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不実の夢  作者: 神崎真紅
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「お早う!」



「お早うございます、主任…と伊藤さん?」



華恋は雛に引っ張られた。


「華恋!何で主任と一緒に出勤して来たのよ?」



「あ〜、色々あってさ、あたし今主任の部屋に引っ越したんだ。」


「へっ?何それ?展開早くない?」



「いや…、どっちみち陸とはもう無理だと思ってたしね。」



「それにしたって華恋やる事が…。」



「まぁまぁいいじゃないの。あたし主任と一緒の方がいいもん。」


「え??それってまさか…?」



その時、碧に呼ばれた。



「伊藤、コーヒー。」



「あ、はい。」



碧にコーヒーを渡して仕事に就こうと思った瞬間。



「華恋、あの娘と仲良く何話してんだよ?」



「えっ?何が?」



それは紛れもない嫉妬だった…。



「あの娘だろ?雛ってのは。」


「そうだけど…何で主任怒ってるんですか?」


周りを気にしながら、華恋は敬語で話した。

部署内がざわついている。

「今日の被害者は伊藤さんか?」


「でも彼女何も失敗してないんじゃ…?」


「お前ら、煩いぞ。自分達の持ち場に戻れ。」


碧の一声で、騒然としていた部署内が、水を打った様に静まり返った。



−…−…キーンコーンカーンコーン…−…


お昼を告げる鐘が鳴った。皆、其々昼食を摂るべく外に出ていった。


華恋は…。


「「華恋。」」


碧と雛、ふたり同時に呼び止められた。


「あれ?碧ちゃんは怒ってたんじゃ?」


「ふざけるな。てめぇは誰と昼メシ食いに行くんだよ?」


「あ…あの、あたしは遠慮します。」


雛子がふるふる手を振りながら、一人でエレベーターに飛び乗った。


「雛どうしたのかな?」


相変わらず能天気な華恋だった。


「華恋、メシ行くぞ。」



「待ってよ?碧何か怒ってる?」


「…別に。」


そうかなぁ?

怒ってる様に見えるんだけど。


なんて考えてたら、碧はさっさと蕎麦屋に入って行った。


「早く来いよ。」


「碧ちゃん、今日はお蕎麦なの?」


「あたしが食いてぇからだ、華恋も一緒だろ?」


ふぅん…。

お蕎麦な気分なんだ。

って、どんな気分だし?

ま、碧が自己中なのはよく判ってる事だし。



−…ガラッ!

蕎麦屋の暖簾をくぐり抜け、店内に入る。


「いらっしゃいませ、二名様ですか?」


「そうだよ、小上がり空いてるか?」


碧は常連らしく、お店の人がにこやかに応対していた。


「こちらどうぞ。」


先客の器を片付けながら、直ぐに席を用意してくれた。


「碧ちゃん、このお店よく来るの?」


「そうだな…、いつもひとりだからな。」


いつもひとりでお昼食べてたんだ。


「もうひとりじゃないよ?」



碧は煙草に火をつけ、笑いながら紫煙を吐き出した。


「そうだな、これからはペットが一緒だな。」


「み、碧ぃ〜、ペットって何?」



「あぁ?てめぇの事だろが?あれ?違ったっけ?」


華恋はムスッとして、同じように紫煙を吐き出した。


「華恋煙草似合わねぇな。」



碧が微笑みながら言った。


「そう?あんまり考えた事ないけどな。」



「自分の事は判らねぇってか?」



碧が妖しく笑って言った。


「何?その意味深な笑い方は?」



「さぁな。ほら、蕎麦来たぜ。」



−…暫しふたりのお蕎麦を啜る音が響いた。


ふと気付くと、カウンターに座ったサラリーマン達の視線は、碧に集中していた。


綺麗だからなぁ…。

性格悪いけど見えないしなぁ…。


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