友人に、唆されて、オンライン(1)
初投稿です!!
「あー、もう何もやる気出ない。いっそ寝よう、おやすみ」
そう言って、水無川翡翠は美術室の木製の机に突っ伏する。どうやらスランプのようで、その机にはビリビリ
に破られたアイデアスケッチの数々と、破られて若干薄くなっているスケッチブックが置かれていた。そんな彼女を冷たい目で見つめているのは、彼女の数少ない友人の1人で、同じ美術部である或守來美。
「部活中に寝んな次期部長」
そう言って翡翠の無防備な後頭部に手刀をかます。因みに來美は次期副部長である。バシッと音が鳴り、翡翠は悲鳴を上げて起き上がった。
「痛っ!?ちょ、何すんの!?」
「何って、そりゃやる気スイッチ押しただけだよ」
「それさ、無事に押せた?」
「結果起き上がったから結果オーライよね」
「おいぃ!?」
そんなやり取りを、先輩後輩は微笑ましいとばかりに温かい目で見ている。どうやら、これは部員にとっては日常茶飯事のようだ。
「ほら、ちょっと2人とも、とくに翡翠、一応大会は全部終わったって言ってもちゃんと何かしら描いとかなきゃ。私らだってもうすぐ引退だしさ」
いくら日常茶飯事と言ってもサボるのは見逃せないようだ。現役部長が2人に声をかける。
「ほら、部長も言ってんだからちゃんと落書きでもいいから描いときなさい」
「むむぅ、尊敬する先輩に言われちゃしょうがないね」
「ほれほれ、ちゃっちゃと描いちゃいなさい。あ、そうだ」
來美が何かを思い出したように手をポンッと叩く。そんな來美を翡翠はクエスチョンマークを頭に浮かべたままじーっと見つめる。
「翡翠って、ゲーム好きよね?」
「?うん、大好き」
「なら、【ファンタジーグラスィーズ】って聞いたことあるかしら?」
【ファンタジーグラスィーズ】通称FGとは、今大人気のファンタジーゲートというVRRPGオンラインゲームをやるために必要な最新型の機能を搭載している機種である。小学生の頃からゲームヲタクな翡翠も、いつかお金を貯めて絶対に買ってやると意気込んでいる代物である。
「あー、知ってるんだけど、持ってないんだよね。欲しいんだけども」
「あら、珍しい。まぁ、好都合かな」
「え?なに、目の前で見せつけるんですか、なんて悪趣味な」
「そっか、親が折角だからって翡翠の分も買ってくれたのになー、そっかそっか要らないのかー。見せつけて欲しいんだねー、親のがっかりする表情も見せつけてあげるよー」
「あ?え?え?・・・・・・すんません、下さい」
数秒後にようやく理解した翡翠は微かに残っていたプライドと尊厳を投げ捨てるかのように鮮やかに土下座を決める。その姿にある人は呆れ、ある人はその鮮やかさにしばし見惚れ、ある人は無視を決め込んだそうな。
「ったく、最初からそう素直になればいいのにね」
「お願いします、憐れな私めに恵んで下さい」
「はーい、分かったからそろそろ顔上げてー」
そう言われて上げた翡翠の顔は物凄く晴れやかな表情。なんというか、逆に殴りたくなってくる表情だ。
「んじゃ、部活頑張ったら、あげちゃおっかなー」
「部長、もう全部描いたので新しいスケッチブック下さい」
「「え?」」
部長と來美2人揃って素っ頓狂な声を上げ、不自然に思った後輩や同級生数人が翡翠のスケッチブックを確認すると、いつの間にか少なかったとはいえ軽く10ページはあるであろうスケッチブックを全てアイデアスケッチで埋めていた。これは驚くのも頷ける。
「あ、えっと、はい」
若干引きながら部長は他よりページが多いものを渡す。そんな部長を他の部員は同情の目で、翡翠を呆れと驚きとがない混ぜになった目で見つめる。
「えと、とりあえずは、頑張ってね」
「うん」
そう言って翡翠は再び机に向かって鉛筆をガリガリやり始めた。そんな翡翠を見て、來美は一瞬ニヤリとし、自分の作業に戻った。そして、囁かな喋り声と鉛筆やシャーペンを紙へ走らせる音が美術室を包み込んだ。
これからよろしくお願いします!!