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二年生の夏。
部長の計らいで、文芸部員全員で小説を出版社に送り付ける事になった時は驚いた。
僕は無理だ。とすかさず断ったにも関わらず、部長は黙って僕に大量の原稿用紙を渡してきた。
「締め切りは一ヶ月後の8月20日だ」
夏休みに部活に来るはめになった瞬間だった。
長編が苦手な僕は短編をいくつか書いて乗り切るつもりだ。
沙希は以前から書いていた恋愛小説がそろそろ終わりそう。と嬉しそうに話していたから、多分それを送るのだろう。
はたして沙希は、あの約束を覚えているだろうか。
物語を書いたら、最初に読ませてくれる。という約束を、覚えているだろうか。
いや、多分忘れている。
忘れっぽい沙希の事だから、将来の話をした事すらきっと忘れているに違いない。
そう思うと、少し胸の辺りが苦しくなった。