別赤は冒険する
自分宛メール「to We:店頭ニテ待テ」を送る。
ウィとミィのスキルの中に後で分かったが、「どこでも携帯端末(WiFi×)」というのがあって、召還時に手にしていた端末を出現させることが出来るというものだ。
こちら側と向こうの世界の同一端末が、リンクしている。いや同時存在していて、バッテリーもこちら側で行っていればよい。
制約は、こちらで新にインストしたアプリは向こうに反映されないが当時インストされていたアプリはこちらのWiFiを使って向こう側で利用が出来ている。
おそらくカップル版のアプリが消せなかったのは、向こう側でウィが使っているので共有違反が出たためなのかもしれない。
そして ───── やっぱ別赤は、TSだろ?
途中、任意に変えられるんならどちらでもいいが、イベント報酬で異性の専用装備をもらっても嬉しくないからな。
このゲームに別アバへ装備の譲渡仕様がない。
なんか悔しくて、古い端末に別赤を作り、クエスト攻略に甥、姪に協力させてやっているんだ。
そっ、ムダにしないためだ。
決して女装趣味がある訳じゃないんだからねっ。
以前、普段のアバとパーティ転移でやってきて、ギルドで転移のため拠点登録をしたのちパーティを解散させた。
男アバは、そのままナナ○とポン○の店へ向かわせた。
いつもはソロで活動をするので、ばりばりの前衛の格好なのだが、都合よくイベントで『村人装備』を手に入れていた。
ただ街で、この村娘の格好はヤボったい。ヘンに目立つしな。
それに季節は初夏に近く、野良作業も出来そうな厚手の衣装でなく、気候にあわせた物にしないとな。
住民もウェルカムな食堂つきのギルドだったので、トイレで着替えてから商店街に繰り出し、ナナに聞いていた店で『街娘』の衣装一式を揃えておいたのだ。
すこし生地も薄くなり露出も多くなってTPSならともかくFPSだし、自分では見えないから誰にサービスしているのか疑問だがな。
屁の突っ張り程度だが念のために、サブ職業のスキルを発動しておく。
リアルで焼きそばを喰った後だから、満腹に近いのだが、現地時間は昼食時間帯だから、冷えた柑橘系の果汁ドリンクとアメリカンドッグに酷似した物を何本かかってウインドショッピングを装い商店街をたべ歩いた。
アバだから満腹中枢なんて関係ないし、排泄の心配もない。
たまたまをよそおいナナ○とポン○の店前まで来た。
気にしているのは自分だけの場合もあるがな。
店頭にはバイト君と溶けてぐったりのウィがいた。
「ちょっと見させてね」
「いらっしゃいませー」
「っらー……」
心の中で、ジャマスルゼ。エアのれんをくぐって、ヤヲイ本の棚へ行く。
このときとろんとしたウィの目の前にドリンクを通過させてみた。
喉の鳴る音が聞こえたぞ。
小声でささやく。
「ヤオイなのにユーエフオーじゃない……」
ウィの耳がぴくっとした。
わしと記憶が共有されたのなら、知っているはずだ。
右へ左へとドリンクを追う視線がおもしろい。
「半分しか残ってないけど、欲しい?」
こくこくとうなづくウィ。
「だっこしてあげるから、散歩につきあってくれるならアゲルよ」
躊躇無く両手をさっと差し上げて、報酬にありつく条件を満たそうとする。
こんなじゃ簡単に誘拐できるぞ。危機意識持てよ>|わし(Me)。
「お家の人が心配するといけないから、出かけてくるって言っといで」
頭に手を置き、優しくなでながら、アメリカンドッグが二本残っているので袋ごと渡し「こっちもあげるよ。これはミィと分けてね」とつづけた。
背中を押すように、奥へ追いやり、カボチャパンツをぷよんぷよんと揺らしている後ろ姿を目で追った。
嗚呼と、ため息が出る。不可思議な力の働きで、分かれてしまったわし。少なくとも他にミィ、ポン○とナナ○も含め大団円となるような解決策はあるのだろうか。
まず身近な問題に手をつけていこう。ベータサーバーの運営が終われば、この異世界に接続する方法を知らないわしは、半身をここに置き去りにしたままとなるわけだ。
今後を含めて、考えていたらウィがタヌキのケモミミが付いたモフモフなフードコートを被って帰ってきた。
「そんなの着て暑くないのか?」
びくっとして目が泳いでいる。暑さで思考力が低下してるのか?
まさか幼児になったから、知性低下した訳じゃあるまいな。
「これはー、ジョークだ。よく気がついたな。ほめてやるゾーー!」
言うなり顔が真っ赤にして奥へ走り込んでいった。
共有した記憶をまさぐると、接続が切れるまで、なにかとアレを着ていたようだ。
お気に入りなんだね。
「またせたなーー」
淡い水色ワンピに麦わらを被って再登場してきた。
どうだと言わんばかりに、腰に手を当て仁王立ちをする。
「涼しそうでいいんじゃないか。そのほうがカワイイし」
わしの言葉を受け、まんざらでもない表情をして、なぜかこくこくと縦に首を振る。
約束通り、飲みかけのドリンクを渡すと、両手で受け取り一息に飲み干した。
「んーまずいっ。もう一杯!」
むっとしたら、ゲンコツでウィの脳天をゴツンとしていた。
このVRユニットは、考えただけで即行動になってしまう。第一被害者のわしに黙祷。
「死ぬかと思ったぞ」
がに股で腰を落として頭を抱えるウィが涙目で、わしを見上げてくる。
「調子に乗るからだよ。図書館に行くぞ」
「へっ……?」