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落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~  作者: 苺味初芽


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牛娘のヒミツとSUGOI DEKAIプリン

「うわっ! なに!? こわっ!!」


 ニルが朝身支度をして部屋から出るとそこには小さくなったピアと、その背後からじっとりと視線をこちらへ向けて来るユウがいた。


 元から小さかったピアがさらに小さくなったまま言う。


「あの、今朝……」


 ニルは彼女が切り出す前にすでに大方の事情を察してしまっていた。


「ああ。俺にしたみたいにドアを見張るみたいにコソコソしてたのね」


 ニルを見るユウの目が猛禽のそれのようにギラリと光った。


「いや、ピアは、みんなのことを知りたくてやってることだから大目に見てあげてくれない?」


 いつもの柔らかな彼女の雰囲気とはほど遠い、冷ややかなそれをまとった彼女がニルに言った。


「それと、ドアを見張るように覗くのをけしかけることとは全く別のことですよね?」


 うっすらとした笑みと抑揚のない落ち着いた声のトーンでユウがニルを追い詰める。


「……すみませんでした」


 ニルが謝罪をすると少しだけその場の空気が軽くなったようだった。ユウはニル達に背を向けると、そのまま少しだけ後ろを振り返って言った。


「ついて来て下さい」


 ニル達に断るという選択肢は無いように感じられ、そのまま大人しく彼女の後に続いた。


 幾つか角を曲がり、ユウの部屋の前へたどり着く。


 彼女はドアを開け、ピアをその中に引き入れるとニルに視線を向けていった。


「勇者様はそこにいて下さい」


 彼女の部屋のドアが閉まり、ピアが驚きに息をのむのが聞こえた。


「なっ、なにをするんですか!? えっ!? えっ!?」


 ニルはどうしたら良いのか思いつかず、息をのんだ。


「えっ!? そんなこと!? えっ!? やめてください!!」


「やめっ! えっ!?」


 ピアの一人芝居のように続く言葉にユウの吐息が混ざり始めた。液体が瓶に注ぎ込まれるような音がそれに交じる。


「んっ、はぁ……。んっ」


「えっ!? えっ!?」


 ピアは驚きと戸惑いの声を上げるだけだった。


「うわっ、そんな!? す、すごい!! すごい、デ……!!」


 何がスゴイのか、あらゆる想定がニルの頭を駆け巡る中、しばらくして室内が静かになり、少しスッキリした顔のユウと、牛乳の入った瓶を持たされたピアが出て来た。


 ユウがニルに向かっていつもの人当たりの柔らかい様子で言った。


「お二人は今日はバツとして、お手伝いをしてもらいますから、ついてきてください」


 彼女はそういうと二人の先に立って歩き出した。




 どこへ行くのかと興味津々でついて行くと、ユウは船底へと向かい、牛乳瓶の詰まったケースを一つ持ち上げた。


「ピアさんは難しいですか? 勇者様は一つ持って付いて来て下さい」


 ニルは言われたとおりに積み上げられたケースから一つ持ち上げるとユウについて行く。


 彼女は船底から一層上がると、リナが時折いる例の区画のドアをあけると声をかけた。


「リナちゃんいる?」


 中からリナの返事があった。


「はい、ユウさん、どうしました?」


「今日は勇者様とピア様が手伝ってくれるそうですよ?」


「ほんとですか? 助かります!」


 リナの返事を聞くと、ユウがピアを促した。


「ピア様は、リナちゃんを手伝って下さいね」


 ピアは先ほどから何かに当てられたかのようにおとなしく頷いてリナの利用している区画へ入って行った。


「さあ、勇者様、こちらへ」


 ユウがそういって先に進む。第一甲板から見ると中央に近いとこまで来ると、四輪の荷車が置いてあった。ユウとリナが船に来た時に、馬を繋いでいたものだ。


 ユウがその荷台に牛乳瓶のケースを載せるのを見て、ニルもそれに倣った。


「下にあるものを全部載せていきます」




 しばらくしてその荷車は、牛乳と卵がかなりの数乗せられていた。質量的にこの二人で生産するのは無理にしか思えなかったのだが……。


 荷車がリフトで甲板に上がり、ユウが荷車を軽々と引き始める。ちなみにニルがそれをリフトへと押したときはカメの歩みより遅くしか動かすことができなかった。


 リナがニルの顔をみて噴出した。


「ユウさん、勇者様が変な顔をしてますよ?」


 ユウがいつもの穏やかな視線でニルに微笑むと言った。


「獣人は食べたものだけでなくて、魔力からも卵や乳を生成できるんですよ」


