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「あ〜、美味しかった。あたしこのお店初めて入ったけど美味しいね。」
「まぁな、あたしは蕎麦にはこだわりがあってな。中々美味い店ってないもんだぜ…って、あれ?華恋?」
「ねぇねぇ碧、まだ時間あるしさ、お茶して行こうよ?」
また始まったよ。
「本当に華恋って勝手だよな。」
「何それ?碧ほどじゃないと思うけどな。」
「てめぇ…、よーく判った。後で覚悟しとけよ。」
「ななななんなのよ、その言葉は?碧の意地悪ぅ。」
「午後からたっぷりと働かせてやるからな。」
「あ、あたし急よ…「大丈夫だ。仕事終わったら付き合ってやるからな。」」
あたし…。
昨日陸と別れたばっかりなんだけど…。
♪〜♪〜♪
華恋のケータイが突然鳴った。
陸…?
「どした?誰からだ?」
「…陸。」
碧の表情が一瞬曇った。
「出ねぇのか?出たくねぇのか?」
「出るのが…恐い…。」
「あたしが出るか?」
碧の思いがけない言葉に、華恋は戸惑いを隠せなかった。
そのままケータイを碧に渡した。
「もしもし?あんたが華恋の元彼か?」
「元彼?君、誰?何故華恋のケータイに出るの?」
「華恋が出たくねぇって言うからだ。」
「碧…もういいよ。陸に昨夜の事話せば…陸とは終わるから。」
ふん!
今はあたしの華恋だっての。
気に入らない奴だな。
「あんた、陸って言ったか?その耳でよーく聞きな。華恋はな、昨夜あたしが貰った。」
「貰った?どういう意味かな?」
「何だ、察しの悪い奴だな。貰ったって言ったらひとつしかねぇだろ?」
どひゃ〜…。
滅茶苦茶恥ずかしいんだけど。
「み、碧〜、もういいよ…。」
「あぁ?こいつが飲み込みが悪いからだろが。」
「ねぇ、君。華恋に替わってくれない?華恋の口から聞きたいんだけど。」
「…ちょっと待ってろ。」
碧は無造作に華恋にケータイを渡した。
「華恋の口から聞きたいってさ。ガツンと言ってやれよ?」
ふぇ?
あたしが自分で言うの?
仕方なくケータイを受け取り、沈んだ口調で話し始めた。
「…今碧が言った事、本当だよ…。あたし碧が好きなの。だからもう陸とは会わない。」
「え…。だって女同士じゃないのかよ?」
「それでもあたし碧が好きなの。」
「…俺が女に負けるなんてな。仕方ない、潔く身を引くよ。じゃ、元気でな。」
「何だ、ちゃんと言えたじゃねぇか。」
「う…っく、ひっ…く…。」
華恋の瞳から、零れ落ちる涙を見て、碧は何も言わずに華恋を抱き締めた。
「いいよ、泣けよ。但しあくまで今だけだからな。」
「ありがと…碧…。」
碧の細い腕の中で、華恋は泣いた。
涙が渇れるまで泣きじゃくった。
碧はただ、黙って華恋を抱き締めていただけだった。
何も言わずに…。
華恋には碧の存在だけが救いだった。
さよなら…陸。
本当に愛してたよ…。
これからあたしは碧を愛するからね…。
陸もいい人見つけて幸せになってね。
今までありがとう…陸。
偽りのない華恋の気持ちだった。
「華恋、仕事に戻るぞ。」
「はい?碧ちゃん、あたしこんな顔「あたしがついてるだろ?華恋には。違うのか?」」
「違ってないけどあたし会社に戻る気になれないよ…。」
「上司命令だ!」
また無茶言ってるよ…。
「職権乱用反対〜。」
「その元気があれば大丈夫だ。行くぞ。」
引き摺られる様に、華恋は碧に会社に連れ戻された。