1、とある少年の決意
最初は設定とかがメインなので、あまり面白くないかもしれませんが、十話ぐらいまでお付き合いください。
「、、、、、、ありません。アルド様には、回復魔法も、補助魔法も、80しかありません。」
屋敷の中の召使いとしては最も位の高いことを表す、濁った緑の服を着た召使いが言った。彼の手元には水色の水晶があり、そこには、一人の少年の手が乗っていた。歳は二十といったところに見えるが、実際は十六。この国では十六から成人なので、もう成人していることになる。
「分かった。では、今すぐ出て行ってくれ。お前はこの家の恥だ。」
厳格な顔をした男が吐き捨てるように言った。
少年は思った。一度でも、父親に自分の名前を呼ばれたことはあったのかと。
少年の住んでいる家は、回復魔法を扱う一流貴族であり、少年の曽祖父にあたる人物ハルドは、騎士団伝説のパーティとも呼ばれる「ブレイヴ」の僧侶の役割であった。それからというもの、二代目、三代目とどんどん勢力を伸ばしていき、今では回復魔法と言えばこの、ユトリーク家と言われる位だ。
そして四代目、そう、この少年には、少し問題があった。そう、回復系の魔力が、80しかないのだ。平均が40前後だと考えると十分なのかもしれないが、なんせ此処はユトリーク家。ほとんどの者は、150から200。少年の年では、最低でも100の魔力がないといけない。80と100なら20しか変わらないのだし、別にいいじゃないか、と思うかもしれない。しかし、少年の魔力は五年前から止まってしまい、成長する見込みがないのだ。
とにかくそういう事で、少年は家を追い出されてしまった。
(きっと、弟のクルドが時期後継ぎとなるのだろう。あいつは昔から優秀だったからな。、、、、、、、俺は一体、何のために此処、このユトリーク家に生まれてきたのだろうか。)
家の前にはすでに馬車が用意されており下町までその馬車で向かうことになっている。ユクリート家が長男を勘当なんて噂がたたないようにする為か何かなのだろう。
少年が馬車に乗り込むと、既に少年の周りの召使いたちは馬車に乗っていた。少年は流れゆく景色を見ながら、ふと、幼い頃の記憶をたどっていた。
『え?お兄ちゃん魔力80しか無いの?何それ、めっちゃ可哀そうなんだけど。』
そんな言葉が少年の頭をよぎった。幼い頃、彼が必死に魔法の練習をしている間に弟のクルドはお菓子を食ったり昼寝をしたり、少年の事を煽ったりしながら過ごしていた。なのに、魔力は120。しかも、一回見たものは直ぐに真似が出来るという能力付きだった。
だんだん屋敷の者は殆ど少年への興味が無くなり、少年の事を最後まで見捨てなかった周りの数人の召使い達と孤独に過ごしてきたのだ。
「っく、アルド様、、、。」
その中の一人、小さい頃からアルドの身の回りの世話をしていたメイド、ソフィーは、抑えきれなかったのか唇を噛みしめて涙を流していた。ソフィーの泣き声だけが響く馬車の中は、ゆっくりと夜の街へ繰り出していき、とうとう下町の手前まで来てしまった。
「止めろ。」
一人の兵士がそう命令を下すと、従者が驚いたように馬車を止めた。
「いいのですか?下町の方まで行けと言われ」
「いいから降ろせ。」
下町に行くと、危ない輩がうろついている。それは、才能が無いと分かったとたんに少年に見向きもしなくなった少年の父の代わりに父親の様に少年を可愛がってくれた、守衛の、最後の、父親としての言葉だったのかもしれない。
守衛との思い出が走馬灯のように思い出され、少年の頬を、一粒の涙が流れ落ちた。
少年が馬車を降りたとたん、馬車の中は泣き声で溢れ出した。速やかに去ろう、と、少年が馬車の背を向けた、その時。
「アルド様!」
ソフィーが馬車から飛び降りると、少年のいる場所まで走っていった。
「アルド様、これを。どうかこれを受け取ってくださいませ。そしてここに書いてある通りに行動してください!きっとこれは貴方をお助けするでしょう。これはソフィーの最後の願いであります。」
そして、少年に書を渡した。
「ソフィー?」
少年の声は、直ぐに馬車に乗ってしまったソフィーには届かなかった。
「ありがとう!大切にするよ。」
少年は目一杯叫んだ。
「今まで、今までありがとう!」
少年の目からは、いつのまにか大粒の涙が出ていた。
(これが最後の涙だ。これが最後の涙にしてやる。)
月明かりの中、少年は静かに決心した。
(ソフィーや守衛達の為にも、これから何としてでも幸せに生きてやる)