ネタキャラさんに声をかけられて
「拙者らはこの町の住民でござる」
「某はクエスト帰りの冒険者ですが、この行列じゃなくて、冒険者専用門を使っているですよ」
「えっ、そうなんですか。教えていただいてありがとうございます」
現実世界でなら、変質者かもとか思ってしまうが、ゲーム内ではただの変わったネタNPCなのだろうな。
ふっくら低めの男とすらりとした長身女の組み合わせだぞ。
ぺこぺことお辞儀をしながら、二人の後を追いかけ、別の入口へ向かう。商隊用は馬車がすんなり通るほど大きいが、二人は甲冑を着けた者がやっとくぐれる程度の通用口ぽいとこへ向かったんだ。
先の二人は、門番に首にかけたタグプレートを示してから冒険者カードと受注クエスト証明を出して、荷物を見せている。のかな。
このあたりは、どこも共通の様式なようだな。
順番がきて、旅の途中だと言いながら、冒険者カードを差し出す。
「旅をしているにしては、荷物が少ないようですね」
「ああ、いつも我慢できる範囲で軽装なんだ」
それにしてもと言った表情を浮かべて門番はこちらを見てくる。
にやっと笑う。
「獲物さえ仕留められれば、火と水の生活魔法が使えるし、食事はなんとかなる」
確認のためだったのだろうか、それ以上の質問は特になかったのでほっとする。
あとは返事などおざなり対応の選択ダイアログが出て、門番とは定型化した会話をする。通行料を支払い中にはいった。
門をくぐると、さっきの二人組が立っていた。
儀礼用と商用入口からも離れた、こじんまりした人馬用入口なので、喧騒な音からも少し離れて穏やかな通りにつながっているようだ。
彼らのクエスト報告もあり、ギルドに行くだろうと思って待っていてくれたそうだ。
この友好的なNPCさんらの知性は高そうだな。
他にもギルドへ連れて行く者が自宅にいるので、ついでだからすこし自宅に寄り道をしたいがと。
こちらは思わぬ道案内に感謝する側なので、そこは気兼ねなくどうぞと応えておくことにした。
ついて行くと彼らの自宅兼店舗に着いた。なにやら薄い本を扱っている?
やはり、そのネタかぁ。
店番の者に声をかけてから、細身の女が店奥に入っていった。
しばらくするとフードコートをかぶった3~4歳児ぐらいの子供が二人出てきた。
へんな顔をしていたのだろう、訊きもしないのに男が口を開いた。
「この子達の親が古い知り合いで、冒険者にして欲しいと拙者らに預けられてるでござるよ」
「へぇー、そうなんですね。まだ幼いのに冒険者は大変じゃないですか」
「理由はそれだけでなくて住民権のない者にとって、冒険者カードは唯一の身分証明でござるよ」
「あーなるほど。テンプレ過ぎる鉄板でしたね」
あははと軽く笑う。どれだけ人格をシミュレートしているか分からないAIに愛想よくするのはどこか虚しくなるのだが。
オプションのタグの可視化表示をオンしてみる。頭上に出る所謂ネームタグなのだが、相手が名乗らなければ、ネームは出てこないが、NPCであるとかプレヤーであるとかが分かる。
さらにプレーヤーは冒険者クラスが装飾で視認できるようになるものだ。
まぁリアル感を出すために普段は、これに頼らずにプレーしているんだ。
この二人、頭上には、見慣れた白いNPCタグでもプレヤーの装飾タグでもない、見慣れない灰色タグがでている。
アプリのエディションかエリアが違うからだろうか。最近使っていなかった機能だから、アップデートの結果かも知れないし。なにせβ版だしな。
お互いに名乗りあい、彼らのネームがタグにそのネームが記されている。
男が「ポン○」、女が「ナナ○」、子供達は「ミィ」と「ウィ」だ。年齢は聞かなかった。
子供達の名を聞いたときは、似たようなネーミングセンスの者が痛んだと思ったり。
歩きながらあれこれ考えたりしていると、この街のギルドに着いてしまった。
道をほとんど覚えられなかったが、オートマッピングを信じてまぁ気にしないでいこう。
支部でない限り、ギルドはその集落毎に独立した組織だ。しかし過去にローカルルールばかりで混乱したのと悪徳ギルドが問題になり、新に統合する冒険者組合の傘下として、統一の方式と一律の基準を満たす集落ギルドが立てられて、他は自然淘汰されていったそうだ。これ設定。
似たような経緯で、商人ギルド、職人ギルドなども存在するのも設定。
中に入ってぐるりと見渡すと。入ってすぐの正面には依頼概要のカードが、貼り付けられたボード……板壁がある。木製じゃなく鉄製ならと残念に思った。
左右が長い棒で床と天井を継ぎ、間に板が取り付けられていて、掲示板としている。
このワールドでよくある飲食の注文も可能なつくりだな。
事務的な受付は左側にまとめられ、右側と板壁背後の中央に飲食コーナーがあるではないか。
大きな所では、フードコートだったりするのだが、ここは店員が注文をテーブルでとり運んでくれるタイプだね。
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