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夏祭り①

※あと3話で豹変します。

時給一年 7/19 夏 夏祭り

第四章 夏後半

今日は夏祭り。

お祭りという響きだけでも街全体が活気付いて騒々しくなる。お祭りは昼から夜にかけてだというのに朝イチから美容院で髪を整えたり浴衣を着て歩いたり、いつもと違う雰囲気が漂っている。

いつもの場所に自分たちは集合していた。みんな浴衣姿。私は白地に花、灯はピンク柄に花、蓮は黒地に花火、透は黒の無地、朔は青地に錦鯉、ムギはムギの出立ち。ムギは灯と澪の間に陣取っている。

朔は帯にお祭りの広告が印刷されたうちわを指している。

「さて!今日は夏祭り!!騒ぐぞー!!」

いつも以上にテンション高く朔が言う。

「いつも以上に騒いだらお前、お巡りさんだぞ?」

「ああ!祭りの平和は俺が守る!」

「お前が捕まると言っている」

意味を取り違えている朔に間髪入れずに透が訂正する。何からでもこの2人は漫才ができる。

「で、今日の予定は?」

蓮が言う。

「夏祭り一通り回って、知り合いの焼きそばの店をちょっと手伝おうと思ってる」

「ふーん、焼きそば手伝うんだ」

蓮はがんばれーと言いながら手を振ってムギの横にしゃがむ。ムギは女子3人に頭や体を撫でられている。

「うん、“俺ら”でな」

「ん?ムギ、お腹痛いの?そしたら今日はゆっくりしといた方がいいかもねー。お祭り楽しんだら帰ろうねー」

蓮はわざとらしく背中のあたりを撫でている。ムギは体を丸めて何か言っている。

「何で夏祭りに働かないといけないの!?私は遊びたいの」

小声で蓮はムギと会話している。最近では慣れたけどやっぱり不思議だ。

「なんと!手伝ってくれたワンちゃんにはチュールプレゼント!」

ムギの耳がピクンと動いた。

「チュールは猫でしょ……ってムギー!?」

気付いたら透の足元にいるムギ。蓮と灯と目があった。呆然として一瞬のはずなのにものすごい時間目があってた気がする。

「買収」

キランと眼鏡が光る。カシャッとシャッター音が聞こえた。

「この眼鏡が!」

「みんな同じ顔してたぞ笑」

朔が笑いながら見せてくる。私も灯も蓮も目を丸くしていた。

「でも何で焼きそば手伝うの?」

灯が訊く。

「焼きそば焼いてる知り合いなんだがな、祭の神輿を担ぐ予定の親戚が骨折したとかで神輿のことやってる間だけ頼まれたってわけよ」

「即お断りなわけよ」

「ムギはこっち側なわけよ」

「ぐっ」

「何で私たち巻き込まれてるんだろうね?」

「ねー、朔と透で引き受けたなら私たち関係なくない?」

「そーだそーだ」

私たち女性陣は反論する。せっかくの夏祭りにお仕事なんて。それに焼きそばを焼くなんて。蓮なんて頬を膨らませて抗議している。

「大丈夫、焼きそばは俺らが焼く」

透が言う。蓮と目が合った。信じられないと言った表情だった。

「焼きそばは焼けるけど他のことできないからな。そこをカバーしてもらいたいし、女子がいるだけで若い男は買ってくれる!」

「あんたは鼻の下伸ばして買うでしょうね」

蓮が呆れながら言う。

「あれ?お花見の時『生きて帰りたいだろ?』って言ってなかった?」

私が言うと、

「切ってある野菜に麺とソースを混ぜるだけだろ?それなら俺でもできるって!」

余裕じゃんと朔は胸張っていっている。

ムギが一度吠えた。蓮は笑っている。

「ムギはなんて?」

灯が蓮に訊いた。

「『玉子焼きなのに玉子を焼く前に失敗した人2人知ってる』って」

グサッ

「『2人とも卵を綺麗に割ることができなかったんだ』」

グサグサッ

「『料理の腕前は、あぁ朔か、朔が1番よく知ってるよね』だって」

なんでこちらの記憶を抉るようなことを!?

