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第六話 「”鋼鉄”の少女」

 ある日目覚めたら改造され機械の身体になっていた。そんなことは二十一世紀初頭では夢物語であったが、もうすぐ二十二世紀になるという現在、そのような事はしばしばあった。事故や病気なので身体の一部をやもうをえず義体サイボーグ化する場合があるからだ。


 ただマシンガールプロレスラーの規則では、義体化した部分がある場合、選手登録が出来ないとされていた。あくまで完全に生身の身体に機械の外骨格という選手が必要条件だった。そうなったのも高度にチューニングした義体に対して生身の選手が勝つことはまず無理だったにほかならない。


現在はグローヴァル・メタルテック・テクニカル・スクールのコーチをしている美雪が引退を余儀なくされたのも、家族でテロに遭遇し身体の一部を義体化せざるを得なかったためだ。そのため、いまは後進の指導にまい進しているわけである。


 レイナら今日マシンガールすなわち機械娘に調整された六人はカプセルの中で休息を取っていた。まだ肉体が機械娘の外骨格と完全にシンクロするまでは監視下に置かれていた。いくら生身に戻る事が可能であっても、外見上は機械そのものであるし、肉体も機械システムの中に取りこめられているからだ。


 そんな状態で浅い眠りから醒めたレイナは自分の身体を確認し始めた。最初機械娘にされた時は、身体に様々な器具が差し込まれ、体内に液体やらゲル状物質やらを入れられて気を失ってしまったし、次に目覚めた時は、曾祖母に詰問されて動転しきっていたので、機械娘になった自分の体を丁寧に見たのははじめてだった。


 機械娘自体は美雪教官の身体などで何度も満たし、適合性をチェックするため仮装現実空間で疑似体験を繰り返してきたので、わかっていたはずだが、やはり誰でも機械娘になった時に大きなショックを受けるのは本当だった。


 このときレイナは高校中退直前に受けた近現代史の授業を思い出していた。かつて起きた戦争で無辜の市民の肉体と精神を完全に機械化した兵士に改造する非人道的な戦争犯罪があったというものだ。確か自分の祖母も若くして戦死したと聞かされたことがあったが、それまで遠い世界の出来事のように思っていたけど、今自分はそれに近い存在になっているのだ!


 レイナは頭を持ち上げて自分の体を見たが、そこには柔らかい少女の皮膚も、それを覆う服もみえず、硬質の複合素材で覆われた機械のような外骨格だった。手で触ったが、当然硬い感触でその触感を伝える手もざらざらしたセンサーが無数埋め込まれたスリットの入った金属板に置き換わっていた。


 また胸からは心臓の鼓動を感じるが、呼吸をしていないことに気付いた。呼吸器の中は特殊な媒介で充填されており肺に直接酸素が取り込むように調整されていた。また口蓋は硬く閉ざされそこから消化器官に直接必要な栄養と水分を送り込まれるようにチューブが挿入されていた。そう、呼吸と食事は生身の人間と同じではなかった。


 「わたしは今機械なの? 人間なの? こんな身体になってショックでマシンガールレスラーになるのを断念した人も多いと聞いたけど、やっぱそうよねえ。これじゃサイボーグにでもなったみたkだから。でも、あのババアを見返すためにもやり遂げないといけないよね。でも、やっぱショックよねこんな姿じゃ遊びに行けないし・・・でも、高校を辞めてからしばらく遊びに行った事なかったけど・・・」


 レイナの姿は機械そのものだったが傍らには同じ姿の五体のマシンガールが横たわっていた。このグローヴァル・メタルテック・テクニカル・スクール六十六期生としてデザインされたマシンガールであるが、その中にも朝まで人間の少女だった者たちの肉体が閉じ込められているのであった。


 レイナは彼女らの人間だった時の顔を思い出していた。その顔は全てマシンガールレスラーのマスクの仲に埋もれている事を想像すると少し切なくなっていた。彼女ら”鋼鉄”の少女の事を。

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