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落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~  作者: 苺味初芽


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7/18

最低勇者と、産みたて卵のなんちゃってお好み焼き

 ホクホク顔で市場からニルが港へと戻った。これから何日か海の上なので、必要な食料を注文して船に届けてもらう手配をして来たのだった。


 だが、それだけではなく、彼が思っていたよりも色々欲しかったものが手に入り人生で指折りに有意義な買い物のおかげで、背中は荷物で重いが足取りはいつになく軽かった。


 だが、忙しく立ち行く人々を避けて自分の船にたどり着くと、ニルは見たことの無い幌馬車が港から船にかけられたギャングウェイを上っていくのが見えた。


 奇妙に思ってその馬車の横を追いこすように御者台をのぞき込むと、栗色の髪を肩の上で切りそろえた少女が手綱を握って座っていた。彼女がニルに向けてにこりとほほ笑んで目礼をし、その奥から背伸びをするように顔を見せた赤い髪の少女が元気よく手を振って見せた。


「おはようございます!」


 御者台を飛び降りてニルへと走り寄る少女の赤いお下げがピョンピョンと跳ねる。ニルはとりあえず行商人よろしく背負っていた大きな荷物を足元におろして彼女に返した。


「あ、おはようございます」


 その間にも馬車が甲板前方の格子状のグリッドが描かれた区画に奇麗に納まるような所に停められる。彼はとりあえず何事かと目の前のお下げの少女に問いかけた。


「今日はどうしたの?」


 彼女がニルに答える前に、飛び上がるようにして彼の後ろに向かって手を振る。振り返るとフェリシアがこちらへ向かって来るのが見えた。


「今日はご一緒しに来ました」


 ゴン―――、という低く船体に響く音と共に馬車がグリッド状の甲板の部分と一緒に下へと降り始める。御者台の少女がその光景に驚いたニルの方、もしくはその後ろのフェリシアへと手を振って見せた。


 ニルは目の前の少女に視線を戻すと意味を掴みあぐねて聞き返す。


「ご一緒って? 一緒にご飯を食べるってこと?」


「美味しい卵をお届けするお仕事がありますから、アミティキアまでご一緒するんですよ!」


「リナちゃん、おはよう」


「おはようございます、聖女様!」


 抱きついて来た少女の頭をフェリシアが撫でる。


「あの、牛乳のお姉さんも一緒に行くの?」


 赤髪のお下げの少女が答える。


「牛乳無いとこまりますよね?」


「そりゃ困るけど……」


 牛は見当たらなかったが、これから来るのだろうか。それを言うならニワトリも別に見ていない。市場で二人が目利きをしてくれるとでも言うのだろうか。


「まあ、メシは人数が多い方が美味しいっていうしな。じゃあ、あのお姉さんもダイニングに来てもらって。みんな集まったら始めようか!」


 ニルは赤毛の少女にそう言うと、一見買い過ぎにも見える荷物を再び背負って船尾へと向かって行った。





「はい、本日の材料は、先ずこちら!」


 四人はダイニングに集まり、ニルが椅子の一つに置いた木箱から先ず、瓶を四つ取り出した。フェリシアにリナと呼ばれた赤髪の少女と、ユウと名乗った栗色の髪の少女が興味深そうにテーブルを囲んでいる。


「調味料として、まず砂糖! そしてケチャップ、ウースターソース、マヨネーズ!」


 ニルにしてみればこういった馴染のある調味料があるのはとにかくありがたかった。代々の転移者には感謝しかない。


「そして卵、キャベツ、片栗粉、豚バラ!」


 卵、とニルが言ったところで赤いお下げの少女、リナが嬉しそうに手を叩く。


「えー、先ずソースの作成に、こちらの器に砂糖、ケチャップ、ウースターソースを一対三対三の比率で入れて混ぜます」


 手早くスプーンですくって行きさっと混ぜて見せる。


「これでソースは出来上がり。次は豚バラを食べやすい大きさにカット。そしたらキャベツ四分の一を半分に切って、それを適当に千切りにします。太い方が好きな人もいると思います」


「では、ボウルに卵を二つ割って入れて、ざっと撹拌。さっきのキャベツを入れて、さらに片栗粉を大匙二杯」


 ニルが野宿で使っていた折り畳み式の魔道コンロを取り出して、その上に縁の立った鉄板を置いた。


「今回の秘密兵器はこの鉄板! ここでバラ肉を先に焼きます!」


 肉の焼ける音とともに良い匂いがダイニングに広がり始める。


「生地が鉄板につかないように、バラ肉から出た油をざっと直系三十センチくらい、ってこんくらい、に広げたら、豚肉を並べてその上にボウルの中身を丸く整えながら乗せます」


