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不実の夢  作者: 神崎真紅
8/11

次の日。

まだ寝ていた碧を起こしたのは・・・。



「きゃぁぁ〜。いったぁ〜ぃぃ・・・。」


荷物を運んでいて、見事にこけた華恋の悲鳴。


「るっせぇ〜。何やってんだ?朝っぱらから。」


碧の怒鳴り声が頭上から響いてきた。


「碧ぃ〜・・・立てない。」


「あぁ?何やってんだ?てめぇは?」


そう言いながら手を差し出した。

その手が思ったより、暖かくて・・・。


あたしは不覚にも涙が零れ落ちた。



「な、何だよ。泣く事ねぇだろ?」


「・・・違うの・・・あたし・・・陸と別れちゃった・・・。」


はぁ〜・・・---。


そういう訳かよ。


「とにかく立てよ?コーヒー飲んでから片付けようぜ?な?」


そのか細い腕からは思いも寄らない力で、あたしは碧に引っ張られた。




・・・----リビング。



「ねぇ・・・?碧?これってコーヒーって言うのかな?」



目の前には缶ビール。


「いいじゃねぇかよ。飲みたい時が旨いんだぜ?」


・・・物凄い理屈。

でも、悪くないかも。


華恋にようやく笑顔が戻って来た・・・-------。


「この部屋、華恋の部屋だぜ。」


ワンルームと違って、二面に窓がある。


「きゃぁ〜、明るい〜。景色最高じゃん。」


窓からは河川敷が見下ろせる。


「あたしの部屋と同じ造りだけどな。いいだろ?」


きゃっきゃっと、はしゃぎながら華恋は言った。


「ねぇ、碧。あたし買い物行きたい〜。」


「あぁ?何買うんだよ?」


「この部屋に合う家具〜。」


「んなの後でもいいじゃねぇか。」


「だって・・・あたし寝るとこない・・・。」



碧は華恋の頭をくしゃっと撫でて、それからこう言った。



「今夜はあたしの部屋に泊めてやるから、な?」



えぇぇぇ〜???


「み、碧やっぱりそっちの趣味・・・。」



「てめぇ、人が親切にしてやってんのに何だよ?判った。てめぇは今夜床で寝ろ。」


「いやぁ〜ん、碧ちゃんそれ酷いわぁ〜。」


弾けるような笑い声が、部屋中に木霊した。


楽しいな・・・。


もう、陸なしでも大丈夫だよね?


さよなら・・・陸。

もう・・・会わない・・・-----。


「碧って猫みたいだよね?」


近所のスーパー迄の道で華恋が言う。


「んじゃ華恋は犬だな。キャンキャンよく吠えるし。」


「ひど・・・。」


「んだよ?華恋が先に言ったんだろ?・・・ってあれ?華恋?」


華恋はまたしても可愛い雑貨屋に引っかかっていた。


「てめぇはマジで紐つけるぞ。」


「だって可愛いお店が・・・。あっこれ、可愛いと思わない?」


「全然。」


碧は煙草を咥えながら素っ気無く言った。


うっ・・・。


「たまには一緒に可愛いって言ってくれてもいいじゃんか〜。」


「だってあたしの趣味じゃねぇし。」


全く正反対の性格のふたり。


「じゃあ今夜のご飯は何?」


「何だよ?あたしに作れってか?」


「あれ?違うの?」


「てめぇにはドッグフード買ってやるよ。」


「碧ちゃ〜ん?あたし本当に犬扱いじゃないのかしら?」


「だって犬だろが?」


「今夜のおかずは焼き魚ね?碧?」


スーパーのカゴに干物を入れる華恋。


「てめぇは今夜メシ抜き。」

「あっ、忘れてたぁ。」


「・・・何だよ?まだ何かあんのか?」


「シャンプー切れてたんだ。ちょっと待ってて。」


やれやれ・・・。


碧は縁石に腰を下ろして、煙草に火を付ける。

その仕草が何故か、人目を引く程カッコいい。


細身の身体にミニスカート。

キャミソール。

道行く人の誰も真似の出来ないファッションだ。


「お待たせ〜。」


よっこらせ、とばかりに碧は立ち上がり言った。


「帰るか?」


「うん。」


まるで恋人同士の様に腕を組んで歩いた・・・。


その時、華恋は碧の左手首にあるものを見てしまった・・・----。



・・・----碧のマンション。


「華恋、風呂頼む。」


「了解ぃ!!」


なるべく気にしない様に、華恋は陽気に振舞った。



「一緒に入るか?」



「またなの〜?碧ちゃんやっぱりそっちの趣味・・・ぶっ。」


碧に頭からシャワーの攻撃を受けた。


「も〜。酷くない??」


「あぁ?誰が悪いんだ?」

仕方なく華恋はびしょ濡れの服を脱いで碧と一緒に・・・。



「・・・碧?聞いてもいい・・・?」


「何だよ?」


「その・・・傷。自分でやったの・・・?」


碧の手首には無数の躊躇(とまど)い傷が付いている。



「ああ・・・これ。癖みたいなもんなんだ。」


「そう・・・。」


もうそれ以上華恋は聞こうとはしなかった。


いつか・・・-----。




「あ〜すっきりしたぁ。」


華恋が髪を拭きながら、冷蔵庫を開ける。



「おい、華恋。」


「あら?なぁに?碧ちゃん。」



「何さりげなくビール飲んでんだよ?」


「あらぁ〜、ごめんなさい。碧ちゃんも飲むわよね?」



「当たり前・・・じゃなくて、てめぇには遠慮ってもんがねぇのかよ?」


「?何を遠慮するの??」

あ〜・・・。

頭いてぇ・・・。

こいつと一緒に住むの取り消そうかな・・・。


その時、華恋の携帯が鳴った。


ディスプレイには・・・陸の名前。


華恋は出るのを躊躇った。

「・・・どうした?誰から?」


「・・・陸。」


碧の表情に曇りが見えた。

プツッ!


「・・・もしもし。」


「華恋?お前今何処?」


「会社の人のマンション・・・。」


「お前・・・本気なの?」

「そうだよ。だからもう・・・あたしに関わらないで。」


「判った・・・元気でな。」


ツーツー・・・と虚しく響く音。

華恋はその場に座り込んだ・・・------。



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