7、勇者エリル
「まず、光属性というのは、回復魔法と補助魔法に長けている、これは知っているだろう?」
「はい。」
「それで、まず、セイディーが持っている水属性だが、光属性とはかけ離れた属性だ。光と言うのは、聖なる属性だから、攻撃は出来ない。ただ、水魔法は、攻撃に向いているんだ。だから習得にはかなり努力が必要になるだろう。」
「それから、アルド、お前は光属性と闇属性を持っている。これは、二つ持っていると、両方合わせて使うことができる。氷属性と雷属性もそういう効果がある。ただ、そもそも属性を二つ以上持っている人は少ないし、こんなレアなケースは見たことが無い。普通、闇属性というのは人族にはほとんど無いんだ。あったとしても、闇属性の効果で、幼いうちに死んでしまうんだ。でも、アルドは光属性を持っているからなんとかなったんだろう。ただ、光属性と闇属性を持ってる人なんて、1000年に一度ぐらいの確率で生まれる、まあ、ぶっちゃけた話伝説なんだよ。」
「はぁ。」
なんていうか現実味が無さ過ぎて何とも言えない。あ、そういえば講義で習ったことがあったな。
「だから、何もわかってないんだ。闇属性の魔法とか、どうやって一緒に使うのかとか。」
「マジすか。」
「そういえば、経験値1というのは何なんだ?魔法をいつ、どこで使ったんだ?」
「自覚が無いんですけど、多分二週間ほど前、ギルドに行った帰りに襲われそうになって、気づいたらクレーターが出来てたんですけど、これって魔法ですかね?」
「ああ、間違いないだろう。だが、クレーターは土属性の魔法だぞ。お前、土属性も持っているのか?いや、まさかな。あの水晶が間違ってるわけがないか。」
土魔法?だが俺は呪文さえ唱えていなかったんだぞ?それに属性でもないのに、どうやって?
シリルさんも黙って少し考えていたが、
「どうだ、考えても分からんし、図書館へ行こうじゃないか。近くの図書館は古文も多くて1000年分の知識と言われる位なんだから、何か分かるだろう。」
と言って、考えるのをやめた。
「今からですか?」
「もちろんだ。」
「でも訓練は?」
「これも訓練の内だ。」
ということで、図書館に行く事になった。
「そういえばもう11時だし、行く途中になんか食うか?」
「そうですね、、、、、、。」
「何が食いたいんだ?」
「別に何でもいいですけど、セイディーは何が食べたいんだ?」
「シリルさんの食べたいものでいいですよ。」
「じゃあ、串焼きでも食うか?ここの串焼きは美味いぞ。」
そういうと、ある屋台の前で止まった。
「じゃあそうします。」
「全く可愛げのない奴らだな。なんかもっと我儘言えばいいのに。」
「そうですかね?」
苦笑いしてしまう。昔から可愛げが無いと言われ続けていたから、なんともいえない気持ちになった。
「おじさん、いつものやつ12本!」
「今日は連れがいるのか?」
「ああ。ガキどもだよ。」
「楽しそうだな、はいよ、12本!」
「え、、、、ちょっと待ってください、8本何ウォンですか?」
セイディーと俺が焦って支払いを終わられようとするシリルさんを止めるが、結局、列の後ろの人に睨まれてその場を立ち去ってしまった。
「本当に可愛げが無い奴らだな!奢ってやるって言ってるだろ!」
「いや、本当にいいです。」
「お前ら、自分が貴族様かなんかだとでも思ってるのか?こういう時は奢ってもらわなきゃいけないんだよ。」
俺とセイディーの動きが一瞬止まる。俺は違うけど、セイディーは一応まだ貴族だ。的確な事を言われ過ぎて反応が遅れる。
「お前ら、両方とも光属性もってるから、、、、、、なんだったけ、あの、あれだ、ユクリート家!お前の目の色も緑だしな。ユクリート家の子供でもなきゃ人に奢ってもらうっていう事を覚えなきゃいけないんだよ。分かるか?」
「えっと、、、、、、」
こういうのを勘と言うのだろうか?いや、ただの偶然の気もするが。
「分かったか?じゃあ食え。」
俺達が押し黙ったら、分かったということに解釈したのか、シリルさんが上機嫌そうに言った。
「、、、、、!」
一口食べた瞬間、セイディーが驚いたように目を見張った。
「どうだ?上手いだろ?」
「凄く美味しいです。」
「ほら、アルド、お前も食え。」
