11、魔法訓練
朝の柔らかい日差しの中、俺達はギルドへ向かっていた。やはり朝は気持ちいい。少し湿った空気と、柔らかな暖かさと気持ちの良い風の匂いが理想的な朝となっていて、特に会話も無かったが清々しい気持ちで歩いているのはセイディーも同じだろう。
そんなギルドへの道も終わり、俺達はギルドの中に入った。
「今日は何するのかな?」
「そうだな、、、、、、、っていうかシリルさん大丈夫かな?」
「昨日凄かったもんねー。」
セイディーが笑いを堪えた声で言う。昨日あの後、自分の格好いいシチュエーションに上機嫌になったシリルさんは酔い潰れてもう正気を保っていられないほどになったので、仕方なくギルドで引き取ってもらった。本当は家まで送るものなんだろうけど、シリルさんの個人情報を全く知らなかったのでギルドに行ったのだ。そしたら、酔って美人受付嬢にナンパしたシリルさんが皆に滅茶苦茶睨まれていたのでその後冷たくあしらわれたのも言うまでもないだろう。
「へんた、、、、、ゴホン、シリルさんは今日もあちらの部屋にいらっしゃいます。」
「あ、わかりました。」
いつもは普通の同業人としてシリルさんを扱っている受付嬢さんが変態と言いかけるんだから、昨日シリルさんは想像以上に大変な思いをしたのかも知れない。
こんなに笑いを堪えるのが辛かったことは今までにあるだろうか?そんなことを考えながら部屋に入った。
「、、、、、、、」
「えーっと、、、、、、、」
予想よりも酷い、重くずっしりとした空気がシリルさんから溢れ出ていた。青黒いオーラが見えるようだ。
「あの、えっと、どうしましたか、、、、、?」
「どうしましたか?ふっ。ふっ。ハ、ハハハ。」
大丈夫だろうか、頭。
「シリルさん、大丈夫ですよ!酔ってたんですからね!酔ったら人って狂うものですもんね。」
「狂う、、、そこまでだったか。」
セイディーのフォローは、逆にシリルさんを傷つけてしまったようだ。
「ま、その話はあとにして、今日やることについて話しませんか?」
「ああ、そうだな。」
若干元気のないシリルさんを説得して、今日の予定を話してもらった。
「今日はだな、魔法の練習をする。まず俺がセイディーに水魔法を教えるから、その間アルドは待っていてくれ。それからセイディーが練習している間に、俺がアルドに光魔法を教えるから、セイディーが練習を終わり次第交代な。」
「分かりました。」
と、訓練が始まった。俺達は回復魔法以外の魔法訓練は初めてだ。上手く感覚を掴めないかも知れない。
大体30分程魔法書を読んだ後、交代の合図が出たので、俺がシリルさんが魔法を教えているリングに上がった。
「じゃあ光魔法を教えるぞ、と言っても光魔法は回復系が多いからな。お前は回復系だとどこまでいった?」
「ヒルドリンまでいきました。」
ヒルドリンとは、回復魔法の中で二番目に強い魔法だ。確かセイディーもこの魔法まで使える気がする。
「やっぱりユトリーク家は凄いな。俺はキリアなんて教えられないから、攻撃性のある魔法を教えよう。」
キリアとは、回復魔法の中で一番強い魔法だ。
「はい。」
攻撃系の魔法など聞いたことしかなく、何も知らないのだが、大丈夫だろうか。
「まず、どのくらいの魔法を覚えている?」
「ゼロです。」
これにはシリルさんも驚いていたが、直ぐに簡単な魔法から教えてくれた。簡単な魔法3つ程は直ぐにできた。ここで驚いたのは、魔法の感じ方の違いだ。回復系の魔法を使うと、ふっと何かが抜ける感覚がする。それに比べて攻撃系の魔法は、魔法を使う指先に暖かいものが灯り、そしてそれが抜けるのだ。なんというか、回復系の魔法は、元々あったものを出すという感じで、攻撃系の魔法は、力を作って出す、という感じだ。
「ほら、じゃあ交代だ。」
シリルさんの交代の合図で、セイディーが教えてもらいに行き、入れ替わりに俺は練習しにいった。
「光の結晶」
これは対象から魔力を奪う魔法だ。光の結晶。この感覚を覚える。魔法は感覚を覚えながらやっていくと上達しやすい。
「光の結晶」
ちなみに対象に使っているのはそれ用の水晶で攻撃がどの位強かったのかも示してくれる。
「ひ、、、、?」
あれ?