「料理というか【炭】!ジャリジャリだった」

「あったっけ?そんなこと……」

胸を押さえて悶えている私の横で灯が呆然と立って遠い目になっている。いつもだったらあわわわわって言いながら抱きついてくるのに、遠い目で記憶から消そうとしてる?いや、料理過程でだいぶおかしかったから本当に記憶がないのかも?

「とにかくだ!澪と灯の【冷やし中華?】を見て俺は思った!俺は料理できる方だった!」

声高らかに宣言する朔。私と灯の料理を見てここまで元気づけられるとは。うん、料理できなくてよかった!あれ?なんか灯の目から涙が。灯も私の目尻の涙を拭ってくれた。

「相対的に見てそう思えるようになったの間違い。お前は料理できない」

そんな話をしていると、他にも浴衣を着た人たちがお祭りへ向かっている。小さい子たちもご両親に手を繋がれたり、友達と遊んだりしながら祭りの方向へ向かっていった。

「私たちも小さい時ってあんな感じで手を引っ張ってもらってたね」

灯が子どもたちを見ながら言う。懐かしさが込み上げてきた。

私たちの腿くらいまでの背丈の子が笑顔でキャッキャ言いながら私たちに突進してきた。なんかぶつかりそう。みんなそれぞれその子を避けるように道を開けた。

おもむろに蓮の浴衣をめくってその中に身を隠した。

「え!?……え!?」

蓮も私たちもびっくりして声を失った。そしてすぐ後で若い女性が乳母車を押しながら走ってきた。辺りをキョロキョロ見渡して探し物をしているようだった。

「あのー、もしかしてお子さんをお探しですか?」

私はその女性に声をかけた。女性は一瞬驚いていたが

「そうなんです。走り回って、元気なのはいいんですがすぐに見失ってしまって」

と辺りをキョロキョロしながら女性は言う。20代前半くらいだろうか?大人の女性というより私たちのちょっとお姉さんといった感じだった。

「この辺りで見ませんでした?」

女性がそういうと、蓮は手を浴衣の中に突っ込んだ。そしてその子の右足を掴んでグッと持ち上げた。

男の子は右足を掴まれて宙吊り状態になった。

「この子ですか?」

蓮は笑顔で対応する。持ち上げられた男の子はキャッキャと笑っている。

「え!?なんでそんなところから!??すいません、すいません!」

ただただ平謝りだった。蓮は笑顔で気にしてないので大丈夫ですよと対応している。

男の子はキャッキャ笑っていたが一瞬で笑顔が消えた。蓮があの目で男の子を射抜いて

「2度とするなよ」

と母親には聞こえないくらいの大きさで小さく、しかし巨大な釘を刺していた。

蓮はゆっくり掴んでいる右足を下ろしていく。男の子は両手をついて地面に着地した。その後は怯えるように母親の後ろに隠れてしまった。

「子どもはいいよな……」

朔がぼそりと言った。

「何か言った?」

蓮が浴衣を直しながら言う。

「俺も浴衣の中に隠れたい!」

「祭りの平和を壊すなよ」

朔は透に頭を押さえつけられていた。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


「お前、『祭りの平和は俺が守る』って言ってたよな?」

透が聞いてきた。

「おう!」

「今日、いくつかの屋台で売上金が盗まれる事件が起こりそうだ。俺らの焼きそばも被害を受ける」

透が小さく眼鏡を直しながら言う。

「と言うと?」

「悠長に焼きそば焼いてても売上金盗まれたってなったら知り合いに顔向けできないんじゃないか?幸い複数の屋台で同じような被害が出てるから俺らが盗んだと疑われることはなさそうなんだけど、どうせならーー」

「『売上金泥棒、捕まえてみたくないか?』ってことだな!」

「そういうこと。お前にしては飲み込みが早いじゃないか」

透が微笑みながら朔の肩を軽く叩く。

「俺が見たところ、最初に被害が出るのはキャラクターカステラの店。そこから短時間で立て続けに盗まれる。大体は店主1人で切り盛りしてるところが狙われてるっぽいな」

透が予知したことを教えてくれる。こういうのが分かるからいろいろ対策を練ってたんだな。

「ん?俺らの焼きそばも狙われたんだよな?5人体制で犬もいるのに?」

「高校生で舐められてたのかもな。実際盗まれるから相手の目がよかったってことだろう」

そう言って笑うが、

「舐められたまま終わりたくもない」

静かな闘志を感じた。

「最初の店で捕まえてしまえば被害は無くなるからお前の言う平和を守れるぞ」

「やるしかねぇな!」

なんかやる気出てきた!

