7話 二人の逃走
「ひィっ!うへャッ!はぁッ!はぁッ!こっち来んな糞ったれ!!!!」
突然だが俺は今襲われている。
何に?とな?そりゃあ‥‥。
「熊はダメッ!本当にッ!死んじゃうぅッ!」
数時間前、俺は城から抜け出し、暫く歩いたところでこいつと出会った。初めての熊との遭遇にパニックを起こした俺は、熊の対処法を思い出そうとしたが、寝たふりしか思い浮かばなかったのだ。それが実は悪手であることは知っていた。しかし、本当の対処法がさっきも言った通りパニック状態だった所為もあって思い出すことができなかった。結果、この異世界で手に入れた身体能力を使い走って逃げようと考え、今に至る。因みに走っている途中で、その対処法を思い出したのだが、時すでに遅しである。
「嫌だッ!死にたくねぇッ!ゲホッ!ゲホッ!」
(何なんだこの熊。俺の身体能力は人間を3~4倍は超えているはずだ!なのに何故差が広がらないッ!)
そう思いながらも俺と熊のかけっこは俺のパニック状態が収まるまでしばらく続くのであった。
***
私はメルティ。5年ほど前まではただの村娘だった。でも、あの日。女神降臨の日を境に聖女となった。というのも、その女神降臨の日に私は、〈知略の女神〉ティタルカに選ばれたからだ。当時の私は何が何やらさっぱりわからなかったが、国の王様が私を迎えに来た時に、ある程度のことを理解させられた。そしていつの間にか使えるようになっていた降神術で、ティカと会った。それ以来私は波乱の日々を送っている。王様の命令に従い、神装の力を使って様々なことをした。いや‥‥様々な人を殺したと言った方がいいだろうか。それ以来、私はあてがわれた城に籠もるようになった。しかし、悪いことばかりではなかった。
籠もるようになって1年ほど経ったある時。私は1つの本を見つけた。数百年前に召喚されたと云われる勇者。その人が書いたとされる本。タイトルは”ココウノヒーロー”。一人孤独に高い理想を持ち、悪と戦う正義のヒーロー。あの物語のヒーローのような人物に一生を捧げたいと、今でも思っている。
しかし、私は汚れてしまっている。どうしようもない程に‥‥。
話を戻そう。
そして、1年前。数人の聖女が国からの独立を発表。男尊女卑が酷いこの世界を変えると宣言した。それからは聖女と各国との争いが多数勃発‥‥したのだが、やはりというか聖女のいない国は次々と敗北。最初のターゲットは超大国で様々な国に対して権力を持っていた国であるセドラ帝国だ。あの帝国を潰すのにたった数日しかかかっていない。流石に私も聞くだけで冷や汗を流した。結局数十カ国あった国は、現在では私が所属する国含めたったの6カ国しかない。聖女のいる国だけが残ったのだ。そして恐らく、次に独立した聖女たちが襲う国は私のいる国だろう。なにせ、最弱の聖女が私なのだから‥‥。
***
色々と考えているうちに馬車が止まったようだ。正直、私の所属する国がどうなろうと構わない。今は勇者たちを喚び出したアルトニア連合国との話が優先。伝説の勇者と同じ人達。彼らの中ならきっと私の求める人がいる。そう思いながらアルトニア連合国の王城に入っていく。
それが罠だと気づいていながらも。
理想の“自分だけ”のヒーローを求めて。
――――しかし、私の夢は打ち砕かれる。
男の勇者たちはどいつもこいつもアルトニア第一王女のサーリャに釘付けだった。一部には、私の事を見てくる男もいたが、どの目も欲望に塗れたネットリとした視線で怖気が走った。これでは何のためにこの国に来たのかわからない。私は直ぐ様に帰国準備を開始し国から出ようと考えたが、サーリャ王女に阻まれる。サーリャ王女本人でないのは助かったが、王女付きの騎士たちである。恐らく敵の女神の加護付きだろう。”1日3回で1回1時間しか使えない神装”を此処で使うのは後を考えると怖いが今使わなければ最悪死んでいまう。夢は砕かれてしまったが、それでも何故か生きたいと思った。なら出来るだけ頑張ろう。そして、私の逃走と戦いが始まる。
主人公は最強ですが、アホの子です。なのでこんな感じになってます。
メルティちゃんはどうでしょう?気に入っていただけたでしょうか?気に入っていただけたら幸いです。