え?
攻撃魔法って無詠唱で出来るの?
え?、、、、、、ヤバすぎでしょ。え?何それ?めっちゃ楽じゃん!!え?嬉しい!
「ひ、、、じゃなくて」
光の結晶!!
できた!しかも、この練習方法凄い良い。なんか自然にできるようになってきた。ヤバい。楽しい。
よし、次は光の粒。
光の粒!!、、、、、、あれ?なんか出来ない。何でだろう?そういうえば魔力が流れていく感覚がしない、、、、、、。
「光に粒」
おおっ。こっちだと簡単にできた。じゃあ、さっきの感覚で、、、、光の粒!!いけ!!
「おお。」
力んでたらいきなり出来からびっくりした。
じゃあ次はもっと自然に、早く、光の粒!!
うーん、やっぱりこれは出来ないか。力が足りなくなるんだよな。ちょっと練習しよう。
光の粒!
うーん、やっぱり意識が集中しない。
「じゃあ、目を瞑ってみようかな。」
俺は昔から目を瞑ると集中しやすくなるのだ。
「ふう。」
目を瞑り、小さく息を吐いた。
光の粒。
静かに心の中で唱えて、そっと目を開けると、確かに魔法は出来ていた。
「よっし!」
でも、実際にはもっと熱血しているだろうし、何時何処でも使えるようにしておこう。もっと練習が必要だな。
そうして五分程練習を繰り返していると、シリルさんの声が飛んできた。
「交代!」
あ、いや、無詠唱はめっちゃ気力要るな。でも、二つとも自然に流れてくるようになったから良しとしよう。
「どこまで出来た?」
「無詠唱まで出来ました。いやー、凄いですね、攻撃魔法って。無詠唱で出来るんですか?それってめっちゃ時短ですよね?、、、、、あ、すいません。ちょっと興奮しちゃって、、、、、。」
恥ずかしいな。こういう失敗って。
「あれ?シリルさん?」
「お前、なんだ?その、なんだ?凄いな、あの、なんかな。なんか初めてだよこんな奴。」
「はい?」
「お前、無詠唱ってなんだよ?どうするんだよ?」
「え?それって、、、、、。」
「経験値200以上でも難しいと言われている無詠唱をどうやってやったんだよ?」
「、、、、え?、、、、、、、」
え?何?え、いや、冗談じゃないよ?何この展開?え?
「せ、セイディー、ちょっとこっち来てくれ!」
「どうしたの?」
「話したい事があるんだ。」
俺は思う。セイディーなら同じことが出来るのではないかと。小さい頃魔法の形、について話した。例えば、それぞれの魔法は出し方が違うから形、というイメージも違う。人それぞれだが、セイディーは何の形を想像してるの?って話していた。無詠唱というのはそういう事だ。つまり、セイディーなら出来るはずだ。もしセイディーが出来たらユトリーク家のなんかかも知れないし、確かめたかった。
「魔法の形、覚えてるか?」
「覚えてるけど、それが何?っていうか、シリルさん、、、、、?」
衝撃が強かったのか、口をあんぐり開けているシリルさんは確かに奇妙だが、放っておこう。
「その感じで攻撃魔法を出してみてくれ。」
「光の結晶、、、、、、?」
光の粒は水晶へと向かっていった。
「無詠唱でできるか?」
「無詠唱?、、、、、、、、、、出来るわけないじゃん。もう、試して損した。それで、何が言いたかったの?」
ちょっと不機嫌なセイディーに、俺に代わってシリルさんが興奮気味に言った。
「アルドが出来たんだよ!無詠唱。」
「え?アルドが、、、?」
セイディーは一瞬驚いたような顔をした。それはそうだろう、俺はユトリーク家の出来損ない、無詠唱なんてできるはずも無いのだから。
「え?凄いじゃん、アルド!今日はお祝いしなきゃ!もう!」
そう言ったセイディーの目には、少しの涙が浮いていた。
「いっつも伯父さんとかにけなされながらも頑張ったんだから、これ位当然だよね!ああ、もう!あの人たちを見返してやりたい!」
「セイディー、、、。」
何故今まで気づかなかったのだろう。すぐそばに、こんなに俺の事を思ってくれている人がいるだなんて。
そう思うと、胸が暖かいものでいっぱいになり、ぎゅうっと絞められた。
「ありがとう、、、。」
俺の言葉に、セイディーはただ微笑んで頷いていた。
昨日の後書き、、、書かなきゃよかった。