3、サランダ村までの道のり
すいません。もう少し短い話が続きます。
「もう!心配したんだかね!」
セイディーが目に涙を溜めながら言った。
「、、、、、」
違う、別に変な気があるわけではないのだが、一年に一回の家族的な宴会の時も一人で部屋に閉じ込められてた俺がセイディーと会ったのは約二年ぶりだ。文通はしていたが、実に二年ぶりの再会という事になるのだが、二年でかなり容姿が変わった。
「なんか言ったらどうなの?」
「あ、ごめんな。っていうか、どうしてお前がここにいるんだよ?」
「それは、その、色々あって、付いてくることにしちゃった。」
「へ?」
一応言っておくが、「え?」じゃなくて、「へ?」だった。
「だって、、、。」
セイディーが、拗ねたような素振りをして最後には俺の方を振り向いてニコッと笑った。顔が赤くなるのが分かった。
にしても、綺麗になったな。
二年ぶりにみたセイディーは、まだ子供っぽさが残ったままだが、それでも少し大人っぽく、綺麗になっていた。昔はツインテールにしていた髪をショートカットにしたもが、良く似合っていたし、動きやすさを重視したようなショートパンツがすらりと長い足に似合っており、エメラルドグリーンの目が昔より輝いていた。
「な、何?私なんか変かな?」
「あ、いや、なんでもないんだ。ところで、叔母さん達にはなんていったんだ?というより、付いてくるってどういうことだよ?」
セイディーの腰に付けられた魔法袋の容量が分からないのでなんとも言えないが、アイテム袋以外に何か持ってきている様子が無かったし、付いてくるというのが、「見送りに来る」という意味かも知れない。見送りにくる、っていうのも問題だが、、、。
「え?どういう事って、、、最低限に必要なものだけ持ってきて家飛び出しちゃったって事だよ?なんかさ、駆け落ちみたいだね!」
「飛び出したって、お前、もしかして、本当についてくるつもりなのか?俺はこれから冒険者になるつもりなんだ。だから、悪いけど、、、、、」
「冒険者?じゃあ私は僧侶やるね!」
「え?そうじゃなくて、俺が言いたいのは、、、、、」
「ねえ、アルド、私は本気なの。」
セイディーが、我慢できなくなったように、いきなり大声をあげた。
「え?」
「私も、迷ったけど、一晩中考えて決めたことなの。っていうか、何年か前からアルドが勘当されるのは目に見えてたから、ずっと考えてた。いつかアルドが勘当されたらどうするか。何年も考えてこの結果をだしたんだよ?」
確かに俺の勘当は決まったようなことだったので、魔力が伸びなくなったころから勘当するか何かに使うために手元に残すか、という話になっていたが、結局世継ぎや、世間体の問題で裏向きは勘当、表向きは病死という事にする、というのは本家では知られていたし、宴会や、家の行事に出てない時点で、分家もうすうす気づいていたのだろう。
「私も家を離れることが、婚約破棄することが、正しいことなのか、そんな親不孝していいのか、迷ったけど、でも、アルドを選んだんだよ!なのにアルドは、私の事なんてどうでもいいの?!!」
こんな美少女相手にこんな場面でこんなこと言ってシリアスな雰囲気ぶち壊したら駄目かも知れないけど、文通の仲だったし、昔も友達的な仲だったんだよ?え?何でそういう事になってるの?
「えっと、、、本当に、後悔しないのか?」
まあ、取り合えず本人の思考を聞いてから決めてもいいよな。なんか説得出来なさそうだし。それに、本人が本気なら、俺にも責任があるかも知れないし、勘当された身だから家まで送れないから心配だ。それに、セイディーはクルドのことが嫌いだ。セイディーは努力家だから怠け者のクルドに良い感情を持っていないのは見えていた。強制的に嫌いな人と結婚させられるぐらいなら冒険者の方が、もしかしたら、幸せなのかもしれないし。
「当たり前でしょ!知ってた?私はずっと苦しかったの。あの家でお父様が悪事をしているのを止められなかった。はっきり言って、出ていきたかったの。」
マジか、、、。まあ、それなりに大きな家だったので、あり得るかも知れないが、伯父さんがセイディーの前でそんな事をしているとは思っていなかった。
「ねぇ、お願い。私、帰ってもあの気持ち悪い男の妻にならなきゃいけないのよ。」
これは、、、。きっと、セイディーにとってはこっちの方が幸せなのか、、、、?(【下心】涙ながらの訴えにロックダウンされました。なんだよ、その良い感じにウルウルした目は!?)
