新装開店! ダンジョンレストラン!!
「昨日あの後さぁ、ピザ食いたくなってアルトゥーロ行って来たわ」
惜しげもなく大理石で組みあげられた廊下でうそぶいたヴィクトリアの言葉に、今からダンジョンという状況の中でニルは一気にやる気をなくしていた。
「まだ食いに行ったのかよ! ってか、じゃあ、最初からそっち行けよ!」
アルトゥーロとは、アミティキアでも有名なレストランである。高級という程ではないが、味は確かで多少裕福な平民も記念日や誕生日などに利用したりする人気店であった。
「サナちゃんもそう思った?」
ニルとの会話が飛び火で急にサナちゃん呼ばわりされた彼女は、ギョッとした表情を隠しきれずに先頭のヴィクトリアへと視線を返した。
今回の任務には少数の人間しか関わることが出来なかった。現段階では調査という名目であり、その地下構造と称した処へ直接の辞令を与えられたのは、ヴィクトリア、サナツィア、フェリシアと、その護衛のニルという四人であった。
ヴィクトリアがここ来る途中にでも拾ったであろう猫じゃらしをゆらゆらと揺らしながら、したり顔でサナツィアへ向けて得意げに言葉をつづける。
「こいつの真骨頂はな、どこに行っても美味いメシが出て来る所だ!」
そう言った彼女はなれなれしく猫じゃらしを持った腕をニルの肩に回す。
「お前真面目にやれよ。なんかもうこの辺ちょっと変な感じしてるけど?」
ニル達が歩いている廊下は首都の行政をつかさどる六か国議会を擁する城の下層部分であった。その部屋の一つから伸びる「緊急避難通路」に亀裂が生じ、その亀裂から別の地下構造に繋がっているという。
「では、少し浄化をしてみましょうか」
フェリシアがそう言うと胸の中心に両掌を重ねて目を閉じて見せる。背の羽がわずかに繰り返して動き、かすかな光が一瞬彼女を中心に波紋のように広がっていった。
「そうだな。ちょっと何かあったな。ニル、お前なんでそういうのだけ良く分かるんだ?」
穢れの量が薄かったため、無くなって初めてその差が分かる程度のものだったのだ。
「さあな。そんなことより、あの部屋から脱出路に出るんだと思うけど」
ニルの言葉にヴィクトリアがニヤリと笑う。
「緊急避難通路、らしいぜ」
ニルが脱出路といったのは、本来それが戦で城を放棄する際に使う物であって存在が知られてはいけないことを示していた。
ヴィクトリアが笑いながら言った、『緊急避難通路』という呼称で彼らに伝えられているのは、その事実を曖昧にして伝えたかった意図が見え隠れしている。
ニルは彼女の無駄話を流して件の部屋のドアを開いた。その部屋は一見会議室のようにも見え、地下一階なのに、大きな暖炉が据え付けられていた。
ニルがその暖炉の中にかがんで踏み入り、突当りの煙突に続く上の方に見える飛び出た組み石を押しこむ。
しばらく壁の奥で何か重い機構が動く音が響くと、その暖炉の奥の石組みがゆっくりと下へ降りて奥へと続く通路の口を現わした。
「アタシが先頭に行くわ。ニルは殿をよろしく」
行き過ぎにも見える少人数も、事態が明確化するまで極力隠しておきたいということであろう。ヴィクトリア、フェリシア、サナツィア、ニルの順に中へと踏み入れる。
「灯りをつけますか?」
フェリシアの問いにヴィクトリアが手で制す。
「いや、戦闘になるか知らんが、灯りは狙われるからアタシが点ける」
ヴィクトリアが左手で一連のジェスチャーをすると、彼女の右前に魔法の灯りが灯った。
「まったく可哀そうになぁ。サナちゃんなんか本来なら蝶よ花よって傅かれて毎日を面白おかしく過ごせるのにお付きの一人も無しでこんな所に来させられてよぉ」
先ほどの暖炉の壁が音を立てて再び閉まった様子を見て、サナツィアが口を開く。
「連れてきて良いという言葉は頂いていました。ただ、ことによっては取り返しのつかないことになりかねないと考え、一人で来ることを決めました」
つまり、勇者や聖女ならいざ知らず、判明した状況次第ではその者の身分によっては命が保証されない場合が出て来る可能性をサナツィアは言っていた。
「世知辛いね~。例の地下構造の亀裂ってこれか?」
躊躇や警戒をする風もなく真っ暗な中へズカズカとヴィクトリアが入っていく。
「光源が……?」
サナツィアが驚いて言う。亀裂は狭いまま続いていたが、その先には明かりが見えた。
「地上に繋がってるのでしょうか」
疑問を挟んだフェリシアにヴィクトリアが答える。
「人がいる可能性を考えて警戒しよう。後ろから来るとも思えないけど、ニルは警戒よろしく」
「了解」
******
「腹減った! 見た目に比べて遠すぎん? ニル、明るいし、ここで食おうぜ!」
その後亀裂の通路を一時間ほど進むと大きな開けた空間に出た。そこには何か蛍光の藻でも生えているのか、青白い光に満ちていた。
自作のメモ帳を取り出して何かを書き入れていたニルにヴィクトリアが絡む。
「何しに来たんだお前! 今記録を取ってるから待て!」
「そんなのあとにしようぜ~」
ニルはため息をつくと出来るだけ平らな場所に見当をつけると、勇者装備の支給品の一つである、腰の小さな魔道ポーチから四人が座れる敷物を取り出して敷き始めた。
「さて、今日は屋台からハンバーガーを買って来たんで、これを食べましょう」
ヴィクトリアが死刑宣告を受けた囚人のような顔でニルに縋り付いた!
