超ド級! 勇者聖女爆誕!!
「おい、ニル。おい、お前に話しかけてるんだよ!」
アミキティアの港には特に何事もなく着き、ニルは馬車を手配すべく最寄りのコーチ・インへと足を向けた。
「あ? シカトかよ。つれねーな」
結構な力で肩をつかまれる。誰か呼んでますよ? ニルは自分が呼ばれているわけでは無いので、馬車を手配すべく最寄りのコーチ・インへと足を向けた。
「んだよぉ。アタシとアンタの仲だろう? 話ぐらい聞けや」
後ろから抱きしめられるようにしてニルは体をまさぐられた。
「ヒッ! タスケテ! 誰か男の人を呼んでください!」
飛びのいて振り向いたニルの目の前には支給の勇者装備を華麗に着こなした鋭い美貌に少し攻撃的にも見える笑みを浮かべた女性がいた。
ヘイゼルの瞳には楽し気な色を浮かべ、口元には物騒な笑み。黄金に波打つ滝のような髪をかき上げ、余裕で獲物をもてあそぶような態度で彼女は言葉をつづけた。
「なぁ、腹減ってるんだけど、何か食わしてくれよ」
陽光に輝く彼女のアーマーは、ニルのものと同じモチーフながら女性の体のラインに独特の優雅な曲線を描き、その姿を神話に出て来る戦乙女のように見せていた。
「中学生男子かよ。適当にその辺で食っとけよ。俺は今から馬車を手配しに行かなきゃいけないの!」
一度手を離したニルの肩を抱き寄せて言う。彼女はヴィクトリア・サンクタとこの世界では呼ばれている。勇者として召喚されたが、聖女の能力も持つ、という本当の意味でのチート人間だ。
いまだに勇者庁と聖堂会が彼女がどちらに帰属するべきかを言い争っているほどだ。『聖なる勝利者』、とは良くも名付けたものであった。
「なんだよぉ、ここのメシ微妙なの知ってるだろ? 何か食わせろよぉ、代わりにアタシの馬車使わせてやるからさぁ~」
ニルはその提案を天秤にかけてみた。出来れば聖女にみあった馬車をチャーターしたいが、それが出来るかは分からない。
彼やフェリシアの微妙な立ち位置うんぬんもあるが、今までは一人だったので適当に乗合馬車を使って来たからだ。知識としては持ち合わせているが、どれくらいで馬車が手配されるのかも分からないというのが正直なところだ。
「今その辺にあるのか?」
ニルの言葉に彼女が少し嬉しそうに目を輝かせた。
「ああ、お前をラチろうと思って乗って来たからな。代わりにホットドックな」
ニルは彼女の要求に呆れて言った。
「ねーよ。文句があるなら聖堂会に言いな」
ニルの言葉に彼女の口元が不満げなへの字に結ばれる。過去の歴史で動物の内臓が原因の疫病が蔓延し、以来ほとんどの癒し手が所属する聖堂会の影響で、ほんの一部の地域を除いて家畜の内臓が出回らなくなったのだった。
ニルが船へと踵を返した。ヴィクトリアがその背に声を投げかける。
「おい、どこ行くんだ?」
「船に戻る。まあ、ホットドックは無理だけど、その従弟みたいなものなら作れるんじゃいかな」
「マジか! やっぱ食い物となるとお前かファルコだよなぁ! って、アレがお前の船なの? スゲーな!」
「聖女様のだよ」
二人は軽口をたたき合いながら、港でひときわその威容を放つ白い船へと返って行った。
「おい、なんでアタシがこんな事をするんだ?」
ニルは自分を含め、フェリシア、ユウ、リナ、ヴィクトリアと、全員の前に必要な調理器具を置いていた。
「シャラップ! 働かざるは食うべからず! 自分の分は自分で作りましょう!」
フェリシアが期待に満ちた目で楽しそうに口を開いた。
「ちょっと緊張しますけど、楽しみです!」
ニルが頷いて続ける。
「まあ、簡単だから。これの作り方を知ってる人間を増やせば、そのうち料理としてホットドック・モドキが広まるかもしれないだろ?」
ヴィクトリアが素直にニルの言葉に目を見張って言う。
「お前スゴイな。そこまで考えてんのか」
「まあな!」
口から出まかせだが、それは別に良いだろう。ニルは挽肉のボウルを中心に置くと言った。
「はい、今回の材料はこちら!」
挽肉、塩、胡椒、ガーリック・パウダー、パプリカ・パウダー、ライスペーパー、バゲット(パン)、トマトケチャップ、マスタード、マヨネーズにバター。
「まず挽肉に下味の塩、胡椒、旨味用のガーリック・パウダー、自然な甘味用にパプリカ・パウダーを入れて混ぜ込む!」
ニルは説明をしながら各々のスパイスを手早く入れて混ぜ込んだ。
「これでソーセージのフィリングはオーケー。次に、この水の入ったボウルにライスペーパーをさっと通したらまな板の上に敷きます。グズグズしてるとデロデロになるので手早く!」
そう言ってニルが手本を見せる。
「こんな感じ。はい、みんなどうぞ!」
各々が手元のライスペーパーを水に通してそれぞれの前にあるまな板の上に置いた。
「では、ボウルのスパイスを混ぜ込んだ挽肉をライスペーパーの上に横長に広げて乗せて、十分水をすって柔らかくなっていたらこれを棒状に巻きます。端っこは折っても捩じっても良いかな?」
四人がニルの手元に注目していた。ニルはライスペーパーを巻いたあと、一端を捩じって、もう一端は折り曲げて棒状の部分にくっつけて見せた。
各々が熱心にニルの真似をしてソーセージモドキを形作る。
「ニル、アンタやっぱスゲーな!」
