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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

腹裂き女は俺に愛を教えようとする



※残虐な描写があるのでご注意!


今、小学校では都市伝説「腹裂き女」が流行っているらしい。

会社の同僚、家庭持ちから聞いた話だ。

夕方、人気のない住宅街を一人で歩いていると、出産間近なような妊婦が包丁を持って問いかける。

「わたしの子供が見たい?」と。

「見たい」と答えれば、目の前で腹を裂く。

お目見えした胎児はへその緒をつけたまま、とびでてきて、答えた人間の首に噛みつき抹殺。

「見たくない」と答えれば「わたしの子供はとっても可愛いのに、ひどい!」と半狂乱になった妊婦が答えた人間を包丁でめった刺しにして、やっぱり殺す。


「どっちにしろ、殺されるやんけ!」とツッコミたいところなれど、助かる方法はひとつだけ。

「見たくない。自分の子供じゃないから」と答えると、肩を落としてとぼとぼと去っていくらしい。

ちなみに彼女が声をかけるのは男のみ。

不倫していた女が妊娠をしたことで男に捨てられ、意気消沈して帰っている途中、車にひかれて胎児と共に亡くなった。

が、未練たらたらでこの世にとどまり、不倫男の代わりの男たちに、つきない恨みを晴らしているのだろうと、いわれている。


同僚の息子は、母親に学校帰りに迎えにきてほしいと、駄々をこねるほど怯えているらしいが、いい大人の俺はべつに怖くないし「不倫だろうと、自分の子を宿した相手を捨てるなんて糞だな」との感想を抱いたもので。

俺だったら妻と離婚をして、新たな家庭を築く。

好きな女性に対しては、一人前の男として責任を負いたく、だから「俺の子供を生んでほしい」と率直に伝えものの、彼女は消えてしまった。

もちろん行き先を告げず、友人知人にも引っ越し先を知らせていなく、両親にも一切の情報を伏せているよう。

銀行員を装って彼女の両親をしつこく問い詰めたところ、嘘をついてはぐらかしていなさそうだったし。

追いかけてくるのを絶対阻止したいとばかりに、行方をくらますとは、なんたる裏切り行為。

俺ほど彼女に愛情を向け、四六時中見守り、月経の日も把握するほど知りつくし、裏垢で覗かせる醜い一面を許容できるほど理解のある男はいないというのに。


俺から逃げる彼女の心境があまりにも解せなく、許せなく「逆に両親はあてにならないかもしれない」と考え、友人知人をあらためて調べあげ、一人、怪しいのをピックアップ。

二回目に聞きにいったとき、目を伏せがちで、かすかに唇を震わせていたのだ。

わずかな怯えを覗かせて以降、俺はずっと、その彼女の友人につきまとっている。

今日も会社からでてきたのを尾行し、閑寂とした住宅街にはいったところで、堂々と歩いていたら、急に友人がふりかえって「いい加減にしてよ!」と距離をとりながらも睨みつけてきた。


「わたしは、あの子が今、どこにいるか知らないから教えようがない!