「、、、、、、、、、そうか、その答えで俺も決心出来たよ。じゃあ、これからよろしくな。」
「うん。全く、アルドは金銭感覚が無いから、さっきみたいな詐欺師に遭うんだよ。」
「さっきは本当にすまなかった。」
ずっと家と学校でしかでしか過ごしていなかったので、町に来たのも祭り以来だ。しかも町に来てもお金のやり取りは基本護衛にやってもらってたし、金銭感覚が全くと言っていいほど無い。
「取り合えず、サランダ村のギルドまで行きたいから、サランダ方面まで行ける馬車を探そう。」
「うん。」
それから少し歩いて今度は親切な商人に会って、料理や洗濯や馬の世話を手伝うという条件付きで格安で、大きな布で覆われた荷車のようなものが付いている馬車に乗せてもらえることになった。荷車には、寝室のような、布団が敷いてあるスペースの隣に、木製の机が置いてあった。その机で料理をしたり、食べたりするそうだ。
ーその夜ー
「え?!冒険者になるのか?」
「はい。そうですよ。」
俺は今、カミルさん、馬車に乗せてくれたおじさんと話していた。セイディーは、家事全般をやってくれて、色々あったし疲れたのか寝ている。馬車の操縦をしているおじさんの横で、夜の冷たい風を頬に感じながら、月明かりの中、小一時間は喋っていると思う。
「冒険者って、最近多いよなあ~。でも、せいぜいお小遣い稼ぎ程度に思っておいた方がいいぜ。」
「何故ですか?」
「何故ってそりゃ、最近冒険者の需要が減って仕事が来なくなるからだよ。最近急激に成長してるだろう。その裏では、騎士団とか役人とかが働いてるわけだ。役人は勢力を付けようと、自分の領地を改善する為に、大抵のことは部下にやらせてるのさ。冒険者のするべき、魔物退治やそれ以外の依頼も。」
でも何故そこまでこだわるのか?部下に冒険者の仕事をさせるより、政治の仕事にした方がいいんじゃないか?一瞬そう思ったが、四年ほど前から始まった制度の事を思い出し、その疑問は消えた。それは、選挙制度だ。なんでも横流しをしたり市民に横暴な振る舞いをする役人が増えたようで、市民、町民の選挙により役職が決まるらしい。つまり、その選挙のため、町民にいい印象を与える為に役人が動いている、というわけだ。
「ってなわけだから、騎士団か何かに変えたらそうだ?ランク、上がりにくいぞ。」
ランクは、EからSまでの六つで、経験値、達成した依頼の難易度で決まる。といっても、依頼の難易度は、例えばEランクだとすると、EかDランク用の依頼しか受けられない。
「でも、これだけは譲れないというか。」
月明かりに照らされた、涙でびしょびしょのソフィーの顔を思い出すと、なんとも言えない気持ちになった。でも、せめてソフィーの最後のお願いだけは叶えてあげたい。それに、騎士団に入ったらセイディーは確実に目立ってしまって、家に連れ戻される可能性も高い。
「そうか。そうか、、、。いや、深い訳は訊かねえーよ。なんか、あったんだろ。」
「え、、、。」
「お前の顔みりゃあ分かるよ。」
そう言ったカミルさんの顔は、少し泣いてるように見えた。彼にも何か辛いことがあったのかも知れない。でも、聞いてもきっとはぶらかされてしまいそうだったので、「何かあったんですか?」という言葉を呑み込んだ。
「ほら、じゃあお前ももう寝ろ。明日はこいつらを洗ってもらうからな。」
カミルさんが目の前の二匹の馬たちを顎で指した。
「はい。じゃあ、おやすみなさい。」
「ああ。」
ー次の日の朝ー
目を覚ますと、馬車の小さな窓から熱い夏の日差しが差し込んでいた。もうお昼時だろうか。
「アルド、、、、あれ?もう起きてたの?」
「ああ、さっきな。」
「カミルさんが、もうすぐ着くから起こして来いって。」
「ああ。寝過ごして悪かった。ところで今何時だ?」
