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あたしの気持ちは、碧さんにとって迷惑なんだ、と思ってた…――
なのに…?
嬉しい…?
「華恋、仕事終わったら呑みに行こうか?」
「え…?」
「あたしとじゃ嫌か?」
「そんな、嫌な訳ないじゃないですか。」
寧ろ嬉しいよ〜…。
「あはは。じゃ決まりな。」
「はい。」
就業時間を、これほど待ち焦がれた日はなかった…―----
陸との待ち合わせですら、こんな気持ちにさせてはくれなかった。
あたしにとっての、碧さんは
『憧れ』
そう。
その言葉がぴったり当てはまる人。
…これは恋心じゃないの?
違う。
ただの思い過ごしだよね?
…――――――就業。
「わりぃな。待っただろ?」
…―――30分はそこに立ってただろうか。
「いえ、あたしも今来たとこですよ。」
「そっか。行こうか?あ〜…何処がいい?」
「特には…。メニューの多いとこがいいな。」
「じゃ、居酒屋か。美味い店あるんだ。」
「主任に任せます。」
「任せるのはいいけどさ、仕事じゃねぇんだ。碧って呼んでくれよ?華恋?」
「碧…?呼び捨てで?」
「いいじゃん。あたし達友達だろ?」
「友達…そうですね。」
…あたしの感情って
『友達』
なのかな…?
「華恋、ここだよ。」
「碧さんらしいお店ですねぇ。」
「だから敬語やめろって、言ってんだろ?」
「・・・いきなりは、ちょっと抵抗ありですよ〜。」
「じゃあ、とことん呑もうぜ、な?」
「それはOK!行きましょ。」
・・・・-----ふたりの姿が店の奥に消えてゆく。
「華恋、何飲む?」
「取りあえず生ビール。」
「じゃああたしも。生ふたつお願い。」
そう言ってから、碧はポケットから煙草を取り出した。
「あ、煙草いいか?」
「あたしも吸うから、大丈夫。」
碧の煙草・・・。
セブンスター・・・------。
陸と同じだ。
「華恋、乾杯しよ?」
「何だか会社とは別人だね?」
子供みたいにはしゃぐ碧にそう言った。
「あたしさ、こんな性格だろ?女の子同士でこんな風に話した事ないんだ。」
ふっ・・・と、寂しそうに言ってから、紫煙を吐き出した。
「あたしが・・・いるじゃない。もうひとりじゃ、ないよ?」
その夜あたしは、陸の悪口を散々碧にしゃべっていた。
碧はけらけら笑いながらも、ただあたしの話を聞いているだけで、自分の事は何一つ、話しはしなかった。
「・・・ここ何処・・・???」
見覚えのない部屋。
隣りに眠っているのは・・・。
碧??
あたし。
また潰れちゃったのかぁ〜・・・。
華恋はあまり酒に強くない。
のに、飲みだすと記憶がなくなるまで呑む癖があった。
そっとベッドから抜け出して、財布だけ持って近所のコンビニに走った。
昨夜の化粧も落としてない。
それから・・・。
華恋はコンビニで朝食の材料を買って、急いで碧の部屋に戻った。
・・・----その頃、碧は・・・。
「・・・あれ、華恋??」
ぼ〜っとしたまま、隣りに寝ていた筈の、華恋の姿を探していた。
部屋には、華恋のバッグが無造作に置いてある。
「買い物でも行ったのか・・・?」
昨夜あまりにも楽しかった碧は、少し二日酔い気味だった。
バスルームに行き、浴槽にお湯を溜める。
その時、ドアが開いて華恋が入ってきた。
「あ〜おはよ〜。起きてたんだ。」
「・・・何?そのでかい袋?」
「朝ごはんだよ?」
「朝メシ〜??食えるか。それより風呂、入るだろ?」
「入る。でも・・・折角買って来たんだし、あたしご飯作るよ?」
「いいって。マジで食えねぇから。風呂入るんなら、一緒に入るか?」
はいいい???
「碧さんって、もしかして・・・?」
「おま・・・今、何か誤解しただろ?」
「え?違うの??」
「ちが〜うってば。じゃなきゃ彼氏なんか作るかよ?」
あ・・・そうでしたね。
「昨日の話、最高に面白かったぜ。」
「あれはあたしの不幸話なんだけど・・・。」
けらけら笑いながら、碧は服を脱ぎ捨てバスルームへ向かう。
「華恋?早く来いよ。」
・・・本当に一緒に入るんだ。
あたし女の子と一緒にお風呂入った事ないよ〜・・・。
華恋は恥ずかしそうに、そっとバスルームに向かった。
「何照れてんだよ?風邪引くから早く入れよ。」
えぇ〜い!
勢いで碧の入っていた浴槽に入る。
ふたり・・・向かい合って話し始める。
「昨夜面白かったな。あたし女の友達って、いないからさ。」
「そうなの?信じられないけどなぁ?」
ふふ・・・------。
「華恋があたしの初めての友達だな。」
「碧さんの初友達かぁ〜。」
「おい、さんはいらねぇだろ?華恋幾つだよ?」
「あたし22。」
「あたしも22だよ?同じ年なんだからさ、敬語使うなよ?」
「えぇぇ〜??同じ年なの〜?信じられない。」
「何だよそれ?あたしがババァに見えるってか?」
「言ってないから、そんな事。ただ・・・綺麗だから年上かなって。」
「ははっ、綺麗かよ?言われた事ねぇな。」
そう言って笑った碧の透き通るような、横顔は完全にあたしの心を掴んでしまった・・・-----。
「・・・華恋は可愛いよな。彼氏何処に目付いてんだろなぁ・・・あたしが貰っちゃうかな?」
「は、はいいい〜??みど・・・碧?何言って・・・。」
その言葉を遮ったのは、碧の柔らかい唇だった。
――・・・突然の碧からのキス…―――
「み・・・碧?そっちの気はなかったんじゃないの?」
「何だよ?キスくらい、挨拶だろ?」
…本当にそうかなぁ〜。
まぁいいか。
陸より良かったかもね。
「先に出るぞ?」
そう言って、碧はバスルームから出て行く。
華恋は少し遅れて上がって来た。
リビングからはコーヒーの香り。
「飲むだろ?」
碧がカップを渡す。
「ありがと。ついでに牛乳と砂糖、貰える?」
華恋は相当な甘党で、ブラックでは飲めないのだ。
「おま…だから会社の砂糖とミルクの減りが、うちの部署だけ早いのか。」
「何〜?あたしのせい?」
ふたりは顔を見合わせて、笑った…―――