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第四話 「グローヴァル・メタルテック・テクニカル・スクール」

 「グローヴァル・メタルガール」直属の訓練学校の正式名称は「グローヴァル・メタルテック・テクニカル・スクール」で、本来は特殊業務用に使われるパワードスーツの訓練校とされていた。その中のコースのひとつがマシンガールプロレスラー養成コースだった。


 このコースは定員五十人で女性のみが入学できるもので、メディカルチェックを合格した女性が半年間学ぶ事になっていた。最初の二ヶ月間が「研修生」で座学など基礎的な講義が行われるが、その間に選抜が行われ、適正がないと判断されると他の産業用スーツの資格習得コースへの転出か退学を命じられる事になっていた。いままでも多いときは四十人、少ない時でも十人程度が「研修生」から先のステージには進められなかった。


 次のステージの「実習生」では、マシンガールプロレスの一部門である「密着型」スーツを着る事になっていた。これが俗に「機械娘」といわれるもので、外骨格型ガイノイドと同じ姿をしたパワードスーツを装着するものだった。その姿になった「実習生」は「脱落」する場合を除き訓練終了まで機械のような身体で過ごさなければならなかった。


 「実習生」に選抜された女性は排泄器官や呼吸器などに外骨格となるスーツとの融合する措置を受けた後、身体に密着させるマシンガール・スーツの中に身体を封印されなければならなかった。このスーツは人間でも機械でもない存在のように見える「機械娘」に変えてしまうもので、着用後に激しい拒絶反応を起こしリタイヤする「実習生」も珍しい事ではなかった。


 この課程を乗り越えて、なおかつ新人リーグでそこそこの成績を上げないとプロデビュー出来ないが、さらに頂点に立つことが出来るのは、ほんの一握りのレスラーに過ぎなかった。


 2086年下期のマシンガール・プロレス東アジア新人リーグ戦は十一月十日から十二月二十日まで開催され、決勝リーグは十二月二十八日まで香港で開催されることが決定していた。そのため「グローヴァル・メタルテック・テクニカル・スクール」は、その新人リーグに参加させるプレイヤーを養成する第六十六期生の入学式が六月六日に行われようとしていた。


 その入学式を前に武村会長の機嫌は大変悪かった。先の四月から五月に行われた東アジア新人リーグ戦の成績が過去最悪の結果に終わったからだ。参加した第六十五期生十一人で決勝リーグまで勝ち残った者が誰一人おらず、新人のみの団体戦も決勝リーグ初戦敗退だった。しかも団体戦は永久シードされているので事実上戦う前から結果が見えていた。


 「この前の名古屋決勝リーグはサイテーな気分だったよ、ホント。なんであんなに弱くなったんかよ。いくらなんでも酷すぎるぞ。まあ過去の栄光は取り戻すことは出来なくても、せめて新人の一人ぐらい決勝リーグに残らんとつまらんぞ! おかげで解説役ばかりやらされたんじゃねえかよ。今回こそセコンドとして立ち会いたかったよ」


 そんな愚痴を坂江美雪コーチにこぼしていた。彼女も今回の成績低迷に対し深く責任を感じていた。もっとも彼女は体調が思わしくなく殆どの期間を療養していたので仕方なかったが。


 「とりあえず六十五期ですが、うちでプロ契約をするのは一人、養成課程を持たないプロ団体から三人とプロ契約を結びたいとのオファーがありました。他の七人ですが進路については各部署と調整中です」美雪は自分の目の前に映し出されるモニターのデータを元に話をしていた。


 「美雪、もう現役を退いて三年が経つけど本当に時が流れるのは早いのう。でも、コーチが機械娘になるのは実習生を指導する場合でいいんだよ。なにもシーズンオフまで機械娘の姿ですごさんでもいいのによう。あんたもたまには人間の姿で過ごしんさいよ。別嬪べっぴんさんが台無しよ」そう武村会長は話しかけていた。


 「いえいえ会長。今のあたしはこの姿でいるときが一番幸せですから。あの人生で一番輝いていた日々を思い出しますから。それに、人間の姿ではあの事故の瞬間を思い出すのです。彼とあの子を失った時のことを・・・」身体の表面全てが特殊な人工筋肉と特殊強化甲殻で構成された生体装甲に覆われた美雪の身体が小刻みに震えていた。もし胸のプレートがなければ、人工知能のプログラムによるガイノイドにしかみえない姿であったが、その生体装甲にはひとりの悩める女性の肉体が閉じ込められていた。


 「すまん、美雪つらいことを思い出させてしまって。許してくれ。あんたの抜本的な治療は次の六十六期が終了してからやることにしよう。ところで、個人的な頼みですまないが次の研修生に松下怜奈という十六歳の娘がおるんだけど、そいつを厳しく接してくれないか? あいつは少々荒療治してもらいたいんだ」


 「会長、どういうことですか? 研修生の中には適正がなければ途中でドロップアウトするのも少なくないのに、最初から脱落させるような事をなぜしようとするのですか?」美雪は少々不審を感じるような事をいった。

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