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落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~  作者: 苺味初芽


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15/18

アナタをアイス、勇者が聖女にプロポーズ!?

「えっ、そんなことありゅぅ~?」


 ニルはドアを潜った瞬間に見えた光景に、周囲から聞き取れない程度の小さな声でつぶやいた。


 一行を案内していた勇者庁秘書官、オーヴィス・アグヌスが紺色の軍服の肩を小刻みに揺らしていた。彼女には聞き取れたらしい。


「勇者ニル、勇者ヴィクトリア並びに聖女フェリシア様をお連れしました」


 彼女の上品な声が広い室内に響く。そこには部屋の幅に沿う程横に長いデスクがあり、こちらから見てその対面側には三人の人物と、脇にある二脚の椅子から立ち上がった二人の人物がいた。


 当然デスクの向こうがわでこちらへ向いている人間の方が重要人物ではあるが、ニル的には立っている二人の内の一方の人物が、この場では一番の懸念点であった。


 なぜなら、席から立ち上がった内の一人は先日の騎士団長で、もう一人が、あの小柄すぎる成人女性の騎士だったからだ。


 彼女の頭には、何故か取ってつけたような髪飾りがあった。


「どうぞ、お席に」


 オーヴィスの促しに、ニル達がデスクの前に並べられた椅子にそれぞれ腰を掛けると、立ち上がっていた二人の騎士もその席に着いた。


「貴殿らとは初めて会うな。私はアミティキア連合議長、セネクス・テリウスである」


 デスクの中央に座った、やたら偉そうな少年が口を開いた。頭を支えるように左肩肘をデスクに突き、右手はデスクの上で、人差し指がゆっくりとリズムを取るように動いていた。


 ちなみにその少年の左には勇者庁長官、マグナス・トーラス、右には先日地下空間への任で同行した聖女、サナツィア・ヴェネラビリスが座っていた。


 横柄にも見える態度で少年が言葉を続ける。


「ゆくゆくは代理を立てるとは思うが、懸案事項なので初期は私が舵を切ることになる」


 少年の視線が一度先日の騎士団長と、ピアという騎士に向けられた。


「時に、勇者ニル」


 ニルは急に声をかけられたことに少なからず意表を突かれた。


 フェリシアとヴィクトリアのオマケとして来ているはずの自分が、クソ偉そうな子供にしか見えないとはいえ、連合議長に名指しにされる理由が思いつかなかったからだ。


「貴殿には謝罪せねばなるまい。孫娘がなにやらあらぬ屁理屈をつけて迷惑をかけたということだが、一族の長として、祖父として、教育の責を負わずにはおられまい」


 少年は椅子の上で姿勢を正すと深々と頭を下げた。


「申し訳なかった」


 ニルの視線がその少年にしか見えない人物の頭頂部と、泣きそうになっている二人の騎士の間を忙しく往復した。


「議長閣下、そのような謝罪は不要でございます! 本職としては、子供同士のじゃれ合いだと思って頂ければと思っております!」


 お偉いさんの前に出ること自体が尻の座りの悪い状況であるが、真摯に謝罪を受けるというのはまた違った味わいたくない座りの悪さがあった。


「そうであるか。孫とは仲良くしてやってくれると嬉しい」


 そう言うと、目の前の老人少年はにこやかな笑みを浮かべた。


 深いバリトンの声がその後に続いた。マグナス・トーラスがその長躯から発したものだ。


「では、この集まりの趣旨を説明していこう。連合議会、聖堂会、勇者庁、この三組織が人員を出し合って件の地下構造の調査に当たることになった」


 彼の青黒い肌をした大きな手が書類をめくる音がする。


「この調査用の組織を『アルカナ』と称し、その先行調査団として以下の人員を充てる。勇者ニヒル・ヌルス、勇者ヴィクトリア・サンクタ、聖女フェリシア・レギナエ、騎士ピア・テリウス、以上の四名だ」


