新たな出会い
珊瑚の故郷である日本国に伝わる神話。その中に出てくる"ヤマタノオロチ"との戦いに勝利したアクト達は宿に戻り、身体を休めていた。
「しっかし、何だったんだ?あの蛇」
サーシャはビールジョッキをドンっと置き、先ほどの敵を思い出していた。
「本当に不思議でした……。神話上の生き物が現れるなんて……」
珊瑚の自身、たくさんの疑問が解決出来ずにいる。
近くの壁に寄りかかっていたリヤンは、珊瑚の言葉を聞き、口を開いた。
「でもさ、日本国に居ないだけで、他の大陸には居る可能性もあるだろ?」
リヤンの言う通り、神話上の生き物が存在する場合もあるだろ。昔から伝わる神話には、実際に存在する生き物が神として崇められている事がある。
「確かに。その可能性は否定出来ないな」
腕を組んで頷くサーシャ。
「そういや、あの蛇から見つかった剣はどこにいったんだ?」
サーシャは再びビールに口を付ける。
「草薙の剣ですか?」
珊瑚は飲みかけのオレンジジュースの入ったコップを机に置き、首を傾げた。
草薙の剣とは、ヤマタノオロチを討伐後に見つかった剣の事だ。硬く、斬る事が出来なかった尻尾のある部分にあったと思われる。神話では、須佐之男命がヤマタノオロチから手に入れた伝説の剣と言われている。
「それならクロートが伯爵の所に持って行ったよ」
リヤンが珊瑚の代わりに答える。
同時刻。クロートはエドワード伯爵の城"モアナ城"に来ていた。
「......という事がございました。こちらはその大蛇から見つかった剣でございます」
クロートは跪き、草薙の剣を伯爵へと献上した。
町人を襲っていた蛇の正体などを事細かく説明する。信じてもらう事は難しいだろうと思っていたクロートに反し、伯爵は静かに、そして納得をするかのように話を聞いていた。
「ご苦労であった。諸君らは素晴らしい活躍をしてくれた。そこで提案なんだが......城抱えの傭兵にならないか?」
突然の伯爵からの提案に、クロートは驚いた。
「ありがたき幸せ」
クロートはすかさず頭を下げる。城抱えの傭兵は、手柄を立てれば騎士として認めてもらえる。騎士は、アクトの幼い頃からの夢だ。幼い頃からアクトを知ってしるクロートは、アクトの夢をどうしても叶えてやりたかった。
「うむ。それでは明日、新たな任務を言い渡す」
「っは」
こうして、アクト達は城抱えの傭兵となった。
その頃。アクトは夜の町を歩いていた。
夜のにも関わらずマルシェには人々が賑わい、活気で溢れていた。華やかな通りを歩いていると、6歳ぐらいの少年を守るように男と向かい合っている少女がいた。少年は今にも泣きそうになっている。少女はアクトと同じ歳ぐらいで、男に負ける気はなく立ち向かっている。
「てめえ!!なめてんのか!?」
男は少女の胸ぐらうを掴み、罵声を浴びせる。
「こんなに小さい子を脅すなんておかしいわ!!」
少女は怯むこと無く言い返す。
「女のくせに!!」
男はそう言うと少女に向かって拳を振り下ろす。
「!?」
男の拳はアクトによって止められた。
「女の子に手を出すのはいけないと思うよ」
アクトは笑顔で言っているが、腕を掴む力は強く、男の表情は悲痛なものだった。
「何だてめえ!!邪魔すんな」
男はアクトに向かって叫ぶ。
「そんなに叫んでるけど……周りを気にした方がいいと思うよ?」
男は周りを見渡す。誰も周りに居なかったはずが、人だかりができていた。男は分が悪いと思ったのか、舌打ちをしてその場から立ち去って行った。
「大丈夫?」
少女は振り向き、少年に声を掛けた。震える少年の頭を優しく撫でる。
「もう大丈夫だからね?気を付けて帰りなさい」
少年は無言で頷いた。
「ありがとう。お姉ちゃん、お兄ちゃん」
そう言って走って帰っていった。
「君も大丈夫だった?」
アクトは少女に向き合うが、少女はアクトを睨みつけた。
「あなたの助けてなんて要らなかったわ」