「うそだ! お前もアタシを裏切るのか! オンドゥルルラギッタンデイスカー!!」
ニルが呆れてその言葉に返す。
「お前合衆国国民としての自覚を持て。普通はそんな微妙に古いの知らんだろう」
ニルは魔道コンロとスキレットを取り出して仕切りなおした。
「今回の材料はこちら! どこぞの屋台で買ってきたハンバーグ! バター! 卵! レタス! そして今回のハイライト! 事前に調合して来たテリヤキソース!」
テリヤキという言葉にヴィクトリアの目が輝いた。
「おお! 信じてたぜアタシは! よっ! 大統領!!」
ニルはヴィクトリアの勢いにつられて悪ノリした。
「メイク、アメリカ、グレイト、アゲイン!」
前のめりのヴィクトリアに手のひらサイズの瓶を見せてニルは続けた。
「この瓶に入ってるテリヤキソースはミリンが手に入らなかったので、醤油、白ワイン、ハチミツを二対一対一入れたものに、コーンスターチ(片栗粉)を小さじ一杯入れてあります」
「まずバターをスキレットに入れて目玉焼きを焼きに。別の食用油でもオーケー」
ニルが手早くバターが溶けたところに卵を片手で四つ割っていれてフタをした。バターで卵がやける音が無人の地下へと響く。
「出来た目玉焼きは一旦皿にとります。そしたらハンバーガーを分解してパティをスキレットに」
スキレットにパティを四つ置いたあと蓋をする。
「そしてこのフタに伝わる熱を利用してバンズを温めます」
ぐるっとフタの上にバンズが並べられる。
「瓶の中のコーンスターチが沈殿しているので瓶を振ります!」
「パティは温めるだけなのでちょっとしたらフタをあけて裏返して、混ざったテリヤキソースを中に入れる!」
肉とテリヤキソースが焼ける、空腹には暴力的なまでのにおいが広がっていく。
「テリヤキソースが透明になったらコーンスターチに火が通ったので調理終了」
ニルが魔道ポーチから小さめの皿を四つ取り出して、その上にバンズとパティと目玉焼きにレタスを乗せて組み立てていく。
「はぁいっ、でぇ~たぁ~っ! てぇ~りぃ~やぁ~きぃ~つぅ~きぃ~みぃ~ばぁ~がぁ~!」
フェリシアとサナツィアが置いてけぼりを食らって戸惑っている中、ヴィクトリアがテリヤキ月見バーガーにかぶりつきながら何度も頷いて言った。
「お前物まねおもんないけど、メシはマジで最高だよなぁ~」
「ほっとけ!」
ニルは上機嫌になったヴィクトリアにため息をつくと自分のテリヤキ月見バーガーを口にする。
サナツィアは何の疑問もなくそれを美味しそうに食べているフェリシアを目にして、自分も恐る恐るそれをひとかじりして見た。
彼女の目が驚きに見開かれる。サナツィアは思わず自分が過去美味しいと感じた様々なシェフ達のメニューの中で、このニルのハンバーガーがどの順位に入るのかを考えていた。
その後、サナツィアは親しい人物にこの話をするのだが、それが人づてに歪んで広がり、いつの日かダンジョンの底に住む凄腕料理人の都市伝説になるとは、この時は誰も思っていなかったのであった。
売ってるハンバーガーをテリヤキバーガーに改造するのは海外に住んでるときに良くやりました。しょっぱくなるのでテリタマにすると良いというおをあとあと気が付いてからは定番メニュー化していました。




