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落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~  作者: 苺味初芽


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合法乙女のヒミツと食材タブー!

「お料理ナイトの朝は早い」


「ヒッ!!」


 通路の角に隠れるようにして先を伺っていたピアに声をかけると、彼女は飛び上がるようにしてこちらへ振り返った。


「朝から精が出るなピア」


 そう言ったニルの横に、朗らかな笑みの妖精の王女めいた人物が声をかけて来る。


「おはようございます、ピア」


 ピアが反射的にバネ仕掛けのおもちゃのような騎士の敬礼をフェリシアに返した。


「おっ、おっ、おはようございます!」


 そんなピアをニルが値踏みするように見て言った。


「聖女様、ピアにまだ見せてない船内を案内したいんですが、良いですか?」


 フェリシアが軽くうなずいて答える。


「そうですね。ぜひ、そうしてください。わたくしはこれからお勤めをさせて頂きますので」


 奥の螺旋階段へと向かうその羽の生えた背を明らかな憧れの見ていたピアにニルが言った。


「ピアは俺が得体がしれなくて怪しいって思ってるんだろう?」


 彼女は図星をつかれてその小さな体をわずかに身構えた。ニルは警戒する彼女が消化しやすいように、ゆっくりと言った。


「俺はこれでも勇者庁に所属していて出自自体は割れている。少なくとも、ヴィクトリアと同じくらいには出自が明らかだ」


 そのニルの顔が少し悪そうな笑みを浮かべる。


「だが、この船には、全く出自が分かっていない人物が二人ほどいる。その一人が……」




 ニルの甘言に抗えなかったようで、ピアは彼の後をついて船内の下層を進んでいた。


「この先に、いる人物だ」


 ニルがピアを手振りで促す。


「そっと開けて見ろ」


 ピアは好奇心に勝てず、音を立てないようにそっとドアノブに手をかけた。ほんのわずかずつ絞るように捻り、軋み音などを極力立てないようにドアをわずかに開いた。


 そこには向こう側へ向いて巣の上に座る、鶏がいた。ニルへ投げかけられた疑問の視線に、彼は自分の視線と顎でピアを再び促した。


 ピアがゆっくりと足を進め、その巣の上の鶏を背後からしげしげと観察する。首を傾げてその鶏の顔を見るべく前へ回ろうとする。


「ぎゃ~!!!」


 驚いて羽をばたつかせたそれは、鶏の声でなく、人の声で悲鳴をあげていた。その視線がピアから背後の自分へと向けられた後、何度見ても不思議でしかない現象が起こる。


 その鶏は、巣からピョンと飛び降りると、しゃがんでいた人が立ち上がるかのように人の形へと変わり、彼女の背後のニルへと何かを投げて来た。


「おっと、もったいないことするなよ!」


 ニルは投げつけられたリナの卵をなんとか割らずにキャッチした。


「ヘンタイ! 勇者様のヘンタイ!!」


 目の前にいたはずの鶏がいつの間にかあの水色に白の縦縞のエプロンドレスを来た赤いお下げの少女になっている。その驚きに固まっていたピアが、視線を忙しく動かしたあとにようやく口をひらいた。


「しゃ、しゃべった~!」


 もちろん今は人の形をしているので喋ってもおかしくないのだが、驚きに反応が一周遅れになっているようだった。


「いや、ピアが船のみんなのこと良く知らないって言うからちょっとビックリさせようかと思って」


 ニルは手にした卵がやけに暖かいことに今になって気が付いた。その生々しい暖かさは、生みたても生みたてということなのだろう。


 一瞬、鶏の解剖学上の構造と卵の関係をリナに当てはめるとどうなるかという考えが頭をよぎったが、良くない考えに至りそうで、慌ててそれをかき消す。


 リナが疑わし気な目をニルへ向ける。


「なんかエッチなことを考えてるでしょう!」


 ニルはその鋭い指摘にヒヤリとしながら慌てて否定した。小さくても女の勘は恐ろしい。


「してない、してない!」


 リナが探るような視線をニルに向けたままピアに言った。


「ほんとうですかぁ~? ピアちゃん、勇者様に油断しちゃだめですよ! おしりをさわられますからね!」


 ピアがニルに向かって言った。


「こんな小さな子のお尻を!?」


 ニルが慌てて否定する。


「違うんだ! あの時は普通の鶏だと思ったんだって!」


 ピアがリナへ視線を向ける。リナが糾弾する口調で言う。


「まさぐられました!」


 ピアがリナに影響されて攻めるように言う。


「こんな小さな子に!」


 ニルは二人の調子に両手をあげて降参の意を示した。小さい子二人に責め立てられて喜ぶ癖が彼には断じてなかったからだ。


「悪かったって。ピアがさ、俺のことを怪しいっていうからさ、それならリナの方が謎が多いって話をしてたんだよ」


 リナの両眉が驚きに持ち上がる。


「あたしが怪しいんですか?」


「いや、怪しいは言い過ぎだと思うけど」


 リナは少し考えたあとに、納得したように両手を音を立てて合わせてから言った。


「確かに、なんでここにいるのかニル様には一度も言ってないですね」


 ニルは意外に思って聞いた。


「フェリシア様は知ってるのか?」


「あたしは鶏の獣人なのは分かりますよね? 獣人族の多くは、その昔の戦争で魔王様の庇護下にいたんですよ。それで、今でもその時のご恩を返すために、魔王様の血を引く方に仕えるんです」


