ。此処は円形の部屋で、その壁一面に壁用に作られたらしい書棚に書がぎっしりと並び、窓が取り付けられた天井から夕暮れの光が差し込み、何とも神秘的な部屋だった。部屋の中心しは、本を読む為らしい机があった。
「ほら、じゃあ探すぞ。」
こうして、俺達は夢中でその伝記を探した。
「あったよ!」
最初に見つけたのはセイディーだった。でも、他にも色々な出版社の違うものと比べ合わせたいので俺たちはその他に五冊ぐらいを見つけ出した。
「この位でいいだろう。」
「疲れましたね、、、、、。」
これは、かなり重労働だった。本一冊一冊が分厚くて重いし、何段にも積み重なっていたからだ。
「まあ、気持ちを切り替えて読むか。」
「そうですね。じゃあ、俺がこの二冊読むので、あとは二人で残りの半分ずつ読んでください。」
「ああ。わかった。」
こうして、それぞれが分厚い本を読み始めた。
俺の一冊目の本は勇者エリルの偉業が詰まっているだけで、嘘っぽいところもかなりあったが、二冊目の本は、本というより研究資料みたいな感じで、かなり良いことが書かれていた。ざっとまとめると、
1、勇者エリルと魔王カルエルは両方とも光属性と闇属性を持っていて、両方とも昔は強さのために皆に好かれていたが、魔王カルエルはある日衝動的な犯罪を犯してしまい、どんどん闇に喰われていき、最終的に魔王になった。
これはちょっと良く意味が分からなかったが、闇に喰われていく、というのが鍵かもしれない。
2、犯罪、というのが本当にあったのかどうかは実際の所分かっていなくて、一見村人たちが陥れるための嘘のように見えた。ただ、本当ではなければ闇に喰われていった、という説明がつかないので、一応そういう事になっている。
3、魔王カルエルが元からひねくれた男で、強さを手に入れたから下の者たちを虐め初め、その天罰だともいわれている。
これはかなり良い情報だ。上の二つの情報は、権力のあるカルエルの顔を立てるために良い人だ、というでっち上げから来たかも知れないからだ。まあ、カルエルが本当に闇に呑まれ、それからの悪印象の為に元々性格が悪かった、という事になったのかもしれないけど。
どっちにしろ、カルエルは何かのきっかけで魔王になってしまったのだ。そのきっかけを探してみたが、結局この書には書いていたなかった。
闇に喰われって言ったと書いてあったが、その「闇」とは何なのだろう。もしもその「闇」が意図的にカルエルを事件に巻き込ませたとすれば?村人達が陥れるための嘘のようにも見えたと言っているが、それも「闇」による指示なのか、それとも村人自体が「闇」なのか?
どの疑問も、俺が読んだ書だけでは解けなかった。俺があれこれ考察しているうちに、シリルさんが読み終わった。
「どうでしたか?どういう内容でした?」
「ああ、俺は勇者エリルについての情報が載った書を読んだんだけどな、勇者エリルは、ある出来事によって、光に呑み込まれたらしいぜ。ったく、馬鹿らしい。でだな、光に呑み込まれた後、なんか凄い力を手に入れ、それを使って魔王を倒したんだと。これじゃあただの昔話じゃあねえか、ったく。」
「そんな事も無いですよ。だって、魔王カルエルも闇に呑み込まれたらしいですから。ある事件をきっかけに。」
「本当か!?それで、その事件ってのは何なんだ!」
「それが分かれば早い話なんですけどね。」
「待って、それって!あの民謡じゃない?ユクリート家に代々伝わっている!、、、光に呑まれ授かりし力 我らの先祖様 あなたは今も天で見守ってる事でしょう 私達を そして忌まわしき闇に呑まれたものを、、、。」
セイディーが歌いだした民謡は、幼いころから聞きなれたものだった。何故早く気付かなかったのだろう!待てよ、という事は俺達の先祖様は、勇者エリルという事か!
「待てよ、お前ら。」
熱血した場に、シリルさんの氷のような声が響いた。
「何で、ユクリート家に代々伝わっている民謡なんか知ってるんだ?」
「「え?、、、、、、、、、、」」
俺とセイディーの声は、見事に重なった。
「え?いや、それは、、、、ですね、、、」
セイディーが助けを求めるように俺の方を見た。
「あの、あれですよ、従弟の友達の親戚の子供がユクリート家の子供だったから、、、、、、、?」
これで良いかな、という視線をセイディーに送る。
「お前ら、知ってたか?一族の民謡っていうのは殆ど外には漏れないんだぞ。それが、一族のいい歴史や、時には悪い歴史も語っているからな。」
「、、、、、、、、もう、良いんじゃない?」
セイディーが同意を求めるような目で此方を見てきた。
「あのな、、、、、俺がそんな事外部の奴らに漏らしたら、ユクリート家の権力で俺まで殺されるぞ?それに、お前らの事を妙に詮索したく無いんだ。こうなった以上、お前らがどういう存在なのか知る必要があるだろ?そんなことはないと思うが、ユクリート家からのスパイか何かかも知れない。だったら、俺も行動を起こさなくてはいけないんだ。でも、お前らの事を信じてるから言ってるんだぞ。」
シリルさんの目は真剣だった。
「、、、、、、分かりましたよ、、、、。」
この言葉を聞くと、シリルさんは表情を緩めた。
「じゃあ、此処に長くいても金取られるだけだし、読み終わったんなら、早く帰ろう。」
その言葉に促されて、俺達は図書館の外へと向かった。辺りは夕焼けを少し通り過ぎたような薄暗さで、自分たちがそんなに長く本を読んでいたことに驚いた。
「じゃあ、飯でも食いながら話し合うか。」
シリルさんは少し事務的なところがあるから、当たり前のように夕ご飯を誘ってくるのに少々驚いたが、きっと今日の図書館での事とか、串焼きの事とかで、いつの間にか打ち解けていたのかも知れない。シリルさんの提案に真っ先に乗ったのは、セイディーだった。
「あ、それなら良いところがありますよ。私達の宿屋に付いてる食堂なんですけど、質が良くて、割引もしてくれるから、一緒に行きませんか?」
「おお、あの、ユクリート家のボンボンたちが美味しいというんだから、相当美味しいんだろうな。」
「そんなんじゃ無いですよ。」
そんな事話しながらを、俺達は宿へと向かった。