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落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~  作者: 苺味初芽


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揚げ鶏対決! お料理ナイト VS お料理勇者!!

「キサマか! お料理勇者などと名乗っているのは!!」


 市場で安く買い叩いた調理道具を抱えたニルと船に戻る途中、後ろから声をかけてくる人物がいた。ヴィクトリアがその相手の言葉に噴き出す。


「名乗ってねーよ!!」


 ヴィクトリアに人睨み入れてから突っ込みを返した相手の方を見ると、それはニルの肩に届くかどうかという身長の騎士の装備を身に着けた人物だった。


「騎士ごっこか~、あんまり周りに迷惑かけんなよ」


 ニルが相手の頭に触れるやいなやのタイミングで相手のつま先が跳ね上げられた。


 寸での所で膝でそれを受けたニルは、三年間の勇者教練に感謝しながら背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。


「あぶなっ! おい坊主、それは騎士として卑怯な攻撃だろう!」


 その小柄な人物はワナワナと震えると胸のポケットにあった手袋を投げつけて来た。


「わたしを侮辱したな! キサマ、決闘だ!!」


 ニルは受け止めた手袋を投げて返すとニヤリと悪い笑みを浮かべた。


「お前、このお料理勇者に決闘を申し込む意味が分かっているのか!?」


 ヴィクトリアが盛大に噴出した。それに気が付いた風もなく、その小柄な騎士を名乗る人物は少し怯んだように半歩後ずさりかけた。


「あ、あたり前だ!」


 ニルは不遜な態度で相手に腕を組んで見せると、彼の中で知りうる限りに最も尊大な人物であろう某美食家を真似て言った。


「では料理勝負だ! お題は鶏のフライ! お前も騎士であるならば、このお題は常在戦場であると心得よ!!」


 ニルはその言葉に怯んだ相手にニヤリと笑みを返すと、ダメ押しで内なるグータラ新聞社社員を召喚してテンプレの捨て台詞を言った。


「明日またこの時間にここに来て下さい。本物の揚げ鶏を食べさせてあげますよ……」


 ニルはそう言うとうずくまって肩を震わせていたヴィクトリアを置き去りにして船へと帰って行った。




 翌日ニルがリナやユウの手伝いで甲板に用意した折り畳みのテーブルに野宿で使っていた携帯魔道コンロを設置し終えた頃、半分来ないだろうと思っていた人物が背中に大荷物を背負って船の甲板に上がって来た。