 そういったリナが得意そうに胸をそらして続けた。


「ちなみに、あたしのフルネームはガリナで、今年で成人しています」


『え~!!!』


 ニルとピアが同時に声を上げた。それに対してニルはお前が驚くな、と心でひそかにピアに突っ込んむと同時に、『合法』という良くない考えが浮かびそうになるのを必死で抑えていた。



******



「はい、今日はなんと料理をしません!」


 宣言したニルにヴィクトリアが抗議を入れた。


「ブー! ブー!! こちとら腹減ってんだよ! ストライキ起こすぞ!!」


 ニルがジト目でヴィクトリアを睨んで口を開く。


「ストライキも何も、お前働いてないじゃん」


「してるもん! 自宅警備とかしてるもん!」


 ニルはヴィクトリアの言葉を無視して続ける。


「はい、今日はこの魔道炊飯器で保温調理をしておいたものを食べます!」


 円筒形のそれをダイニングの中央に置いて宣言をする。


「材料は鶏モモ三百グラム! しょうゆ大さじ一杯! みりん大さじ一杯! 砂糖小さじ二杯! これを全てフリーザーバッグにいれたものを水と沸騰したお湯を半々に入れた炊飯器に入れるだけ!」


 ニルが炊飯器をあけると、そこに入っていたフリーザーバッグを取り出した。チャックをあけると醤油ベースの合わせ調味料と鶏にくの合わさった食欲をそそる匂いがダイニング中に広がった。


「なんと! これをお皿に盛るだけで、テリヤキチキンの出来上がり! ただ、チキンは加熱が十分じゃないと危ないので、最低一時間は加熱してね! 出来れば数時間!」


 ニルがフリーザーバッグの中身を深皿に入れる。


「そしてなんと! さらに青梗菜、ごぼう、ニンジン、ジャガイモを同じように調理したものを付け合わせにします! 味付けはテリヤキチキンが濃いので、軽く塩コショウです! これを好きな分だけお皿に盛れば、なんとテリヤキチキンプレートの出来上がり!」


 ヴィクトリアが立ち上がって大げさに言う。


「すげー、さすがニルさんっす! すげー!!」


 ニルが右手の人差し指を立てて左右に振った。


「まだまだじゃよ! 同じ合わせ調味料にショウガを足したものに豚肉! そして同じくショウガを足したものにブリの切り身!」


 ニルがそういって順番にそれらを深皿にあけていくと、生姜焼きとブリの煮込みの匂いがテリヤキチキンに加わった。


「なんと、これを焼いて香ばしくも出来る! 三種類を人数分用意してあるから好きなのをどうぞ! 焼いて欲しい人は言ってね~」


 ニルの前には三つのスキレットが魔道コンロの上に用意されていた。


「おっちゃん! アタシ生姜焼き焼いて!」


「おうよ、元気良いね、お嬢ちゃん!」


 ニルが手早く湯煎に入った生姜焼きを取り出すと、スキレットに肉を入れて焼き色を付けていく。香ばしい匂いが加わった。リナが手を上げて言った。


「ハイ! あたし自分で焼いてみたい!」


「おお、お嬢ちゃん元気いいね! やってみな!」


 リナが足取りも軽くニルの横に立つ。ユウが何を言うでもなくおそらく手伝うためにもう一つのスキレットの前に立った。


 ニルは炒めた生姜焼きを深皿に盛るとジップロック内の汁をかけて野菜の付け合わせを盛りつけながら言った。


「しかもこのメニューは氷水で冷やして冷凍しておけば、明日の朝美味しく食べられるからね!」


 ヴィクトリアが生姜焼きを受け取りながら言った。


「え~、二回同じものを食べるの?」


 ニルはこだわりのラーメン屋のように腕を組んでそれに返した。


「お前テリヤキチキン卵サンドさんを目の前にしてもそんなこと言えんの?」


 ヴィクトリアは天井を見上げるようにしたあとに、勢いよく頭を下げて言った。


「サーセンしたっ!!」


 その時ニルは右隣のリナが手にしたフリーザーバッグを見て凍り付いた。チキンだったのである。


 リナはニルの視線に気づいて表情を見ると飛び跳ねて体当たりをして来た。


「失礼ですよ!!」


 今日の献立を三種類にしたのには、リナにチキンを食べさせて良いのだろうか、いや、ダメだろう、と思っていたからであった。そこを剛速球で攻められた感は否めない。


「だ、だって……」


 頬を膨らませたリナが言う。


「人間だってサルを食べるでしょう?」


 ニルはこの世界ではまだ見たことが無いが、きっと元の世界と一緒でどこかの地域ではメニューに載るのだろう。いずれにしても、彼女の認識としては両者は全く違う存在ということだ。


 ニルは左隣を見て、出すのを控えていた例の食材のことを考えた。『焼肉食いたい』、と日本人としては強く思わざるを得ない。ユウと視線が合うと、彼女は胸を手で隠すようにして言った。


「エッチ……」


 ユウの尻馬に乗るようにリナがはしゃいで言う。


「エッチ! 勇者様のエッチ!!」


 ニルは罵られることによって快楽を得る体に改造されることを避けるため、そのいわれのない誹りに対して遺憾ながら平身低頭あやまることしか出来なかった。 

以前は魔王の血筋に仕える獣人は戦闘系でしたが、今は平和なので、リナやユウのような生活支援系ということになったという設定です。


炊飯器の調理は海外に住んでいた頃、仕事が終わってから家に帰って作るのが大変だったので週末作って冷凍したものを平日食べてました。もちろん、ご飯も事前に炊いて冷凍していました。


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