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落ちこぼれ勇者、つまはじき聖女の護衛に ~ぽんこつ主のご飯と生活のお世話~  作者: 苺味初芽


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頑な聖女と飯テロ勇者

「ナニコレ、ステキ」


 異世界に召喚され、勇者ニルと名付けられた彼は、森の開けた場所に鎮座する巨大な建造物を見上げ、少し間の抜けた声を漏らした。

 そこにあったのは、屋敷ではなく――森の緑に映える、大きな白い帆船だったからだ。


 海沿いとはいえ寒空の中森の端に鎮座するそれは、彼が元いたの世界で年末近くにそこかしこで見る白いクリスマスツリーを彼に思い起こさせた。


 流石聖女が住まうと言われている屋敷(?)だ、面構えが違う。さす聖。

どこかの誰かの取ってつけたように似合わないお仕着せの勇者装備とは大違いだ。


 地に喫水線まで埋まったその船体は、華奢なガレオン船のような形をしていてリフトと見える枝で編まれた可愛らしいゴンドラの形をした篭が地上へとロープと滑車の組み合わせで垂れ降ろされていた。


 ニルは一見すると扉と分からない腰上までのそれを開いて籠の中に入ると、持ち上げる機構が本来ボートを降ろすためのものを利用していることに感心しながらボタンらしきものを押す。


 驚くほど静かに登るその篭は、おそらく魔力を利用したものだろう。転移者としては現代技術を埋められる魔道技術が存在するのはありがたいことだった。


 甲板を目にすると、何故か懐かしさを感じたがその理由はすぐに分かった。

だれも居ない静かな神社の境内に雰囲気が似ているのだ。


 なんとなく甲板の中心からずれて足を進める。

ガレオン船の構造から言えば、後部の出窓があるお城っぽい部分が船長室なので、そこに聖女様もいるのではなかろうか。


 普通のガレオン船であれば、お城と言うのは言い過ぎだが、この船の場合は本当に小さなお城の一部っぽいそれが船尾の上部構造として据え付けられている。それでいて統一性があって、設計者のこだわりと力量がうかがえるデザインだ。


 お城部分のドアをノックする。木製のそれには銀色の金属で飾り付けがされていて、見た目と共に補強がされていることがわかる。

しばらく待ってみる。


 返事が無いのでドアに付いた百合の花を模した金属製のオーナメントに手をかけてみた。外にドアノブらしいものが見当たらなかったからだ。


 ドアノブらしい飾りの操作の正解は、下に向けて押す、だった。百合の花がお辞儀をするように下に向いて、内部の精密さを伺わせる感触と小気味良い金属の音と共にドアが開く。


 全体的に中も白を基調とした瀟洒な内装で、星のように天井と壁の上の方まで小さな真っ白な照明がちりばめられて中を雪の照り返しのように照らしていた。



 その後幾つかドアをノックして開けてみたが、延々とハズレを引きづづけていた。もしかしたら今は不在なのかもしれない。


 両開きのドアにある今は見慣れた百合のドアノブに手をかける。両開きなので左右に一つずつ銀色の百合の花が可愛らしく並ぶ。


 ノックが面倒になり、とりあえず開けてみることにした。


「タノモー!!」


 勢い良く開け放った中には、小ぶりな『最後の晩餐』の絵に似たレイアウトのと室内で、なぜか端っこで小さくなって食事をしていたらしい少女が目を丸くしてこちらを見ていた。


 一度ドアを閉める。

ニルは一呼吸してから改めてドアをノックした。


「……どうぞ、」


 少し戸惑った声にニルがそろそろとドアを開く。


「あっ、その……、私怪しい者ではなくて、勇者庁の方から来ましたニルと申しまして……」


 ワンチャンまだだれも居ないだろうと踏んで悪ふざけのツケを払うはめになり、ニルは変な笑顔で言い訳がましくも怪しいフレーズを口にしてしまっていた。


 ひどくバツが悪いのはその相手がまた物凄くキレイな美少女で、一人だったからだった。状況的に脅かしに来た愉快犯だとか、もっとロクでもない人種だと思われても仕方がない。


 後半言葉が尻切れになったのは、見れば見るほどその少女が美しかったからだ。この世界では不吉とされる髪と瞳は、濡れた黒曜石のように黒の中に様々な光を映し返し、ティアラとその背にあるレースで出来たような蝶の羽が彼女を妖精の王女のように見せていた。


