第三話 「マシンガールプロレス」
二十一世紀後半、人類社会は平和が訪れた。国家間の紛争で軍事力の行使が撲滅したからだ。だがそれは熾烈で悲惨な二度の世界大戦を経験した上で達成された。
2030年代に勃発した最初の世界大戦は主権国家同士の陸海空に宇宙、さらにはサイバー空間に渡る戦場で繰り広げられ、大量破壊兵器が事実上無力化してしまった。使用しようとすると即座にハッキングを受け使用不能になったり自爆したため多大の被害を受けた。これにより主要国の軍事力が瓦解したばかりか、従来の政治経済体制もろとも崩壊してしまった。
ついで2048年に勃発した二度目の世界大戦では、事実上統治能力を失った各国政府が持っていた主権の一部を接収しようとする地球国家連盟統治機構軍(国連機構軍)と、それに抵抗する国家との間で抗争が繰り広げられたが、その戦場で軍事力の主役になったのがパワードスーツだった。これはそんなに破壊力を持った兵器も不意に襲ってくる武装歩兵に敵わなかったからだ。それは主権に固執した陣営の軍事力が弱小だったこともあるが、二度目の大戦の方が人的被害が大きかった。
2086年現在のいま。世界各国が持つ軍事力は、治安と災害対処能力に限定され強大な軍事力の大半は国連機構が保持していた。その軍事力は主権回復を狙う国家への抑止力とされていた。いわば国連機構は地球全体の警察官というわけで、各国の軍事力は国連機構軍の補助的な役割しかなかった。
その補助的な役割を持つ世界各国の部隊の主力が重装歩兵であるパワードスーツ部隊であったが、その部隊の鍛錬度が各国の国力を誇示する手段となっていた。
また国威発揚の手段として、パワードスーツを着用した格闘技に勢力が注がれていくようになっていた。これは、かつてのオリンピックが国威を誇示する舞台であったのと同様であり、プレーヤーがパワードスーツを着用して行う国際的なスポーツイベントに参加する競技団体の強化による競争が激化していた。やはり人の持つ闘争本能を喚起するのに打ってつけだったからにほかならない。
そういった格闘技にはパワードスーツを着用した人間によるものがあった。最初のうちは国連機構軍が養成し、戦後余剰になって退役させられたパワードスーツで重武装した通称「機兵部隊」の戦闘員によるデモンストレーションだったものが、娯楽として広がり国際的な競技団体が管理する格闘技として定着した。
機兵部隊の装備品が元になった格闘技には中には、サイバロイド技術を駆使し人体強化サイボーグによるハードで破壊力のある種目もあったが、最も観客数を集めているのはパワードスーツを纏い戦う種目だった。
そのパワードスーツによる格闘技のうち、マシンガールプロレスはパワードスーツを着込んだ女性が闘うものであった。同様なものに男性が闘うマシンガイプロレスもあったが、女性の方が華麗な技と美しいスーツといったビジュアルに優れているので世界的に人気が高かった。世界各国で行われており、様々な部門に細分化されていた。
マシンガールプロレスの競技ルールでは十六歳以上であれば参加可能であるが、産業用アシストスーツを着用し従来のボクシングや柔道のように戦うアマチュア的なスタイルもあったが、本格的なモノになると軍事用パワードスーツによる本格的なプロスポーツがあった。そのプロになるためには国際マシンプロレス連盟の公認を受けた半年間訓練学校に入学する必要があった。
世界各国にある訓練学校では様々なスーツによる訓練を行い、適正を判断した上でデビュー出来るか否かが決定されていた。この訓練学校は政府が開校したものとパワードスーツメーカーが作ったものがあったが、前者は防衛関係の教育機関のひとつであったが、後者はマシンプロレスの競技者を育成する事がメインの目的だった。