2、セイディー
まだ最初の方なので短いです。
目が覚めたら一瞬自分がどこにいるのか分からなかったが、すぐに気がついた。
(寒いな)
夏とはいえ、最低限の服での野宿は寒いものだ。昨日は書を読んでみたが、書いていたのは、
「1,サランダ村の冒険者ギルドで、職業を魔法戦士にして冒険者になる。」
ここまでしか書かれていなかった。変だと思うところは沢山あった。でも、ソフィーは俺の母親代わりとも言える召使いだったから、ギルドだけにでも行ってみることにする。
まあ、やっぱり魔法戦士はなんでなのか分からない。冒険者の中の職業というのは、一度決めると元に戻せないし、簡単に決める事が出来ない。なぜなら、その職業を選ぶと、職業に関連したステータスがあげ易くなるからだ。裏をかえすと、それ以外は上がりづらくなるので、魔法戦士にすると、魔法も戦士に必要なスキルも、あがりやすさが半分ずつになってしまうので、非常に効率が悪い。それに、魔法戦士というだけで、パーティーを組むのにも難易度が上がる。それだけじゃない。俺は、回復魔法以外の魔法をやったことが無いし、剣も槍も基本の一かじりぐらいしか知らない。
でも、ソフィーの最後の言葉ともいえるこの教えを簡単に無視するのも気が引けるので、とりあえずギルドにだけでも行ってみることにしようと思う。サランダ村までは馬車で一日といったところなので、ソフィーにノートと共に貰った少量のお金では、少し出費がイタイが、どっちにしろ僧侶でもやろうと思っていたので、もし魔法戦士になって欲しいというソフィーの意図がわからなければ、僧侶になってしまえばいいと思う。
「あの、、、、、サランダ村までお願いできますか?」
その日のうちに、荷台にのせてもらうことにして、格安でのせてもらえる所までやって来た。
「サランダ村までかい?それなら銀貨1枚だよ。」
銅貨は持っていないので銀貨から交換してもらう事にした。ちなみに白金貨1枚10万ウォル(一千万円)で、ほとんどが報酬に使われるので、大金持ちはコレクションして部屋に飾ったりする。うちにも3枚ほどあった。金貨1枚は千ウォル(10万円)で、銀貨1枚百ウォル(1万円)で、銅貨は1枚100ウォル(千円)で、それ以下は紙幣だ。
「それにしても緑の目なんて珍しいな。」
「え?ええ。」
緑の目は代々受け継がれてきたもので、ユクリート家が誇りにしている目だ。緑の者は本家,そうでない者は分家と言われるほどだ。
「じゃあ銀貨一枚ですね。」
腰に付けている金銭袋から銅貨を取り出し、渡そうとした、その時。
「やめて!詐欺よ、その人!」
聞き慣れた声に、手を止め、声のした方に振り返ると、そこにはセイディーが立っていた。
「お前、何で此処に。」
セイディーは、俺の従兄弟であり、元婚約者だ。もっとも、俺が13程の時に弟の婚約者となったが。もともと血の繋がりが濃い分家と本家が結婚しなければならないのだが、中でも従兄弟のセイディーは優秀で、世継ぎの婚約者になると決まっているようなものだった。だから俺の才能が分かり次第もっと将来有望な弟の婚約者になった。
別にお互い愛情があった訳でも無いのだが、問題そこじゃない。何故セイディーが此処にいるのだろうか。分家とはいえ上級貴族のセイディーが。
そんな事を考えていると、
「アルド!危ない!」
セイディーが目を大きく見開いた。
「え?」
その瞬間、右肩に重みを感じた。と思うと、今度は体制を崩した俺の右腰辺りから思い切り引っ張られた。
「金銭袋!」
男が金銭袋をむしとっていた。
この男、それが目的か。
素早く男の腹に横蹴りを入れると,胸ぐらを掴んで地面に倒した。
「くっそ!」
怒鳴ってる男の手から金銭袋を取り、一安心したその時、
「ガスト!」
男がそう叫んだかと思うと,強い力で後ろへ押しだされ、次の瞬間宙に浮かんだ。
「ゔっ」
そして、地面に落とされた。
風の呪文か。
い確かに風に吹き飛ばされた。そこまで規模も大きくなかったので、セイディーに被害は無いだろう。
「ヒーリング」
そう唱えると、体が熱をともし、熱が覚めると同時に痛みも消えていった。
すぐに後ろに振り返らず、セイディーの手を引っ張って全速力で逃げた。俺は、ヒーリングと付属魔法以外にやった事が無いので、戦闘なんて何も知らない。護身用ぐらいには習ってたけど、やっぱりいざ実践となると役にたちそうでも無かった。
振り返らずに必死に身を隠せそうな森に入った。