それだけで言うと、少女は歩き出した。
「待って!!」
声を掛けたが、少女は振り向くこと無く行ってしまった。
翌日。アクト達はモアナ城に来ていた。
案内された部屋は豪華な装飾がいたるところに飾られ、広々とした広間だった。中には、すでにたくさんの傭兵達が集まっていた。
「城抱えの傭兵ってのはこんなに居んのかよ」
サーシャは他の傭兵を睨みつけるように見渡しながら言った。
「俺達以外にもこんなに……。そんなに危険な任務なのか?...............ん?あの子」
アクトはサーシャの隣に立つ。すると、昨日の少女が居る事に気づいた。声をかけようと思ったアクトだったが、伯爵と騎士が部屋に入って来たため、全員が膝をつき、頭を下げる。
「儂はこの城の指揮官をしているクラストだ」
指揮官をしているクラストは今回の任務について説明を始めた。
最近、町外れの入江に行った若い男達が姿を消すという事件が起きているという。そこで、傭兵達に捜査をしてほしいという。
「諸君達の健闘を祈る」
伯爵がそう言うと、クラストと共に部屋から出て行った。
話が終わり、アクトは昨日出会った少女の元に向かった。
「君も傭兵だったの?」
「あなたは昨日の……」
少女はアクトの顔を見て驚いた。
そんなやり取りを見ていたサーシャ達は2人のそばへ近づく。
「おいアクト!!その可愛い子は?」
面白がってアクトをからかう。
「その……」
アクトが困っていると、少女が口を開いた。
「この人とはまったく関係ありませんから」
そう言ってその場から立ち去ろうとした。
「あの!!」
珊瑚が少女を呼び止めた。珊瑚の姿を見た少女の目が変わった。
「!?こんな幼い子に危険な任務をやらせようとしてるの?信じられない」
少女はアクト達を睨みつける。突然の事にアクト達は驚いた。
「待って下さい!私の意思でここに居るんです」
珊瑚は前に出て言う。
「……。そこまで言う理由が分からないわ。2人で話せる?」
少女は珊瑚を真っ直ぐに見つめる。
「分かりました」
そうして、珊瑚は少女と2人で話をする事になった。
城の敷地内にある、中庭のベンチに座り、話をしていた。
「ねぇ、あなたはどうして……」
少女は珊瑚の事を凄く心配をしたいた。今日が初めて会うはずだが、少女は自分の事のように気遣っていた。
「お話をする前に、自己紹介をしますね?私は珊瑚と言います」
「私はルミナ。数年前からこの城で傭兵をしてるわ」
少女はルミナと名乗った。
「珊瑚ちゃん…どうしてこんな危険な所に?一緒に居た人達が無理やり?」
ルミナは珊瑚の手を優しく手に取る。
「違います!私の意思です。私はアクトさん達に助けて頂きました。その恩返しがしたかったです。私の力で、少しでも皆さんの力になれたらって……」
珊瑚の真剣な瞳にルミナは心を打たれた。
「彼らの事を信じているのね」
ルミナは珊瑚の頭を優しく撫でる。
「.........」
珊瑚の中で、ルミナへの印象に少しだけ違和感を覚えた。ルミナは本当は心の優しい人だと確信出来た。しかし、アクト達へのあの態度は何だったのだろうか。
「でもね。今回の任務は参加をするのは辞めた方がいい。珊瑚ちゃんが彼らと一緒に居たいなら……彼らにも辞める事を勧めるわ」
珊瑚とルミナはアクト達の元へ戻って来た。
「珊瑚ちゃんの事を考えるなら、今回の任務は辞めるべきよ」
ルミナはそう冷たく言い放ち、立ち去ろうとした。
「ルミナさん!!誰かとチームを組んで居ないのなら、私達と任務に行きませんか?」
珊瑚の突然の提案に、ルミナだけではなく、アクト達も驚いた。
「まぁいいんじゃねぇか?女の子を1人で戦わせるわけにはいかないしな」
サーシャが笑顔でルミナの隣に立つ。
「結構よ。私に仲間何て必要ない。1人で戦っていける」
「待って!!危険な任務なら尚更……」
アクトの言葉を最後まで聞かず、ルミナは去って行った。
珊瑚はルミナの背中を心配そうに見つめていた。