言われるがままに串を口まで運ぶと、匂いだけで分かるほど、美味しかった。まず、外が少しカリカリとしている肉をかむと、中は柔らかくてジューシーで、ついているタレとよく合っている。炭火焼の肉の香ばしい香りが、さらに食欲をそそる。タレは甘しょっぱく、肉の味を引き立てている。初めて食べた物だが、こんなに美味しいとは。
「二人とも気に入ったみたいだな。でもいいか、お前ら。屋台物はこうやって食べるんだ。行儀よく食べても美味しくねえだろ。」
シリルさんがそう言って、豪快に焼き肉をむしり食べた。
「はあ。」
セイディーは困ったような苦笑いをしながら、焼き肉をほおばった。
「全く、お前らには一生経っても出来なさそうだな。本当に貴族なのか?」
「そんな事よりシリルさん、あれが図書館なんじゃないですか?」
公共施設が多く建ち並ぶ中、図書館は昔ながらの木製の建物であり、最も大きかった。その存在感は圧倒的で、『千年の分の知識』と呼ばれるのも分かる気がする。
「そうだ。あそこが図書館だ。」
「大きいですね。」
「でも器は狭いぞ。」
「どういうことですか?」
「入館に銅貨一枚、1時間おきに銅貨1枚ずつ増えていくから、図書館を出る前に、時間×銅貨1枚払わなくちゃいけないんだ。貸出なんて金貨三枚だし、ほとんどの本は貸し出せない。」
「、、、、、凄いですね。」
「まったくだ。」
「じゃあ早く食え。行くぞ。」
「あ、ちょっと待ってくださいよ、、、、。」
セイディーはご飯ものは冷たいものよりも早く食べることができるが、やっぱり遅い。
「串焼きをこんなに綺麗に食べれる奴は見たこと無いぞ。」
「、、、、そうですか?」
セイディーは食べながら喋らないので、返答までに時間がかかった。
「ほとんどの奴は口の周りにタレをベッタリつけるからな。」
セイディーが顔をしかめる。それはそうだろう。小さい頃、ユクリート家でそんな事したらそういう事がどれだけ行儀が悪くて見苦しいのかを小一時間説教された後、めちゃくちゃ厳しい人の監視下でもう一度その料理を食べさせられる。その間、ずっとグチグチ言われ続けるので、ゆっくり食べることもできない。だから、口にタレを付けるのは、とても行儀が悪くて下品に思えるのだ。
「まあ、いくら言ってもどうにもならなさそうだから好きに食べると良い。」
最終的に、シリルさんは呆れた様子でそう言った。
「食べ終わったか?じゃあ、行くか!」
五分ほどして、セイディーが食べ終わったので、俺達は図書館へと向かうことにした。
中に入ると、本特有の木の匂いと、埃臭い匂いに包まれた。
「入場でしたら、銅貨一枚でお願いします。なお、館内の資料や本を素手で触る、館内での飲食、勝手な借り出し、資料や本を乱暴に扱う、などの行為はお止めください。」
「随分厳重なんですね。」
「ええ、此処では最新の資料から100年、500年、1000年ものの資料まで扱っておりますので。」
千年分の知識って、そのままの意味だな。にしても、読書家の為の本を置いてあるような所ではなく、資料などを扱ってる施設なのか。しかも1000年ものとは凄いな。厳重に管理されている訳だ。
「いいか、手前側、右側から新しい資料が並んでいる。でも、種類には分かれていないからな。光と闇属性なんて相当いないし、なんか手掛かりあるか?」
「あ、そういえば面白い話を聞いたことがあるんですけど、1000年前の伝説、『勇者エリル』ってなるじゃないですか?その話に出てくるエリルと、魔王カルエルは、どっちも光と闇属性だったらしいですよ。」
勇者エリルとは、千年前に書かれたある資料から分かった話で、今では有名な昔話になっている。勇者のエリルが、人々を困らせていた魔王カルエルを退治した昔話でありながらも実際に存在していた物語だ。
「じゃあ千年前の資料を調べればいいんだな?、、、だがな、千年前か。」
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、なんたって千年前だからな。古いし貴重なんだよ。だから貴重に、保管庫に管理されているんだ。まあ館員に頼めば入れてくれるんだろうけど、、、。あれがよ。」
「お金、ですか?」
セイディーが心配そうにシリルさんを見上げた。
「ああ、金貨一枚だ、、。まあ、俺が出してやるよ。」
「え?良いんですか?」
「いいか、俺はお前たちを教えることでお金をもらっている。だから勉強のためにケチったら駄目なんだよ。」
そう言いながら係りの人へ問い合わせているシリルさんの背中は、なんというか、格好良かった。