「俺が見た感じ、男が1人。どこにでも居そうな顔立ちだな。体つきも普通。特に特徴が無いのが特徴といった感じか」

透が説明してくれるが犯人像がまったく浮かんでこない。

「あ、なんか本部の人間を名乗って普通に売上金渡したっぽい」

なるほど、それなら祭りのお金のやり取りに精通してないと騙されるか。

「悪どい奴だな」

「こういうイベントだったら私服警官も混ざってるだろうから捕まえれたら警官に突き出すで大丈夫そうだ」

「私服警官って見て分かるもん?」

「見て分かったら意味ねえだろ」

「じゃあ誰に突き出すん?」

「……本部の近くに警察待機場もあるしそこに突き出したらいいんじゃねえ?」

考えてなかったな。

透のいう時間までは特に動きはないらしい。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


「ちょっと俺と透で出てくる」

「は!?」

蓮が食ってかかる。

「今回の祭りで売上金が盗まれる事件が起こる。そしてここも被害に遭う。だから被害の元凶を捕まえに行こうと思ってる」

透がかいつまんで説明する。蓮は元々楽しむだけのはずだった夏祭りで仕事を押し付けられてるから、なお不満そうだ。

「2人が居なくなった屋台は誰が切り盛りするんでしょうね?」

「それは女子3人にお願いしたい」

蓮が大きくため息をつきながら言う。

「実質焼きそば焼けるのは私1人なんだけど?」

「30分だけお願いできないか?俺らも離れる前にいくつかストック作って負担かけないようにするから!」

顔の前で掌を合わせてお願いする。

「朔が引き受けてきた仕事なのに?」

「蓮もストック作ったら離れても大丈夫だから。犯人捕まえたら後は俺らが切り盛りするからさ。その間の30分だけ」

「18:30〜19:00の間に動きがありそうだからその間に全部終わらせて帰ってくる」

「ストック作ったら離れていいのね?」

「あと、お店が潰れないようにだけ頼む」

蓮が後ろにいる澪と灯を見て苦笑いしながら

「そこは大丈夫にしとくよ」

と折れてくれた。

「ムギ、美味しいの買ってくるから屋台の監視お願いしていい?」

ムギが何か言っている。

「お願いしていい?」

断られてるっぽい。

「何かあった時のために必要な役回りなの。賢いムギに頼むのは心が痛むけど、ムギにしか頼めないから」

また何か言っている。

「カステラ」

「たこ焼き」

「ハンバーグ」

なんか物で釣ろうとしてるのにまったく釣れてないらしい。

「チュール」

ワン!

透がポケットから現物を見せながらボソッと言うとムギは反応した。透の目が笑いながら蓮を見ている。

「なんで……、チュールなんで!?」

「とにかく18:30〜30分だけ抜けさせてもらうから、よろしくな!」

◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇

焼きそばの屋台を切り盛りすることになってしまった。幸い、蓮が20食分ストックを作ってくれた。

「これが売り切れるまでは休憩♪今までの感じだと小一時間はもつと思うけど不安だから20分くらいしたら戻るよ」

と言ってどこかに行ってしまった。

しばらくはストックされた焼きそばとお金のやり取りをしてたらいい。お客さんの足も思ったより緩やかだし、これで20分をなんとか乗り切ったらいいんだ。大丈夫!楽勝!

積み上げられた焼きそばを見る。これは言うなればゲームの残り残機。20機もあれば大抵問題なく突破できる。ゲームあまり得意じゃないけど、それだけあれば最初のコースも真ん中くらいまではいけると思う!

よく分からない自信が湧いてきた!