「怖じ気ずに来たか、小童め!」


 ニルの言葉にその相手は身構えて言った。


「私の名前はピア・テリウスだ! 騎士ピア・テリウスと呼べ!!」


 悪ノリした悪役ムーブを崩さずに、ニルは尊大な演技を続けて言葉を返す。


「そんなことはこの勝負に勝ってから言え!!」


 言葉に詰まった相手の様子に、ニルは少し言い過ぎたかとも感じたが、子供に礼儀を教えるのは大人の義務であると自分に言い聞かせてその考えに蓋をした。


 リナとユウに交じって当然のようにその場に立っていた人物にニルが声をかけた。


「ってかヴィキ、お前何普通に皆に混ざってるの?」


 豪奢な波打つ金髪にヘイゼルの瞳を湛えた美貌で日差しを照り返し、見た目は俄然主人公の残念勇者聖女が堂々と言い放った。


「ハラヘッタから!!」


 ニルがそれにヤレヤレムーブを返した頃にはピアと名乗った『チビ騎士ごっこ』は荷解きを終え、自信ありげな笑みでニルへ小馬鹿にしたような視線を送ると口を開いた。


「私に対して舐めた態度を取れるのもこれまでだ!」


 その『チビ騎士ごっこ』は食材をテーブルに並べて自慢げに言った。


「材料はこの通り! 先ずドラムスティック! フライドチキンといえばこの部位が最高のものになる! 今朝市場を探し回り発見した、最も新鮮なものだ!!」


 その小さな手でトレイやボウルに入れられた材料を指さす。


「衣とスパイスはシンプルに! バターミルク、小麦粉、パプリカパウダー、塩、胡椒!」


 ニルはピアと名乗った相手が、その小さな手で手早くスパイスを混ぜて行くのを感心しながら見ていた。


「先ず衣に使う小麦粉に、パプリカパウダー、塩、胡椒を入れて混ぜる!」


「次にドラムスティックをバターミルクに入れる!」


 この時点でニルはとあることに気が付いていたが、このレシピがどこから流れて来たのかまでは分からなかった。


 そのレシピとは、あの有名な某メガネのと髭の白い大佐が作り上げたと言われている伝説のある、異世界人の関与が見え隠れするものであったのだ。


「中々やるな小童!」


 ニルの言葉に表情を固くしてその『チビ騎士ごっこ』が言う。


「そんなことを言っていられるのも今の内だけだ! ここでドラムスティックを取り出してスパイスを混ぜた小麦粉をまぶす!」


 『チビ騎士ごっこ』がニヤリとニルを見下すように笑みを向ける。


「そしてこれをまた、バターミルクに浸す!」


「な、なんだと!!」


 ニルは変な義務感に迫られてリアクションを取った。後ろのヴィクトリアの腹が結構な音量で鳴った。


 これならフェリシアのお腹が鳴っても目立たないだろう。何故かフェリシアから少し責める色の視線が返される。


「馬鹿め! これを何度か繰り返し、衣の厚みを作り出すのだ!」


「生意気な小童め!」


 チビ騎士がニルの罵詈雑言を鼻で笑って続けた。


「ある程度の厚みが出来たら、小麦とバターミルクがペースト状になるまで寝かせる!」


「なんだと!?」


 この時点でニルはテンプレリアクションを返すのが少し楽しくなっていた。相手もノリノリで続ける。


「見ろ! このしっかりした衣を! 貴ぶべきこの状態に衣が到達した時、ようやく適温の油で揚げて行くのだ!!」


 騎士ごっこが適温になった深鍋の油にドラムスティックを数本入れた。ニルがそれに対して悪役リアクションを続ける。


「入れ過ぎず油の温度を保つ、少しは料理のなんたるかを分かっているようだな!」


 得意げな見下す態度でその騎士ごっこが温度の戻った油へ衣のついたドラムスティックを追加していく。


 船の甲板に衣とチキンが油で揚げられていく香ばしい匂いが充満する。騎士ごっこが上がったドラムスティックを油切り用のトレーに乗せていく。


「これ、もうこの子の勝ちで良くね?」


 そのトレーからくすねるようにして手にしたドラムスティックにかじりついていたヴィクトリアが言った。


 その言葉と周囲の期待した反応に『騎士ごっこ』が勝利を確信の笑みを浮かべた時、ニルは逆に自分の勝利を確信していた。


「馬鹿め! 常在戦場とは何か!! キサマは戦場へそのような大鍋と大量の油を持ち歩く気か!!」


 ニルの言葉で相手の確信の表情に揺らぎが生じた。


「常在戦場料理とはこうだ! 材料はどこからでも手に入る鶏むね肉!」


 ニルが取り出した鶏むね肉をまな板の上に乗せて切り分けた。


「味付けは、醤油! おろしショウガ! 衣には片栗粉! 以上だ!」


 そして昨日市場で手に入れた調理道具を魔道コンロの上に乗せて見せる。


「これを全てこのノンスティックのフライパンの中に入れて混ぜる!!」


 相手の瞳に怯えが映し出され、意図せずにその口から声が漏れた。


「まさか、それで衣がサクサクになる訳が……!」


 ニルは不敵な笑みを浮かべて魔道コンロに火を入れると悪役ムーブのまま言葉を返した。


「我が秘術、食らうが良い!」


 火を入れて間もなくパチパチと片栗粉とチキンが立てる音に醤油とショウガの焼ける匂いが立ち上る。目の前の『騎士ごっこ』が自信のゆらいだ表情のまま、その芳醇な香りにゴクリと喉を鳴らす。


 ニルが丁寧に鶏をひっくり返すと、キツネ色の衣が姿をあらわす。鶏の周りには自らが出した油が広がり、自らを揚げ焼きにする音が響きはじめていた。


「そんな……まさか!?」


 ちびっこナイトが震える声でつぶやく。ニルが油切り用に用意したトレーに出来上がった鶏肉を順番に置いていく。


「うめー!!」


 出来立ての熱さもなんのその、ヴィクトリアが手づかみで口元に運んで咀嚼していた。


「馬鹿な!」


 飛び出すようにちびっこナイトが唐揚げのトレーの前に行くと、ニルがフォークを差し出した。


「自ら確かめるが良い!!」


 その一つをフォークで刺すと、口元に運んでかぶりつく。ザクりと歯が衣を噛む触感のあと、口の中に醤油の香ばしい香りととショウガのキリリとした味に鶏の旨味が追いかけて来る。


「ば、バカな! 衣がサックリしているだと……!!」


 衝撃に狼狽するその瞳にニルが畳みかけた。


「このレシピであれば、材料は四つ! しかもショウガがなければニンニク、醤油がなければ塩でも良い! だが、醤油は塩味を加えるだけでなく、旨味調味料としての側面を持つ! これにより、数少ない素材で最大限の味わいを生み出すのだ!」