これ以上、わたしの視界にはいるような真似をしたら通報するからね!」


怒鳴りつけようとしても喉が縮まって、ろくに声がでていないし、生まれたての小鹿のように膝を震わせている。

一笑に付した俺は、でも距離をつめることなく「あんたは、あいつの親友だろ?」と肩をすくめて、にやにや。


「どんなことがあっても、死ぬまで友だちでいるって、あいつが熱弁していたのを聞いたことがあるんだよ。

それほどの思いがあるなら、居場所を教えなくても、縁を切ることはないだろう。

なにも俺は、あんたらの美しい友情を壊したいわけじゃない、あんたに引き合わせてくれと頼むつもりはない。

ただ、外で会ってほしいんだよ。

あいつの家付近じゃなくてもいい、あんたの家の近くのカフェでいい。

あんたは心配であいつと会って話かっただけ。

俺はたまたまカフェで二人を見かけただけ」


「あんたが責められることはない」と告げれば、やつれた顔をした友人は、うな垂れてため息。

ひたすら、つきまとい行為をされてすっかり疲れていたところで、思ったより無理難題でない要求をされたら、折れてしまうだろう、自分が結婚間近となれば、なおのこと。

なんて見こみは大当たりで、指示どおり友人は自宅近くの喫茶店で彼女と会うことに。

窓際の席に座った二人を、向かいのコンビニから眺め「ああ、久しぶりだなあ・・」と感慨深くなる。

今すぐコンビニにとびだして彼女を拘束して拐いたかったが、警察沙汰になっては、それに時間がとられてるうちに海外に飛ぶなど、本格的に失踪されてしまう。

彼女の家を突きとめ、暮らしぶりを調べて、こんどは逃げられないよう万全の対策をし、俺の存在を知らせ、子供を生ませるべき。

繰りかえし、そう自分に聞かせて衝動を抑え、喫茶店からでてきた彼女を慎重にも慎重に追いかけていった。


意外とそう遠くには逃げていなかったようで、電車を降りたのは隣の県。

無人駅に降り立って歩いていく彼女にこっそり視線を向け、目を見開いた。

今まで、かなり距離をとって、ほぼ背中しか見ていなかったから気づかなかったが、あきらかに腹が膨らんでいる。

全体的に華奢なのは変わらず、腹だけ張っているから太ったのではない。

さすがに忍耐が切れ、駅をぬけて夕日を浴びる住宅街に踏みだした彼女に「おい!」と走りながら怒鳴りつけた。


「俺の子供を生まないで逃げやがって、しかも、ほかの男に妊娠させられてんじゃねえよ!」


夕日の逆光になって影がかった彼女の背中が止まる。

やおら振りかえった彼女は、なぜか、ほほ笑んでいて、愛しげに腹の膨らみを撫で撫で。

かっと頭に血をのぼらせて迫ろうとしたものを、もう片方の手に包丁が握られているのを目にして硬直。

あらためて彼女の顔を見れば、相かわらず、ほほ笑んでいて、どこか気色わるいような。

すこし後ずさったものの「こいつ、真っ向から拒めないから都市伝説に便乗して怯えさせようとしているんだな」と勘づいて歯噛み。

腰を落としてかまえ、腹に蹴りを食らわそうとしたら、彼女が包丁をふるってその足を切りつけた。

俺に殴られても土下座をして許しを乞うていた彼女が、反撃、いや先制してくるとは夢にも思わず。

体のバランスを崩して仰向けに倒れると、彼女が屈みこんで顔を覗きこみ「ねえ、わたしの子供見たい?」と笑みを深めて、無邪気に問いかける。


足を切られて流血したことで、彼女が小賢しく芝居しているわけではないことを痛感。

精神異常に陥っているのか「もしくは彼女のすがたを借りた本物?」と震えあがり、同僚から聞いた都市伝説について必死に思いだす。

なんとか記憶をたぐりよせ「み、見たくない!俺の子供じゃないから・・!」と悲鳴をあげるように叫ぶも、聞いた話のように彼女は引きさがろうとせず、目を細めて小首をかしげ、考えこんでいるよう。

すこしして「そう、じゃあ、あなたに子供を生ませてあげるわ」と俺の腹に手を置くと、とたんに膨張。

ただ膨らんでいるだけでなく、腹のなかで異物が蠢くのが生々しく伝わってきて、たまらず嘔吐。

胃の中身をすべて吐き散らしたところで彼女の手が退くも、異分子が腹の内側を蹴るのが不快でしかたなく、えづいて咳きこんでしまう。

顔を歪めて苦悶する俺を不思議そうに見つめていた彼女が「あーあ」と投げやりにため息。


「せっかく男を妊娠させる奇跡を起こしてあげたのに、自分の子供にそんな拒否反応を示すなんて。

生まれてきた子供はきっと幸せになれないでしょうから、わたしが今、楽にしてあげる」


顔を横向けにし咳きこんでたのから「楽にする?」と見あげれば、掲げられた包丁の刃が、夕日を受けてぎらりと反射。

「やめ・・!」ととっさに腹の膨らみを抱きしめるも、腕を切り刻まれて防御を解いてしまい、胎児の繭をめった刺しにされる。

そりゃあ激痛が走ったが、自分の命の危機を覚える以上に、胎児が無惨に殺されることの嘆きはとてつもないもので。

ついさっきまで、異分子として忌まわしかったのが「せめて!せめて!子供だけでも・・!」と自己犠牲精神が芽生えるなど、思いがけなさすぎる。

自分以外の命を重視し、胸が裂けるような思いを噛みしめるのは、生まれてこのかたはじめてで、だからこそ鬼畜な彼女の残虐行為が耐えがたい。

なかなか死ぬことができず、胎児が切り刻まれる途方もない痛みを、いやというほど味わわされて、俺は目を覚ました。


「だいじょうぶですか?」とスーツの青年に声をかけられ、思わず腹を見るも、膨らんでいないし無傷。

あたりに彼女もいなく、ほっと息をついたなら「すみません、だいじょうぶです」と立ちあがる。

「このあと、一応、病院行くんで、ありがとうございます」と頭をさげれば、青年は心配そうな顔をしつつ、反対方向へ。

その背中が角の向こうに消えてから、彼女が歩いていった方向に足を踏みだそうとして、やめた。

悪夢ながら、身重になって胎児を惨殺されるという経験をして、思いとどまった、わけではない。

どうも彼女に近づこうとすると、腹の膨らみが包丁でぐさぐさ刺される痛みが甦るようで「にどと、あんな地獄も生ぬるいような絶望を味わいたくない」と切実に思ってのこと。


ただ、彼女のことをあきらめたからといって、幻の痛みは消えず。

ほかの女に目をつけて、つけ狙おうとすると、すこし腹が張ってじくじくと疼くのだ。

あの激痛が甦る前兆に思えてならず、ろくに調査や監視、尾行ができない。

相手につきまとって追いつめる、俺の女の愛しかたを変えないことには、幻の痛みはつきまといつづけるのだろうか。

まともに恋愛をし、まともに結婚して、まともに子供をもうけて、まともに家庭を築けば、あの悪夢を忘れることがでるのだろうか。

「まともに生きるのは面倒くさいなあ・・・」とまったく乗り気になれない俺は、これから女と無縁の一生を送る覚悟をしたほうがいいのかもしれない。

とんだ呪いをかけた都市伝説の女が憎たらしかったが、包丁をふりあげられたとき、反射的に腹を守ろうとした、あの感覚だけは忘れたくないと思う。




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