「すいません、焼きそば2つ」

早速注文が入ったが気持ちには随分と余裕がある。こんな晴れやかな気分になるなんて思ってもみなーーー

「すいません、焼きそば10もらえる?」

「ダメです!」

反射的に声が出た。言った後に時間が止まったような気がした。相手も一瞬びっくりしてたが微笑んでくれた。笑顔でハッと我に返った。

「あっ!ははははは。し、失礼いたしました。えっと、おいくつですか?」

「10お願いします」

泣きながら震えながら代金をいただき、焼きそばを渡す。

「灯〜、蓮ってあとどれくらいで帰ってくるかな〜?」

弱々しく泣きそうな声が出ている。ついさっきまでの元気はどこへ?

「蓮が出ていって今で2,3分じゃないかな?どしたの?」

「あと焼きそば8つ……また売れたからあと5つなんだけど」

泣きそうになっている私を灯は絶望的な目で見ている。

「え!?どうすんの!?それ!」

「私がきき たい、誰か助けて〜!」

ほんとに泣きそう。

「すいません、焼きそば1つ」

いや、ほんとに吐きそう。

「分かった、とりあえず蓮に連絡してみるね!」

灯はそう言って屋台の裏に消えていった。

焼きそばはあと4つ。これを後15分守り抜ける?2分で16売れたのに?

このペースを維持すれば、20分もあれば160も売れる勢いで、20程度のストックでは焼け石に水だ。不足分の140をなんとか捻出する必要がある。え?私が?140食分を?

ドッドッドッドッドッドッドッドッ

頭からは血の気が引いていくのに妙に動悸がする。私が料理しなくていい対策打ってきたんじゃなかったのー!?

◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇

やばいよー!蓮のストック、もうほとんど無いんだって!そんなの想定外だよー!

灯は急いで蓮に電話をかける。呼び出し音がしているのに蓮は出ない。

何で!?こんな緊急事態なのに!!

10コール以上しても蓮は出なかった。首を傾げながら屋台に戻ってみると、屋台の後ろの方に置いてあるカバンからバイブレーションが聞こえてきた。蓮への電話を切ったらバイブレーションが止まった。

え……?

まさかと思ってもう一度蓮に電話をかけた。

ヴゥー、ヴゥー、ヴゥー、ヴゥー

浴衣であることなど忘れて膝から崩れ落ちてしまった。

「灯!蓮まだ!?」

「澪〜、蓮、携帯置いていってる」

灯が泣きそうな声で報告してくる。

「えぇ!?じじ、じゃあ、どうすんの!?」

私も泣きたい。

どうしよう……

「ジ・エンドだね!」って明るく言う絵が一瞬浮かんだ。こういうことを思い浮かべられる時点でジ・エンドだよー。

頭を抱えている横で焼きそばは売れていく。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


単独犯が犯行を犯して出てきたところを捕まえようとする。身柄の確保はできなかったがお金は確保できた。

透から被害額を聞いていた。¥24,800。ほとんど硬貨と1,000円札。金額が合うかを確かめる必要がある。が、すぐ後ろから売上金泥棒が追いかけてきている。悠長に中身を改める時間はない。足には自信あるけど人混みの中を逃げるように走るのも骨だな。

煌々と照明が効いている屋台の並ぶ通りから一本外れると落ち着いた住宅街になる。人混みからは解放されるが障害物もなく隠れてやり過ごすことはできない。どっちがいいかを考えながら走っていると、側道に蓮の姿を見つけた。蓮は道を曲がり神社の方へ歩いていく。

躊躇はなかった。蓮を追いかけて側道を目指した。

「おーい、蓮!」

ちょっと遠くから声をかける。蓮はちょうど曲がり角を曲がって消えてしまった。追いかけると曲がってすぐのところで蓮がキョロキョロしていた。

「あ、やっぱり朔じゃん!呼んだ?」

蓮が言い終わるのを聞かずに走っているスピードを緩めることなくスライディングするように蓮の浴衣の中に姿を消した。

「悪い」

姿を消す一瞬、それだけ言った。

暗い。耳に神経を集中させる。走ってくる足音が近づいてくる。

「見てないですね」

蓮の声が聞こえてくる。どうやら状況を察して合わせてくれたらしい。有り難え!

