誘惑の歌声
アクトが振り向いた先に美しい人魚が現れた。
「!?」
人魚は岩に座り、美しい声で歌っていた。
コバルトブルーの美しい髪を手で梳かしながら、アクトを誘うように見つめる。
その瞳に敵意を感じず、剣から手を離した。
だんだんとその人魚に魅了され、頭がぼぉっとしていく。歌声をもっと近くで聞きたい。もっとよく聞きたい。アクトの足は無意識に人魚へ向かっていた。
人魚はアクトへ笑いかけ、両手を伸ばす。
手が触れる瞬間、
「ルスストレーリャ」
呪文と共に強い光が2人の間に放たれ、人魚はすぐに水の中に飛び込んだ。
ハッとしたアクトは光が放たれた方を向く。
そこには心配そうに見つめる珊瑚とルミナの姿があった。
「アクトさん!!大丈夫ですか?」
珊瑚はアクトに駆け寄る。
「大丈夫……。俺は一体…」
「人魚の罠に引っ掛かったのよ」
ルミナが冷たく言い放つ。しかし、アクトはルミナへ笑顔を向ける。
「助けてくれてありがとう。助かったよ」
「別にあなたなんてどうなっても良かった。私は珊瑚ちゃんの為にしただけよ」
ルミナはそういうとそっぽを向いた。
「クロートとリヤン、それにサーシャは?」
「大丈夫だよ。2人もね」
リヤンは他の傭兵達を助けながら知らせる。クロートは距離があるが、戦っている姿を確認出来た。
「全く…男がそんなんでどうすんだ?」
サーシャは人魚達の水鉄砲を2つの剣で叩き斬る。
その様子にホッとすると、アクトは気を引き締めた。
「奴らの歌は男を惑わせる。標的にされて歌を歌われる前に対処しないと、さっきみたいになるよ」
リヤンは水面から様子を伺っている人魚を睨みつける。
「男にしか効果が無いなら、あたしらが前線で戦えばいいんじゃないか?面白くなってきたぜ」
サーシャはやる気をみせている。
「確かにそうですね。私達が頑張りましょう!」
珊瑚もアクト達の前に出る。
いつもより楽しそうなサーシャは、双剣を構えた。
「さぁ、バトルを楽しもうぜ!!」