「もう一時だよ。昨日なんか考え事でもしながら寝たの?」
「ああ、ちょっとな。」
昨日は、セイディーの事について、いやらしい意味ではなく、冒険者になった時の安全とかのことだぞ。
ゴホン、それで、結果的に夜更かししてしまったわけだ。
「あと、朝ご飯出来たから用意ができたら言ってね。」
「ああ。寝過ごして本当にすまなかった。」
支度を終えて馬車から出ると、野菜と少量の肉のスープと黒パンが用意されていた。塩味は薄いが、野菜の美味しさがつまっているスープと、少し硬いが、スープに浸して食べると丁度いい硬さになる黒パンは絶品だった。やっぱりセイディーは料理が上手い。
「じゃあ、もうひと踏ん張りだから、馬の世話と馬車の手入れをしといてくれ。馬は洗っておいてくれよ。石鹸はこの中に入ってるから。」
カミルさんが馬の手入れ用の道具が入っている箱を指さして言った。
「わかりました。」
カミルさんが馬車の中に入っていくのを見送ったあとに、セイディーが後かたずけを始めようとした。
「後かたずけはやっておくから先に休んでおけ。着いたら色々やらなきゃいけない事もあるしな。」
「え?でも、、、、、」
「大丈夫だよ。というより、皿洗いも俺がやっとくから。」
昨日、家を抜け出して疲れている時に色々させてしまって、申し訳なかったので、今日は俺が家事をやろう。家事なんてやったこと無いけど、皿洗い位ならどうするのか、想像はつくし、パパっと終わらせて馬の手入れをしよう。
お皿洗いは直ぐできた。馬を洗った後、調子に乗って馬を洗った石鹸も手元にあったし、洗濯もしておいた。
馬車に戻ると、早速カミルさんの声が聞こえた。
「酷いな。」
声のした方へ行くと、セイディーとカミルさんが食器の前で立ちすくんでいた。
「どうしました?」
そう訊くと、二人とも呆れたようにこっちを見て、食器を指さした。
「何か?」
至って普通の食器に見えるのだが、何が酷いのだろうか。
「世間知らずとは聞いていたが、ここまでとは。」
「アルド、これ、木製なんだからちゃんと拭かないと。こことか弱ってるよ。それにまだまだ石鹸ついてるじゃん。」
「え?あ、取れないからそういうものなのかと思ってた。ごめんなさい、カミルさん。あ、でも、洗濯ものは馬のついでに洗っておきましたよ!」
「馬のついで?、、、まさかお前、馬用の石鹸使ったのか!?」
「あ、はい。駄目でしたか?」
「いいか、洗濯するときは、人間用の洗剤を使わないといけねえ。何故なら馬用の洗剤はなかなか洗い流せねえし、繊維が傷つくんだよ。」
「あ、すいません。」
「じゃ、俺は後片付けしとくから、お前らは休んでてくれ。」
「え?あ、本当にすいません。」
「まあ、そこの嬢ちゃんに家事の仕方ぐらい習ったらどうだ?」
「そうします。」
恥ずかしさで顔が熱くなるのが分かった。
「じゃあ、馬車の中で待ってて。私お皿洗い終わったら行くから。」
「うん。本当にすまない。」
「アルド、私お皿洗い終わったから教えてあげるね。」
「ああ。ありがとうな。」
「まず、洗濯は、、、、、、、、、、、、、」
「、、、、、、分かった?料理はこれが基本。」
「、、、うん、大体、、、。」
実は半分寝ていたなんて言えるわけない、、、、。いや、ただ、内容を頭の中で想像してたらいつの間にか夢の世界に、、、、、。
なんて心の中で言い訳していると、カミルさんが声をかけてくれた。
「まだやってたのか?それより、見ろ。村だぞ。」
「わぁ。」
セイディーが歓声をあげる。俺もそんな気持ちだった。のどかな田舎町、と言ったところで、空気が新鮮だ。森から抜けて日差しが差し込んできたせいかもしれないが、とても爽やかな気持ちになる。
こうして俺たちは、サランダ村まで到着したのだった。