さて、後はこの金額が透の言う金額通りあれば問題ないな。それを返して、後は適当に追いかけられながら警察待機場へ誘導したらいい。

携帯を取り出してライトをつける。硬貨と1000円札ばかり。

「集計を一瞬でするのは大変そうだな」

とりあえずお札だけ先に数えるか。押収した袋からお札を出そうとした時、周囲の暗さが明るくなった。顔を上げる。

血管が浮き出てプルプルしながら、それでいて満面の笑みの蓮がそこには立っていた。


◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇


「さて、20個ストック作ったからちょっと休憩行ってくるね!20分もしたら戻ってくるよ」

そう言って澪と灯に屋台をバトンタッチした。小一時間ほどで朔たちが焼いたもの含めて20くらい売れた。このままのペースだったら私の作った20のストックは60分はもつ。課せられてる店番はこれで走り抜けられる!

そう思ったら気は楽なもんで、やっとお祭りを楽しめる。本当はみんなでワイワイしていろいろ食べてくじ引いて遊ぶつもりだったのに。

まあいいわ、この20分は自由だもの!

と言っても20分しかない。急いでイカ焼きとわたあめを買った。イカ焼きを食べながらフラフラしているとまた美味しそうな匂い。匂いに引き寄せられていくと唐揚げ専門店だった。串に刺さった唐揚げが売られている。美味しそう。

ちょうどイカ焼きを食べ終えた頃に唐揚げ、タイミングもバッチリ。迷うことはなかった。

買ってすぐの唐揚げを頬張る。熱い!

サクサクの表面と、齧ったら中から弾けるような肉汁が溢れてくる。ものすごく美味しい。自分でもわかる。目が光り輝いている。

あぁ、なんて幸せなの!?

これをみんなで回ってたら至福の顔を笑われていたのかもしれない。ワイワイしないのは寂しい気もするけど結果的によかったのかもしれない。美味しいものを食べているとお腹も体も心も満たされていく。

唐揚げも食べ終えて、わたあめを食べながら人混みを歩いていく。一通り回れたかな。

屋台を抜け、側道に入っていった。今までが賑やかだった分ちょっと落ち着いた感じが寂しくも感じる。

足の赴く方へ歩いていく。20分の制限時間付きの自由。なんとなくじっとしていられなくてフラフラと歩いていた。

曲がり角を曲がった時に

「おーい、蓮!」

朔の声が聞こえた気がした。

辺りを見回すが朔の姿は見えない。気のせいだったかな?いや、声聞こえたのはこの道を曲がる前だったかも。

来た道を引き返そうと体ごと向きを変えた時に朔の姿が見えた。

「あ、やっぱり朔じゃん!呼んだ?」

言い終わるのを聞かずに朔はスライディングしてきた。姿が浴衣の中に消えていく。

「え!?……えぇ!??」

何が起こっているのか把握する前に走ってくる足音が聞こえてきた。そういえば屋台を押し付けられたのも泥棒を捕まえるためだって言ってた。それに関係しているのかもしれない。

そういうことにしよう。

気持ちだけ一瞬で整理して顔を上げると、本当にどこにでも居そうな、特徴という特徴がない浴衣を着た男性が息を切らせて走ってきた。

「??」

男性を眺める。男性は辺りを見回している。誰かを探しているようだった。

「あの、はぁはぁ、錦鯉柄の浴衣着たやつこの辺で見てないです?」

あ、朔だ。ということはこの人が売上金泥棒?見えないな。

「見てないですね」

短く返答したらお辞儀をして走っていってしまった。とりあえずこれでよかったのよね?

姿が見えなくなってから視線を落とした。股間の辺りからライトが光っている。

こいつ……

大きく一歩後ろに下がる。朔がしゃがんで携帯を持っている。私が動いたことで周囲を見回している。

「(下着)見た?」

短く質問。

「お?おぅ!これからシワを伸ばしてちゃんと確認しようと思ってたとこだ!」

何を確認しようとしてたって?

「朔?私さ、優しいから、食べさせてあげる。朔はさ、イカ焼き(の棒)と、唐揚げ(の棒)と、わたあめ(の棒)、どれが好きかな?」

「その中だったら唐揚げかな。だけど今はいいや」

「何も無しってことね?それでいいのね?」

次話「夏 夏祭りと異変」もよければ。

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