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「ねぇ?ここ賃貸?キッチン広くていいなぁ。」
華恋が食器を洗いながら聞く。
「あたしは一応主任だからな。ここは賃貸だよ。家賃はびっくりするぜ?」
碧はコーヒーを淹れながら答えた。
「…あたしもここに引っ越しちゃおうかなぁ〜。」
華恋はケーキを皿に取り分けながら言う。
まだ食うのか…。
何処に入るんだよ?
呆れ顔で見つめながらも、碧は段々と華恋のマイペースさに癒やされていた。
…初めてなんだ。
女友達ってさ。
…―――いいもんだな。
あたしはいつもひとりだったんだ…。
母親に捨てられて以来、誰かを信じる事が出来なくなっていた―――
碧の悲しい生い立ちだった…――――
「華恋、此処に引っ越して来いよ?」
「えっ??」
「その代わり家賃半分出せよ?」
碧の突然の言葉・・・。
何を言っているのか、きょとんとしていると・・・。
「一緒に住もうぜ?な?」
「本当〜??」
華恋の瞳が輝いていた。
楽しかった碧との時間。
それがずっと続くの・・・?
「きゃぁ〜。本当にいいの??」
碧に抱きついて華恋は聞いた。
「あたしがいいって言ってんだぜ。当たり前だろ?部屋ひとつ余ってるしな。」
「いやぁ〜ん。碧大好きぃ〜。」
「その代わり、プライベートはきっちり別けろよ?」
「何それ?」
「あたしに黙って男なんか連れ込むなって事。」
「そんな事しないよ。男なんかより碧の方が大事だもん。」
そうだよ・・・。
陸なんかよりずっと大事だよ。
ずっと・・・。
好きだったんだから。
ただ・・・。
遠い人だと思ってたから。
あたしには手の届かない場所にいる人だって・・・。
「えっ?ねぇねぇ?いつ越して来ていいの?」
「華恋の好きにすればいいさ。これ合鍵渡しとく。」
・・・これは夢???
夢ならお願い覚めないで・・・-----。
碧から合鍵を受け取ったその日のうちに、華恋は荷造りを始めた。
「どうせ家具付きのアパートだもん・・・。」
持って行く物は、身の回りの物だけだった。
そして・・・。
陸に短いメール。
『会社の女の子と一緒に住む事にしました。ここは陸の好きにして下さい。』
「ピッ・・・と送信っと。」
直ぐに折り返して、陸から着信が入った。
「「華恋?何?このメール。」」
「何って、書いた通りだよ。あたしここ出て行くから。」
「「随分急なんだな。俺の意見はなしか?」」
「陸に意見される覚えはないよ。」
「「ふぅん・・・そっか。判った。」」
ツーツー・・・と、虚しく響いた電話の音。
「あれ・・・?変だな・・・。」
知らずに涙が零れ落ちた。
華恋はそれをグイッっと袖で拭って、立ち上がった。
これから始まる碧との生活に期待を膨らませて・・・-------。