第七話「引きこもり少女・怜奈」
曾祖母の家で漫然とした引きこもり生活を送っていた少女は松下怜奈といい十六歳になったばかりだった。彼女の両親は極平凡であった。母の実家が「グローヴァル・メタルテック」の経営者一族であったが、そんな事は関係ないといった生活を送っていた。
また祖母が伝説的な国連機構軍兵士の白幡大佐だったが、幼い頃に死に別れた怜奈の母・広海にすればそれは周囲からのプレッシャーでしかなく、家を飛び出しように結婚してからも絶えず付きまとって精神的負担でしかなかった。そのためか娘の育児に対し問題ある行動を取ることもしばしばあった。
そんな怜奈は高校に進学したものの、陰湿なイジメに加え厳しい学習カリキュラムについていく事が出来ず脱落、すっかり自信を喪失した彼女は引きこもり生活に陥ってしまった。教育科学省のフォロー制度の利用を拒否した彼女の両親は、それまで面識はあっても付き合いの無かった武村寿美枝に自分の娘の将来を託してしまった。要は彼女を事実上見捨ててしまった。そのころ両親の関係がぐらついていた事も原因だった。
寿美枝も曾孫娘を押し付けられて困ったが、孫娘の頼みを無下にできなかったので、しかたなく引き受けてしまった。しかし、自宅で一日中部屋に篭っていろ怜奈に対し困った寿美枝は曾孫娘を「メタルガールプロダクト」に無理矢理入れることにした。ここなら、自分が会長をしているところなので、目は届くし根性ぐらいは叩きなおせると思ったからだ。
そう思う切っ掛けとなった事が起きたのは、春のある日のことだった。怜奈は武村家に来てから二が月たっても引きこもり状態だった。武村家は古い日本家屋で個室などあってないような家だったので、怜奈が一日中ゴロゴロしているのが目に付いてしかたなかった。
その頃怜奈は紙媒体の古いマンガに夢中だった。電子出版が多数を占めるようになった時代に紙媒体のマンガを読む目的は、じっくりと鑑賞するのが目的か、たんに寝転んでだらしなく読むのが目的であった。怜奈はいつも頭にマンガ本をアイマスクのように載せて昼寝をしていた。
寿美枝は最初この家に怜奈が来たとき、戦死した娘の麻紀が戻ってきたような気がした。それだけ面影が似ていたはずなのに、今はブタ小屋のコブタが同居しているような気がしていた。まあブタよりも可愛らしい顔をしているし痩せてはいたが・・・
こんな引きこもり少女に麻紀の血が流れているとはとても思えないグウタラブリにあきれ返っていた。そこである日の朝、寿美枝は畑仕事でも手伝え! と怒声を発しながら怜奈の部屋に入っていった。その部屋は書庫として使っていたところで、ベットと机を運び込んでいたが、怜奈は珍しくベットではなく机である本を読んでいた。
「お前、何を読んでいるんじゃ?」と寿美枝が覗き込むと、何かを読んでいた怜奈は大粒の涙を流していた。