 ニルの疑問は一部とけたが、もし村一杯にユウやリナがいたらその生産力にはそら恐ろしいものを感じた。


 そのままユウが荷車を引き、港を出るか出ないか程度の位置、朝市から少し外れたくらいの位置で止まるとリナが看板を出して荷車の隣に立てた。


 そこには『ガリナ・ユウェンカの新鮮卵と牛乳』と書かれていた。


「ユウはユウェンカがフルネームなの?」


 ニルが聞くとユウが肯定して、リナがそれに付け加えた。


「ガリナとかユウェンカっていうのは、種族名なんですよ。 代表が選ばれて、その名前を襲名するんです!」


 ユウはいつも通りだったが、リナはひどく得意げだった。だが、その理由も分かる。


「確かに、卵と牛乳はいつもエラいクォリティー高いなとは思ってた」


「えへんっ!」


 得意げにご機嫌な様子の彼女にユウが声をかける。


「リナちゃん、そろそろ始まりますよ?」


 ニルがそう言ったユウの視線の先を辿ると、一群の集団がこちらをめがけて走って来ていた。先頭の人物が馬車に着くと、息を切らせながら口を開く。


「卵と牛乳下さい!」


「は~い、おじさん、毎度!」


 リナが元気よく応対する。


 その後、次々と人が押し寄せ、売り切ることが出来るのかとニルが疑問に思っていた在庫は二十分もたたずに捌けてしまっていた。


 ニルとピアも売り子として手伝ったが、一瞬とはいえ、驚くほど忙しく立ち回ればならなかった。


 中には荷車で仕入れに来たものの、さほど手に入らずに肩を落として帰って行った人たちもいるほどだ。もっとあったらもっと売れるということだ。


「ユウさん、次は船のすぐそばで売りましょうか?」


 なんでも、だんだん朝市の外れに移動していったが、それでも一瞬で売り切れてしまうそうだ。ニルは途中で中座して朝食を作りに戻るつもりでいたが、実際はすでに帰路についている次第だった。


「ありがたや、ありがたや」


 ニルが手を合わせて拝むと、リナは得意そうに胸を張ったが、ユウはなぜかサッとその豊かな胸を隠した。


「いや、そういう意味じゃないって!」


 残念ながら、どう言いつくろっても言い訳にしか聞こえなかった。



******



「今日は焼き肉をやりたいと思います!」


 ヴィクトリアが静かに立ち上がってガッツポーズを取る。


 ダイニングの上には携帯魔道コンロとその上に並べられた鉄板がずらりと列を作っていた。


 薬味の役割もある、あの唐辛子味の漬物に加えて、ボウルに山のように盛られた葉物野菜の類だけでなく、今日の主役である大皿の上に切りそろえられた肉が並べられている。


 他の面子は焼き肉を知らないためニルとヴィクトリアのテンションを不思議そうに見ており、その場の温度差の激しさをニルは否めずにいた。だが、それも最初の内だけだ。


 ニルが目の前に調味料を並べ始めた。


「焼き肉は肉の品質もさることながら、漬けダレが必須! 今回は基本のタレを短時間で作って行きます!」


 タレ用に用意した魔道コンロに片手鍋を載せて調味料の瓶をつかむ。


「先ず醤油! そしてみりん! 同量でオーケー、これで火をつけて弱火で煮ていきます」


 まな板を取り出すとその上にニンニクとショウガを置いて刻み始める。


「そしてニンニクとショウガをみじん切りにして中に入れます。すりおろしてもオーケー!」


 みじん切りを投入したあと、スプーンでかき混ぜ、小皿にすこしよそって味見をする。


「みりんと醤油の種類によって味が違うので、味見して甘味、塩味を調整。塩味と甘味の調整は、好みで塩か砂糖でもオーケーです。ちょっとコクがほしければ、オイスターソースを隠し味で少しだけ入れることもできます」


 タレが煮立ちはじめると、醤油とみりんの匂いが立ち込める。


「さて、これが冷めたら白ごまを入れますが、冷めるまで時間がかかるので、作り置いてあったものを用意してあります!」


 ニルは取り出した完成品のタレを、切られた肉の皿の一つにそれを回し掛けする。


「ヴィクトリアを除いて貴君らは、知らないだろうから、ここで食べ方を説明する!」


 ニルがそのタレのかかった肉を鉄板の上に置くと、ほどなくしてひどく食欲をそそる、タレの肉の焼けた香ばしい匂いが立ち込める。


「肉は牛肉なので、好きな焼き加減でオーケー! そして焼き上がったらこの小皿に分けられたタレにつけて、この葉物野菜で包む! 薬味のキムチを乗せて、包んだものを食べる!」


 ニルが口に入れた焼き肉と野菜を咀嚼して、飲み込むと一曲指揮棒を振り終えた指揮者のようなポーズを取って言った。


「美味いっ!! 皆さんもどうぞ!!」


 そのニルの言葉に置いてきぼりであった他の面子が各々肉を焼き始め、匂いがダイニングに充満する。その時ニルは気が付いた。匂いがついて構わない服を着て来るよう言わなかったことを。


