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不実の夢  作者: 神崎真紅
9/11

「・・・今夜は寝るか。」

碧が気を使っているのが判る。


「ん・・・。」


それでも華恋は自分で決めた事なのに、まだ未練が断ち切れていなかった。


「ひ・・・っく・・・。」

碧のベッドの中で、声を殺して嗚咽する華恋を、碧はただ抱き締めた。


「ひ・・っく・・・。」


華恋のすすり泣きは止まない。


碧の唇が華恋の唇に触れる・・・。

柔らかい・・・。

今夜だけは泣かせて。


「ごめ・・・碧・・・。」

「気にすんなよ。あたしでよければいつでも慰めてやるぜ?」


それ・・・。

どういう意味に取ったらいいのかな・・・??


「碧・・・。」


「何?」


少し躊躇いながら、華恋は言った。


「あたしを・・・抱いて・・・。」


「本気か?」


「うん・・・。碧をこんな事に巻き込みたくなかったけど・・・。あたし自分で自分が支えきれないの・・・。」


「ふぅん・・・判った。」

そのままふたりの身体は重なっていった。





「ふ・・・ぇ・・・。」


「まだ泣いてんのか?」


ベッドの中、ふたりはお互いの体温を確かめ合っていた。


「ご・・・め・・・。」


「いいよ、泣けよ。但し今夜だけだからな。」


「ん・・・うん・・・。」

細い肢体で碧は華恋をただ、抱き締めていた。


「碧・・・。」


「何だ?」


「あたし・・・薬飲まなくちゃ・・・。」


薬?


「何の薬だよ?」


「・・・安定剤と睡眠薬。」


安定剤?

睡眠薬??

そんなに弱くは見えなかった華恋の、裏の顔。


「・・・いつからだ?」


「さぁ・・・陸と付き合い出して・・・それから・・・。」


華恋の瞳から涙が零れ落ちた。


「最初に・・・知らない女の子と一緒にいる所に・・・鉢合わせしちゃって・・・。」


もうそれ以上聞く必要はなかった。


「そっか・・・辛かったな。」


わっと、堰を切ったように華恋は泣いた・・・----。




碧は何も言わなかった。

何も聞かなかった。


ただ、華恋が泣き止むまでずっと頭を撫でていただけだった。


華恋にはそれが嬉しかった…。


やがて睡眠薬が効いてきた華恋は、碧の腕にしがみついたままの状態で眠りに堕ちた。





…―朝。



「きゃぁぁぁ〜。」



けたたましい華恋の声に、碧はベッドから飛び上がった。



「…何だよ?五月蝿せぇなぁ〜。」



「あ…、あたしの、顔がぁぁ〜。」



「あ?顔がどうし…ぶっっ…。」



「笑ったね?今、笑ったよね?」



くっくっ、と堪えてはいるけれど、漏れる笑い声。


次第に声が大きくなり、碧はけらけらと笑い出した。


「何?その顔は…?泣きすぎか?」



「知らない〜。あたし今日休む!」


「駄目だ、そんな事あたしが許す訳ねぇだろ?」


「碧ちゃ〜ん…。酷くない?」



「全然!冷やせばそんな腫れ直ぐに退くって。とにかく会社は休むなよ。上司命令たからな。」



なななな何よ?

それって職権乱用じゃないの?



「もう!判ったよ。…とにかく冷やさなくちゃ。」



ほ…。

少しは元気になったみたいだな…。



「華恋、遅刻だぞ。」



「華恋、早く支度しろ。マジで遅刻だ。」



う〜。

こんな顔で会社なんか、行きたくないよ〜。



「碧ちゃん…。休ん「だ〜め〜だ〜。」」



もう!

判ったよ。


「判ったよ、でもあたし今日仕事にならないと思わない?」



「全然大丈夫だ。仕事は山の様にやらせてやるからな。」



非道〜。

碧って、優しいのか何だか判らないなぁ。


でもあたし…昨夜は碧と…。

本人は全然何もなかったみたいなんだけど?


おかしいなぁ?

やっぱり碧って、そっちの趣味なんじゃないのかなぁ?



「?何独りで百面相してんだ?」


「ひゃ、百面相って酷い…。」


碧はけらけら笑いながら、華恋の手を掴んで歩き出した。


華奢なその手に、引っ張られる様に華恋も歩き出した。



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