ヴィクトリアが驚きに目を見開いた目をニル向けた。
「息をするように女四人に肉棒を握らせやがった!」
ニルはその下品な冗談にギョッとして彼女の発言に被せるように言った。
「お前何言ってんの!? この世界じゃそういうアメリカン・ジョーク通じないから!」
フェリシアは話に付いて来れないようだったが、ユウは気が付かない振りに失敗して耳が赤くなっていた。リナは棒状になったそれを振ってフヨフヨと揺らして遊んでいた。
「はい、そこ! 食べ物で遊ばない!」
ニルは残りの挽肉の入ったボウルをどけて魔道コンロを置いた上に先日なんちゃってお好み焼きを焼いた鉄板を乗せた。
「はい、ソーセージ・モドキが出来たら鉄板を用意して食用油を塗ります。今回は挽肉を作った際に出たラードを使います」
ニルが鉄板にラードを塗って見せる。魔道コンロの熱に白い油が溶け、透明な液状になる。
「このように油が溶けたらソーセージ・モドキを上に乗せます。はい、みんなも乗せて」
ニルに倣ってそれぞれが鉄板に自作を乗せていく。
「食材を乗せたので一瞬温度が下がりますが、しばらくすると温度が戻りますので、ここでカップ半分ほど水をかけてフタをします」
ニルの手が素早くカップの水を鉄板の上に流し込み、もう片方の手にあったドーム状の大きな鍋蓋を五本のソーセージが収まるようにかぶせた。
「やべぇ! もう旨そうな匂いしかしない!」
ヴィクトリアが大げさに言う。ニルは苦笑いをして続ける。
「ここで大事なのは肉に完全に火を通すことなので、この水で蒸し焼きにするのが目的です。焦げないように見ながら、水が無くなったら蓋は外して、ひっくり返してソーセージ・モドキ全体に焼き色を付けていきます」
「いや、でかしたニル! お前ならやってくれると思ってたよ! 」
「言っとくけどあくまでもモドキだからな。焼けたら皿に取って今回はパンが切れ目を入れたバゲットだけど、これにバターかマヨ、好きな方を塗ってソーセージを挟み、お好みでマスタード、トマトケチャップをかけて完成!」
ヴィクトリアが物凄いスピードでニルに続いてなんちゃってホットドックを完成させた。皿に置いたそれを両手で聖遺物のように厳かに掲げて見せた。
「この世界に転移して苦節三年……、やっとホットドックが手に入った!」
はたから見ると滑稽だが、まだ米を見つけられていないニルには彼女の気持ちを察することはそう難しくはなかった。
彼女は皿をテーブルに置くとおもむろにそれを口に押し込むようにしてカジリ付いた。
「……ギョーザじゃねーか!!」
まだ咀嚼中のそれが口に入ったまま彼女が大声を出した。ニル以外は彼女の叫びが良く分からないらしく、美味しいという評価とともにモグモグと食を進めていた。
「もちょっとパリっと焼けば少し近くなるかもな」
「うめーな、ホット・ギョーザ。ファルコは怒るだろうけど」
ファルコとはニルやヴィクトリアと一緒に召喚された勇者で、中国人だった。ニルがその彼が作ってくれた餃子と一緒にパンを食べていたらネチネチと嫌味を言っていたのだ。ちなみにヴィクトリアは合衆国、ニルは日本出身だ。
「まだ食べるなら挽肉もライスペーパーもあるぞ」
一つ目を食べ終えたヴィクトリアは短くため息をつくと言った。
「もいっこいっとくか! 外のメシより全然いいしな!」
******
馬車が港を出ると、何かを思いついたようにヴィクトリアがフェリシアの隣から立ってニルの横へと座った。彼の肩に腕を回し、耳にささやきかける。
「で、お前あの娘のこと狙ってるの?」
ニルはうんざりした顔でヴィクトリアを横目で見た。
「男子中学生か! 狙ってねーよ! 護衛対象だよ!」
ヴィクトリアは大げさに肩をすめ、目を閉じて首を左右に振って見せた。再び立ち上がってフェリシアの横に戻る。
「フェリシアちゃん、可愛いよね! 妖精のお姫様かと思ったもん!」
ニルがあきらめたような笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。勇者様こそお美しくて、感銘を受けました」
ヴィクトリアがフェリシアの肩に腕を回して言う。
「勇者様だとニルと被っちゃうから、ヴィクトリアって呼んでよ」
「はい、光栄です。ヴィクトリア様!」
年の近い同性の友人が彼女に出来るならばアミティキアまで出張った甲斐があるのでは、とニルはヴィクトリアの物怖じしない性格をありがたく感じていた。
「で、どうなの? あいつ、フェリシアちゃんの中ではどんな感じ?」
彼女がニルに視線を向けながらフェリシアに向かって言う。フェリシアは曇りのない笑みでその問いに答えた。
「はい、いつも美味しい料理を作って頂いたり、健康に気遣ってもらい、本当に感謝しております」
ヴィクトリアはその答えに頷くと、上を向いて目をつぶってまた席を立った。
無言でニルの横に座り、三秒ほどしておもむろに口をひらいた。
「ああ、こりゃダメだ、ニル。あきらメロン」
その意味不明な行動と下らないオヤジギャグに、ニルのヴィクトリアに対する評価が一瞬にして急落した。
「やかましいわ! ぶちころすぞ!?」
ライスペーパーレシピはそれだけで本が書けそうですよね。