「ま、いっか!」


 そう結論付けて自分も肉を焼き始めたニルに、ヴィクトリアが絡んで来た。


「ニル! てめー! アタシに米を食わせろやぁ!!」


 周囲はいつものことと、立ち上がって騒ぐヴィクトリアを流していたが、ニルは同じように立ち上がると彼女を指さして言った。


「それ!」


 指をさされて一瞬顔に疑問符を浮かべた物の、ヴィクトリアは続けてニルに苦情を述べた。


「これでアタシに米を食わせてくれないなんて酷い!!」


 ニルは深く頷くと、もう一度彼女に指を差して言った。


「それ!」


 ヴィクトリアが焦れて言う。


「何がだよ!?」


 ニルは再び頷くと、腕を組んで言った。


「俺が食事をする度に、今お前が感じていることを感じていた!」


 ヴィクトリアがニルのその言葉によろめいた。


「まさか、お前……、いつもこんな苦しい思いを!?」


 ニルが頷いて言葉を返した。


「ヴィクトリア卿、この痛みを君もわかってくれるなら、ぜひ米の入手に尽力してくれたまえ、成功の暁には、牛丼、かつ丼、親子丼……、褒美は思うがままであると、心に刻んでくれたまえ」


 ヴィクトリアがノリノリで敬礼をすると言った。


「ハッ、我が命にかえましても、マイン・カイザー」


 誰がやねん、ニルはとは思ったが、ヴィクトリアが大人しく座ってくれたのであえて寝た子を起こすことを避けて頷いて見せた。


 米が無いこと自体には忸怩たる思いがあるものの、その苦しみをまだ知ることの無い他の面子は満足げに食事を楽しんでいた。


 ユウもやはり牛肉は大丈夫なようで、結構な量を食べていた。やはりあれだけ牛乳を生産したり、あの重い荷車を難なく引けることを考えると、ニルなどよりはよほどカロリーが必要なのだろう。


「なんですか?」


 少し視線をとどめる時間が長すぎたようで、ユウが少しニルをとがめるような口調をいつものそれに混ぜて言った。


「いや、ちょっとデザートを作っておいたのを思い出して」


 ニルはそういうと、おおかた食事を終えた様子を確認してキッチンへと足を運んだ。事前に用意しておいたデザートを乗せておいたワゴンを押してダイニングへと戻る。


 ニルは食事を終えた面子に向かって少し芝居がかって言った。


「今日はユウとリナの活動を見て、それをねぎらうために、特別なデザートを作りました!」


 リナが喜んで立ち上って両手を叩く。隣のピアがつられるように手を叩き、ユウが少し首を傾げて問いたげな視線をニルに送った。


 ニルがそのパーティに使うような横長の銀の皿からフタを取り除くと、そこには巨大なドーム型のプリンが二つ並んでいた。


 ご丁寧に、頂点にはホイップクリームが絞られていて、その上にサクランボが一つずつ乗っている。


「じゃーん!!」


 フェリシアとリナは普通にはしゃいで喜んだ。ヴィクトリアは穢れた笑みを浮かべ、今朝驚きの体験をしたピアは顔を赤くして目を泳がせていた。


 ユウは一瞬表情が空白になったあと、耳まで真っ赤にして席を立ちあがってにるへ駆け寄ると、思っていた以上のグーパンでニルの肩を数度殴りつけて無言の抗議をした。


「イタイ! イタイって!」


 この一発ギャグでニルが得たものは、肩の青あざと、この船では誰の心が純粋かというリストだけであった。

バケツプリンのざっとしたレシピを一番下に載せておきます。


作り方は簡単で、最初にゼラチンを水でうるかしておく。

その間に砂糖を鍋で焦がしてカラメルを作って耐熱ボウルなど溶けたり割れたりしない器に入れる。

鍋に牛乳と砂糖を入れて、沸騰しない程度にあたためたら、うるけたゼラチンを入れる。

鍋でゼラチンを溶かしている間に、卵をホイッパーで均一になるように混ぜる。

ゼラチンが奇麗に溶けたら、鍋の牛乳と卵を混ぜながら合わせる。

合わせた牛乳と卵を茶こしなどでこしながらカラメルの入ったボウルに入れる。

粗熱が取れたら(室温くらい)、冷蔵庫で冷やす。

固まったら完成。


普通のプリント違って自重で崩れてしまわないようにゼラチンで固めるのがミソですね。


・・・・・材料・・・・・

砂糖(カラメル用)大さじ6

水(カラメル用)大さじ2

ゼラチンパウダー20g

水(ゼラチン用)大さじ5

牛乳1L

砂糖100g

卵6個

バニラエッセンス数滴

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