 ニルは久々に自分に与えられていたフルネームを聞いて少しギョッとした。ネタバレである。ニヒルでもなんでもないのにひどい仕打ちだ。


 命名は勇者召喚の際の魔道具の表示から取られるそうだが、『何もない・ゼロ』とはえらく無機物に嫌われたものだった。お料理勇者の方がまだ愛が感じられる。


「なお、先行調査団が転移アーティファクトであるとその地下構造を認定した際には、本格的調査を学術団および技術団を編成し、これに当てるものとする」


 マグナスが読み上げていた書類をデスクに置くと、サナツィアが引き継ぐように口を開いた。


「曖昧にしておくと余計な軋轢の元になるので明言させていただきます。聖女フェリシアは聖堂会に、騎士ピアは議会に、勇者二人は勇者庁に報告する義務があります。これは、連合国家の重要事項が一方的な見解で処理されないための措置としてになります」


 サナツィアの視線がフェリシアのそれと絡んだ。老人少年が口を開く。


「貴殿らはその辺りにはあまり気をもまないでくれ。組織同士のいがみ合いがあるとしたら、それはこちらで引き受ける。貴殿らは、つつがなく職責をこなし、自らの無事のために仲間として支え合ってことに当たってくれたまえ」


 短く簡潔で、良い校長先生のお話だった。その視線が孫娘の騎士へと向けられる。


「これ、ピア。ご挨拶を」


 ハッと気づいた彼女がその小さな体でバネ仕掛けの勢いで立ち上がると、座っていた椅子が勢いよく後ろに倒れてけたたましく音を立てた。騎士団長が気を使って椅子を立てるのを目にした老人少年が複雑な笑みを浮かべる。


「ご紹介にあずかりました、アルバトロス騎士団団員、ピア・テリウスであります! 勇者様、聖女様におきましてはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします!!」


 彼女のお辞儀の勢いで髪飾りが空を飛ぶ。それは見で捉えているのにケラケラと笑うヴィクトリアを通過し、反射的に手を伸ばしたニルの手のひらに収まった。


「も、申し訳ございません!」


 頭を下げたまま上げようとしない彼女に、ニルは立ち上がって歩み寄ると声をかけた。


「頭を上げて下さい。あの、今更ですが、先日の件はじゃれ合いか他流試合のようなもので、お互い良い交流を持てた、と考えることは出来ないでしょうか?」


 彼女は半べその顔を上げるとニルを見た。彼は彼女の髪にその髪留めを付けなおしてあげた。


「オイオイ! マジかよ!! ヒュー! ヒュー!!」


 ヴィクトリアがその状況を混ぜ返した。いつの間にか老人少年も彼らの近くに来てニルの腕に手を置くと言った。


「良い若者だ。孫娘をよろしく頼む」


「もちろんです。微力を尽くして」


 ニルは反射的に答えて、ニヤニヤとするヴィクトリアと、『まあ!』というような表情のフェリシアの様子に加えて変な空気が室内に満ちるのを感じていた。



******



 その後、フェリシアの提案でピアを船に読んで歓迎会をすることになった。メニューはリナやユウも手伝い、ニルが今までに作った料理がダイニングに並べられていた。


「はい、皆さんご注目! 本日は新しいデザートを提供します!」


「材料はこちら! まずヨーグルト! そして砂糖! そして各種フルーツ! 今回はオマケに生クリームも!!」


 ニルは周りの微妙な空気を自信ありげな表情で迎え撃った。


「そして調理道具としてこれ! フリーザーバッグ!!」


 いわゆるジップ□ックであった。件の列車内夜なべをして、後々使えそうなものをニルは漁りつくしていたのだった。


「これがあれば何が出来るか知っているかね?」


 ポカンとして答えない面子にニルは得意げに続けた。


「ヴィクトリア君、どうだね!」


 急にスイッチが入ったように彼女が元気に言った。


「先生! わかりません!!」


 ニルは悦に入った顔で宣言するように言った。


「なんとアイスクリームが作れます!!」


「マジかよ!!」


 この世界ではあまり氷菓子が普及していないので、ヴィクトリア以外の反応が微妙だったが、食べたかったニルには全く関係の無い事だった。


「ではさっそく。このフリーザーバッグに水五百ミリリットルと、塩百グラムを入れると飽和食塩水が出来ます! これを魔道食糧庫のフリーザーに入れると!? なんとマイナス二十度の水が! これを二つ作って冷凍庫に入れたものがすでにあります!」


