物欲と食欲
ログアウトをすると自然に、ウィとの共感が無くなった。
まだ再接続の方法は不明だが、気にするまい。
リアルに小腹が減っていた。
近くのドラッグストアで賈ってきたストアブランドの焼きそばにしよう。
メーカー物に比べ小ぶりなのがちょうどいい。
それと小袋はすくなく具材などは、既に麺の上だ。
以前、凝った作りのメーカー品で、小袋を一つ取り出し忘れてて、湯ギリした後、ドッヒャーとうなったとかうらならかったとか。
デブはグルメ指向でなく、ジャンク嗜好なものでね。
ウスターソースとお好みソースとケチャップ、マヨネーズをスタンバイする。
おっとタバスコと一味を忘れるとこだった。
飲み物は、焼きそばの後味を残さない炭酸よりも調和する麦茶だな。
食べながら、通販で注文した物が、配達中になっているのを確認した。
いつ提供が止まるか分からない簡易方式のベータ版だからと、最小構成のVR機能を試していた。
そう単純に、目の前に専用の固定ゴーグルで単純な振動とジャイロ機能、立体視空間を堪能するだけだった。
これでVRをやっているなんてとても他言できないレベルだよな。
今月の買い物は、引き落としがボーナスが出てからになる。
少し余裕があるとなれば買わずばなるまい。と、いっても予算は少ないから自己満足できる最低の水準だ。
高機能、操作の向上があるのだが、装着が面倒なので、躊躇していたのだ。
あのべちゃっとした電極シートをこめかみとか頸の後ろ。指先の空いた手袋とか。
一、二度使えば、面倒さに使わなくなるだろうな。
湯を切りながら、今日はまずプレーンで一口。
柔らかい。少し時間を掛けすぎたようだ。
付属のソースをまぜる。追い足しでウスターソースを少々。
はやく喰わないと、これ以上伸びてしまうと二つの意味でマズイっ。
しかしだ、慌てると麺の塊を喉につまらせて呼吸できなくなったり、食道につまらせて悶絶することになる。
そんな場合は、水など飲み物で押し通すしかない。回避する前に、なにか飲み物を飲んでおくべきなのだ。
いつもの事ながら口に運ぶ前に、思い出しておくべきだったと、咽せながら鼻からコーラを垂れ流すわしは強く思った。
残りをコーラで流し込む。
ふーっと大きく一息つくころには、空腹感は消えていた。
寝っ転がって、南米密林から取り寄せた、コミック『ぬこみん』の一冊をとって読み始めた。
これはとある山間にある、ネコを主神としたうらぶれた神社の周辺をちょっとだけかいつまんだりかいつまなかったりするお話。
三毛のチマ、子泣き爺、カラス天狗などがやってくるが。メインは、巫女見習いと猫又のオチのない日常風景を描写している。
開くとカラーページで『喰って、すぐ寝転がったら牛さんになるゾーー!』という台詞が目に飛び込んだ。
これは、赤いチョッキを着たタヌキが、件に向かって言ったシーン。
この巻は、人間の登場が殆ど無い。
わしは、すぐさま身体を起こした。
宅配の呼ぶ声が聞こえたのだ。
返事をしてすぐに受け取ると、梱包を開けた。
いつものじゃないタブレットを用意する。
普段使いじゃなくて予備にしている。
これにも正式版とベータ版の両方を入れて、レベルは低いが別キャラを育てている。
面倒だったが、同時にどちらもベータ版でログインし、パーティを組んで、あの街まで同行転移させてから、サブ拠点に登録までしている。
そんなに時間たっていないのに、知られている普段のアバターは使いたくない。
試行を兼ねて予備アバターの調整を始めた。
めんどうなのでトリセツは読まない。サンプル画像とか、ユーザーのレビューなんかで、だいたい想像していた。
ペタペタと電極を装着してTシャツの隙間から身体に貼っていく。
タブレットのちっちゃいHDMIとUSBへ端子を接続する。
電源を入れると、四肢の末端からしびれの波が走った。
ほどなく|ヘッドマウントディスプレー(HMD)に接続を認識したポップが出た。
ログインすると、アプリ側も機器接続を認識しているマーカーが画面上に出ている。
アバターとの連動調整をするかの問いに、[YES]を返した。
これまでの動作は、あらかじめモーションキャプチャで用意されていた、プリミティブな動作の組み合わせだった。
それがこの機器を使うことで、繊細な指先とかは別として、ほぼ任意に動かすことが出来るようになるのだ。
触感と痛みのフィードバックもあり、より体感度は上がっている。
心拍などをモニターしてリミッター付きで安心だ。
違和感があるとすれば、欠落してる臭いと味だ。
明らかに擬似的であったり、……まぁ体格も違うしな。
だがHMDの透過度を調整し意識すればVRとリアルが、同時に認知できるのが利点だ。
脳幹と脊髄にリンクする高級品ならば、そよ風と香り、潮風、嗅覚、味覚も再現されるそうだが、いかんせん高価なのと使用時は完全にリアルと隔離された感じになり、装着者の適合度も含め、不安だ。
買えなかったからの、僻みではないぞ。
わしは、焼きそばの後味を名残惜しみながら、町娘に扮してパリス=バケットの街へワープした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。