薬はダメ!ゼッタイ!
「リク、リク!なぁって!」
誰だよ、頭に響く。
こっちは昨日の酒が抜けてなくてきついんだよ。
大体人んちに勝手に入ってくんなよな。
なんて二日酔い全開の俺は布団から意地でも頭を出さない。
「頼むよー起きてくれよー」
情けない声を出すなカス。
この情けない声を出して俺を呼んでいるのは秀さ
なんとかっていう薬の研究をしている一応研究者だ。
俺はめんどくさいがほんとにめんどくさいが布団から頭を出した。
「なんなんだよ秀さん」
昨日の酒のせいで声がガラガラだ。
「頼む!助けてくれ!」
今日もダメ男全開だな秀さん。
「嫁さんにでも逃げられたのかよ?」
半分呆れながら俺は聞く。
「俺の、俺の人生をかけた研究がぁ…」
「研究?なんのことだ?」
秀さんがなにかの研究をしていることは知っていたが内容までは興味がないので覚えていない。
「俺が脳のリミッターをぶっちぎる薬を研究している事は話したよな?」
覚えがないが適当に相槌を打つ。
「マウスでの実験も成功し、いよいよヒトでの臨床試験って時に奴らは現れた!」
「奴ら?一体誰だってんだよ?ていうか秀さんそんなヤバイ研究してたのかよ!」
秀さんがなんか人類の未知の可能性を切り開く!なんて言ってたからてっきり新手の筋力増強剤でも研究してるのかと思っていたのだが…
いくらなんでも悪の科学者じゃねーんだから…
なんて頭を抱えていると食い気味に秀さんが
「桐皇製薬の奴らだよ!あいつら研究資金の返済が滞ってるからって臨床試験用のアンプル奪って行きやがった!あいつら俺の夢を横取りするつもりなんだよ!」
研究者人生がかかってるからなのだろうかいつもの萎びれたダメ男の気迫じゃない
不覚にも気圧されそうになる
「わかった、わかった 落ち着いてくれよ」
多分、多分だが話の流れからすると俺に取り返して欲しいということなんだろう。
だが安請け合いはできない。
桐皇製薬といえばマフィアと繋がりを噂され噂がなくとも私設警備隊は軍隊並ときている。
下手すりゃ死ぬな…
なんて躊躇っていると玄関を物凄い勢いで突破し部屋に飛び込んでくる影がひとつ。
「お父さん!何してんのこんなとこで!今はバカリクなんかと遊んでる場合じゃないでしょ!!」
このキーキー金切り声をあげているのは杏。秀さんの一人娘だ。なにかと昼間から酒ばかり飲んでいる俺を目の敵にしている。まぁ当たり前といえば当たり前なのだが。色々裏で俺が頑張っている事も知らない訳なのだし。そうそう、杏は一見普通の女の子の様だが彼女の左腕は生身の腕とはスペックが違う。その昔まだ幼い杏は不慮の事故で左腕を失いその代わりに秀さんがその当時研究中だった軍用アンドロイドの腕を移植したのだ。見た目は人間の腕と変わりないのたがスペックが物凄い。まさに百万馬力のなんたらヒーローの腕なのだ。
そんな代物を実の娘に移植してしまう当たり秀さんの悪の科学者ぶりか実感できる。
「今は桐皇製薬に乗り込んでアンプルを取り戻すのが先決でしょ!」
とそこで俺は疑問に思う。
「なぁ秀さん。連中なんでアンプルだけ奪っていったんだ?秀さんが無理矢理連れてかれてもおかしくねーし設計図的なもんは奪われてねーのか?」
秀さんは不敵な笑いを浮かべる。
「設計図は絶対安全なとこに隠してあるし俺には杏がついてる。桐皇製薬の奴ら泣きそうだったよw」
俺は鳴りもしない口笛を吹く真似をする。
「流石だな杏の左腕!」
すると杏は拗ねた様子で
「馬鹿にしないで!私、左腕は使ってない!人に使えるわけないじゃない!」
子供の頃から古武術を習っている杏は体術もそこそこやる。大会連覇の最強女子高生だ。まぁ俺からしたらまだまだだが。
「悪かったよ、杏。お前は結構やるからな」
一応これ以上機嫌を損ねるとあれなので平謝りの俺。
「な、なによ急にペコペコしちゃって?ま、分かればいいのよ、私の実力が。」
ちょっと調子づいたな杏w
だが性格の悪い俺は鼻高々のままにはしない。
「貧乳だけどな。」
地獄を見た。
「バッカじゃないのぉーーー」
顔を真っ赤にしながらの左フックが顎にヒット…しそうになる。
ギリギリ避ける俺。
「お前こそ馬鹿かっ!左フックはねーよ!殺す気かっ!」
杏は笑う。
「それが社会の為じゃない?」
ヤバイw殺されるwww
すると秀さんが割って入る。
「娘の夫婦喧嘩はあんまり見たくないんだが…そろそろ行かねーか?」
杏と俺は同時に…
「誰が夫婦だっ!!」