 円盤状に整えられたそれからバラ肉のそれに加えて野菜と卵のやける匂いが立ち上る。


「お好みでチーズをのせたり、混ぜたりしても良いですが、最初はプレーンで行きましょうか。で、ちょっと動かして見て、ある程度やき固まったらひっくり返します」


 ニルがフライ返しを左右の手に一つずつ持って器用にそれをひっくり返して見せた。


「はい、で返してから裏面を焼き上がるまで待ちます」


 しばらくして赤い髪の少女がニルの袖をもどかし気に引っ張って来た。ニルがしたり顔で口をひらいた。


「まあ、いいでしょう。焼けたら先ほど作って置いたソースを上面に広げます」


 大目に乗せて手早く広げたソースが鉄板へと零れ落ち、香ばしい匂いが加わった。ニルがそれを手早くフライ返しのエッジで四等分にした。


 三人に小さめのフライ返しとマヨネーズを添えた小皿を渡していく。


「はい、なんちゃってお好み焼きの完成! 各自お皿にとって召し上がれ!」


 一早く一切れ取った赤いお下げの少女が得意げに言った。


「さすがアタシの卵! 美味しい!」


 ニルは彼女と黙々と食べる二人の反応に満足して、自分の分を皿に取るとまたキャベツを切り始めた。



******



 ニルは翌朝、甲板より二層下の構造部をウロウロとしていた。少し早いが下ごしらえをしたかったので、朝食の卵を求めてリナを探していたのだった。


 上から順番に見てきたのだが、このさらに下は倉庫やバラストなどが置かれているので、そこで鶏が飼われているわけでは無い事は分かっていた。


 船尾から来て中央より少し手前の大きな扉を開けた。


「もしもーし。リナさん?」


 藁が床に零れ落ちている所を見ると、ここで合っているようだ。構造強度の為かそこは細かく区切られており、左右にブースのような形で藁が敷き詰められている。


 彼から見て左側の一番奥に、ようやくお目当ての存在を確認した。


 それはブロイラーと比べても、ひどく大きく球体に近い体格の鶏だった。白い体に真っ赤なトサカ。多分鶏。


 ニルは驚かさないようにそっと雌鶏に近づくと、そのお尻と巣の間に卵が無いかと手を突っ込んだ。


「ぎゃー!!!」


 少女の声が船底に響き渡り、振り向いた雌鶏の嘴にニルはしこたま頭を突かれた。


「うわっ、イタっ! いたた! うわ!」


 ニルは頭を庇いながら後ずさった。


「どうしたの!?」


 彼の背後から声がかけられた。振り返ると、空の牛乳の瓶をバスケットに下げた栗色の髪の少女がこちらを見ていた。


「勇者様があたしのお尻を触ったの! ってかグリグリされた!」


 ニルはいわれのない中傷に目を向けるとそこには藁で出来た鳥の巣の上に赤い髪のお下げの少女、リナが涙目でお尻を押さえながら座っていた。


「えっ!? えっ!? あれ、鶏は!?」


 栗色の髪の少女、ユウがらしからぬ厳しい顔で腰に手をあててきょろきょろとするニルを見ていた。リナがお下げを揺らして声を上げる。


「勇者様サイテイ!」


 ニルはいわれのない中傷に心を抉られた。小さい女の子に嫌われるのはそれ特有の高い殺傷能力があった。


「えっ、でもさっきはそこに鶏が……」


 栗色の髪の少女は何か得心したらしく、ため息をつくとニルに向かって言った。


「それ、リナちゃんですよ?」


 ニルの表情が、まさかともしやを何度となく往復した。あらためて少女リナへと目を向けて言った。


「じゃあ、産むってまさか」


 リナは返事の代わりに卵をニルの頭に投げつけた。くしゃりと殻が割れて中身がドロリと彼の顔から首筋に伝わり、ようやく彼は事態を把握した。


 昨日彼女が『アタシの卵』と言ったのが、完全にそのままの意味だということを。


 ニルは栗色の髪の少女へと振り返って言った。


「じゃあ、まさか牛乳って……」


 彼女は白いエプロンを押し上げている豊かな胸を両腕でニルから隠すように覆って言った。


「サイテイ!」

卵とチーズだけで固めても良いと思います。炭水化物ゼロになるので取りすぎになりがちな方は一食これでしのぐのもアリかと思います。片栗粉を入れなければ生焼けでも問題ないのでそれも利点ですね。

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