 月に代わってお仕置きされるのもやぶさかではない。きっとお金を出してもお願いしたい勢もいるだろう。


 目の前で息をして動いている存在だという事が信じがたく、その存在を確認するようにわずかな動きや息遣いをじっと見てしまっていたことに気づいて言った。


「……あの、聖女様でいらっしゃいますでしょうか?」


 当の聖女様らしき人物は、目を丸くして頭に疑問符を浮かべたような表情を浮かべて警戒もしていない様子だ。


 その少女は長いまつげを瞬かせると、急にその黒い髪を撫でて取り繕ったように忙しくモグモグと口を動かしたあと、小さく咳ばらいをして言った。


「はい、わたくしはフェリシアと申しまして、この地で聖女の任についております。本日は、どのようなご用向きでございましょうか」


 こちらに向けられた大きな黒い瞳が信じられないほど輝いてみえた。神話やおとぎ話の存在を目の前にしてニルはなぜ自分が気おくれせずにまともに話せているのか正直分からないほどだ。


「あ、わたくしニルと申しまして、勇者として勇者庁より聖女様の護衛の任を与えられまして、本日到着いたしました。つきましては着任の許可をお願いします」


 ちょっと先方に口調が引きずられていた。


 ニルはわずかにだが、少女が何故か急に取り澄ました様子になったことを読み取った。彼女がその華奢な手にしたハンカチで口元を一度抑えてから口を開いた。


「護衛など誰も頼んでおりません。どうぞお引き取り下さいませ」


 そう言いながら彼女の右手が握られ胸元まで上がり、再び膝の上に降ろされるのを彼は見ていた。握られていた手が開かれ、また握られる。


 女は女優だというが、そういう意味では彼女はまだ少女ということだろう。理由は良く分からないが、口で言っていることと違う理由で彼を返したいことがそのつとめて取り澄ました表情や立ち居振る舞いから読み取れた。


ニルの中で良くない癖が頭を持ち上げて来た。


「そういうの困るんだよねぇ、お姉さん。こっちも遊びじゃないんだよ」


彼はそういうとドカりと彼女の目の前の位置のテーブルに腰を掛けた。


「大体お昼時に何たべてんの?ナニコレ、巨大クルトンと牛乳とサンダルの底?」


 ニルが指さしたそこにはサイコロ状に切られた硬いパンとそれこそ靴の底に使えそうな固い干し肉だけがサバイバルの体でチグハグに瀟洒な食器に収まって食卓にあげられていた。


 彼の言葉に少女の表情が少し固くなった。


「これは頂きものです。悪く言う事は許しません」


 托鉢でもしているのだろうか。勇者には暮らしていけるのに十分な支給金がある。聖女にそう言ったものが無いとは考え難い。


 いや、使用人は? 他の人の気配が無い。


 聖女というのはそれなりの身分だと聞いている。このような華美な屋敷を与えておいて、誰もいないというのは奇妙なことだ。おそらくこの態度からして人は雇わず、来た者は追い返している疑いがある。


「そういう事を言っているんじゃないんよ。素材は美味しく頂くもんで、この食べ方は食材に対して失礼だ!」


 少女はすこし言葉に詰まってから切り返した。


「あなたには関係のないことです。十分美味しく頂いています」


 彼の唇に悪い笑みが浮かんだ。少女が後半の文章で墓穴を掘ったからだ。


「ならば貴様の味蕾と俺の料理の腕、どちらが上か勝負だ! もし不味かったら大人しく辞任してやんよ!」


 ニルは切った啖呵を否定される前に立ち上がって奥の扉へ向かった。


「キッチンを改めさせてもらう!」


「ちょっと、待ってください!」


 少女が立ち上がる気配を気にせず彼は奥へと進んで行った。



******



 勝手に入ったキッチンの中をひっくり返して使えそうなものを漁って並べたニルが満足そうに頷く。


「はい、今回の材料はこちら!」


 誰に向かって言っているのやら、ニルは自分と聖女フェリシアの前にキッチンをさらって今回使う食材を並べた。


 白いドレスとティアラを身に着けた、キッチンに場違いな少女が戸惑った様子でニルに問う。


「なにが始まるんですか?」


 ニルは悪い笑みを浮かべて相手に言葉を返す。


「戦争じゃよ!」


 そのキッチンに全くそぐわない、バレエのプリマドンナにも見える恰好のまま彼女は目を輝かせてキョトキョトとニルと食材の間で忙しく視線を動かしていた。


「今から作る料理が不味ければ俺が護衛を辞任してこの場を去る、美味ければ俺の着任を認める。それだけのこと」


「そんなこと……」


 ニルはニヤリとその少女に悪い笑みを見せて言った。


「どうってことは無いだろう。何を出されても不味いって言えばいいじゃないか」


 目の前の少女の中で何かがせめぎ合っているのをニルは見て取ることが出来た。ニルはその少女の様子に自らの闇が力強く反応するのを感じていた。


「ククク……悩め、悩むが良い、その葛藤が俺に力を与えるのだ!」


 絶世の美少女の複雑な表情でしか得られない栄養がそこにはあった。

戦わないものを書こうと思い立って書き始めました。しばらくは続けて更新いようと思っていますが、しばらくしたら金・土・日更新になるかと思います。

毎日アップしている人もいるらしいですが、自分の脳ではストーリーの続きが出て来なくなってしまうので。

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