 ニルが袋をあけるとその中にヨーグルトを入れ始めた。


「今回は最もシンプルな誰でも作れるフローズン・ヨーグルトにします! 別の袋にヨーグルト二百グラムに、砂糖三十グラムを混ぜた物を入れます! そしたら出来るだけ空気を抜くようにして!!」


 ニルが丁寧に空気を抜いてフリーザーバッグのチャックを閉めた。赤いお下げの髪が跳ねながら、助手のリナが冷凍庫にあった飽和食塩水の袋を二つトレーに乗せて持ってきた。


「はい、ここでマイナス二十度にまでなった飽和食塩水の袋で、このヨーグルトをサンドイッチします!」


 ニルが手早く飽和食塩水の袋の間にヨーグルトのバッグを敷くと布でそれを包んでトレーに戻した。


 リナがそれをまた冷凍庫へと運んでいくのと入れ替えに、布に包まれた同じものをユウがダイニングの上に置いた。


「そして、こちらに完成品が! ちなみなんと驚きの、二十分ほどで出来上がります!!」


 ニルが布の包みからヨーグルトのジップロックを取り出して開く。


 大き目のスプーンで卵型に掬うと、リナが再び冷凍庫から取って来たデザート用の器にそれを盛り、生クリームを絞ってカットされたフルーツを盛りつけた。


 ニルはその最初の皿をピアの前に置くと気取った調子で言った。


「どうぞ、お嬢様。ボナペティ!」


 その後好評なため作り置きしておいたフローズン・ヨーグルトをお代わり用に持ち出し、各々がワイワイと和やかな雰囲気で自分の好みのフルーツと一緒に盛りつけていた。


 ヴィクトリアが唐突に言いだす。


「なぁ、ニル。知ってるか? 髪に髪飾りをつけてあげたりとか、甘いものをご馳走したりするのは、ここではその女を口説いてるってことになるんだぜ?」


 常識の無いヴィクトリアに常識を教えられる屈辱もさることながら、ニルはそれ以上に強く感じたことを口に出していた。


「そういうのは、早くいってよぉ!!」


 急に俯いて髪を弄り始めるピアに、ニルは自分のTPOをわきまえない行動にバツの悪い困惑を感じていた。


 それを可笑しそうしながらにコロコロと笑うフェリシアを目にして、ニルは八つ当たりとわかりながらも苦情を言わずにはいられなかった。


「聖女さま! 俺三日に一遍はティアラをその辺に置いてるの付けてあげましたよね!? 拗ねた時毎回何か甘い物作ってあげてますよね!? なんで教えてくれないんですか!?」


 フェリシアはニルの言葉に朗らかな笑いを羞恥交じりの変な笑みへと変え、て耳を真っ赤にしながら偶然であろうが、かなり良い勢いの掌底を彼の脇腹に食らわせた。

この世界の度量均衡法って? 勇者がメトリックを持ち込んだおとにしておこう。


ちなみに作中のフローズン・ヨーグルトですが、原理的には氷と塩で低温は達成できます。ただ、ジップロックを使うとタネを薄く出来るのと、冷凍庫に飽和食塩水の袋とサンドイッチにしてしまえるので効率が高いです。


具材に冷凍されたカットフルーツなどを在庫しておくと、常に美味しくただけます。砂糖をハチミツに入れ替えてもOK!!

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