 ニルの目の前で豆粒チビナイトが力尽きたように両膝を地に着いた。


「だ、だが、戦場でそんな特殊なフライパンが常にある訳では……」


 相手の悪あがきにとどめを刺すべく、ニルが良い放った。


「我が何故むね肉を選んだと思っているのだ……? むね肉には油の塊がついて来る!」


 ニルは相手の目の前でむね肉をまな板に載せ、皮の下にある、量にして親指の頭ほどの脂身を取り出して見せると、すでに温められていたスキレットにその油を広げて残りの味付けしたむね肉を乗せて言った。


「このように、油とフライパンの使い方を心得ていれば、特殊なフライパンは不要! キサマの言い分は通用しないぞ、この小童めが!!」


 豆粒チビナイトは膝をついたままうなだれた。


「クックックッ……、わーはっはっ!!」


 ニルが悪役ムーブの完成に、大笑いで締めようとしたその時、目の前のうなだれた小さな影が起き上がった勢いでそのつま先をニルの急所に振り上げた。


「あぶなっ!」


 ニルはギリギリでそのつま先を手で受け止めた。豆粒チビナイトは舌打ちをすると、ニルの唐揚げを一つつかむと罵詈雑言を浴びせてその場を走って逃げて行った。


「なんだよ、このバーカ! バーカ!!」


 結構な速さで走り去っていく背中を見ながらニルはこぼした。


「最近のお子さんは切れやすすぎだろう」


 片手にドラムスティック、片手に唐揚げに野菜とタマゴを挟んだサンドイッチを手にしたヴィクトリアがニルに答えた。


「あれだけ煽って切れない方がおかしいだろ」


 ニルがヴィクトリアに視線を返すと、リナとユウが唐揚げパーティー用に野菜をカットしたり、タマゴサンドの具材を用意しているのが目に入った。


「大体だれがお料理勇者とか言いだしたんだか……」


 口に入っている食べ物を咀嚼しながら、悪びれる風もなくニルの疑問にヴィクトリアが答えた。


「あ、それアタシ」


「お前かよ!」


 ニルのツッコミを合図にしたように、船尾楼のドアをあけてフェリシアが朗らかな声で現れた。


「まあ、今日はサンドイッチなんですね。おいしそう!」



******



 翌日船に一団の訪問者が訪れていた。騎士団の装備を身にまとった人物らで、一人が騎士団長、もう一人は副団長、そして部隊長、最後に豆粒チビナイトその人であった。


 部隊長が豆粒チビナイトの頭を押さえつけるように頭を下げさせようとしていた。騎士団長が恐縮な面持ちのまま、形式を重んじた口調でニルに語り掛けていた。


 ニルはその人物が実際に騎士であったことに驚愕を覚えていた。


「我が団員が勇者様に大変失礼な態度を取ったと聞き及びまして、恐れながらこうして謝罪に参った次第であります」


 見事な体躯の男が真剣に礼を尽くす有様に、逆にニルが恐縮して答えた。


「いや、そんな格式ばった場での交流でもなかったので、どうぞ面を上げて下さい」


 原因になっているヴィクトリアがニヤニヤと見物しているのをニルは少し腹立たしく感じた。


「ピア団員! 謝らんか!」


 団長の声に、ピアと呼ばれた豆粒チビナイトはへそを曲げたままのふてぶてしい表情で言葉だけの謝罪を口にした。


「どうも、申し訳ございませんでした!」


「ピア!」


 部隊長が困った顔で豆粒チビナイトに言う。ニルは助け船を出すことにした。


「なあ、坊主、お前が謝りたくないのは分かるが、お前が礼儀をわきまえないというのは周りの人間も含めて、家族にも礼儀知らずの汚名を着せることになるかもしれないのは考えたことがあるか?」


 ニルは相手の顔が怒りで真っ赤に染まるのを見てその人物に、『謝れない子供』というレッテルを張ろうとしていた。


「あの、勇者様……」


 その時、騎士団長が恐縮な体で口を開いた。ニルの注意が自分に向いたことを確認して続きを述べる。


「我が騎士団のピア団員は、成人女性でして……」


 ニルは稲妻の速さで土下座をすると言った。


「すみませんでした!!!」

某白い大佐のフライドチキンに迫る味のレシピとして塩と胡椒だけをスパイスにしたものがYoutubeなどに上がっていますが、本家の衣の色からしてパプリカ・パウダーは入ってそうですよね。小麦粉を片栗粉に置き換えたら油無しでフライパンで作れないかな~?

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