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カンイジューニカイ  作者: はお


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【第五話】紅の信念

今回から実地研修編が始まります。

碧仁たちの配属先は、一体どのカンイなのでしょうか?


それでは引き続き本編をお楽しみに!

実地研修の組み分けと研修先が発表された。


「なんだ、私だけ仲間外れか」


仁以菜は自身の両脇に並んで同じ一覧表を見つめている碧仁と雪弥へ交互に視線を向ける。


授業の一環で行われる実地研修は、中間試験の結果に準って徳と仁を除いた位へ配属されるのだが、上の位から順当に割り振られるわけではないようだった。

例えば同じ礼の位にはカンイが2名いるわけだが、中でも位が高いレイホに中間試験首位の者と第3位の者、1つ位の低いレイへに第2位と第4位の者が就く。研修といえど国家の要人であるカンイのそばで働く身であることには変わりなく、この組み分けを行うことでパワーバランスの調整を図るのだという。また同じ配属先となった研修生の中では試験の順位が高かった者が研修において何事も優先される。そういった意味ではテストの成績が3番手だった碧仁より2番手だった仁以菜の方が有益な立ち位置を死守できているともいえるだろう。


「雪弥、1週間よろしく」

「よろしく」


中間試験首位であった雪弥と第3位の碧仁は、その法則に則り第5カンイ:レイホのもとへ研修に赴くことが決定した。



「お!ようやく来たか、諸君たち」


現レイホ:(くれない)氏がカンイに就任したのは、3年前のこと。カンイに選出される以前は俳優として芸能界の第一線で活躍され、数々のドラマや映画に出演し大ヒット作を生み出してきた。テレビというものに疎い碧仁でも中学高校の教室で耳にし知っていたほど、その知名度は確固たるものだった。

そんな異色な経歴から、カンイとなった現在もテレビやザッシといったメディア露出には積極的で、カンイの中では広告塔のような役割を担う御方である。その名に恥じぬ紅色の御髪を腰丈まで丁寧に伸ばされていて、実に麗しい。

「カンイ養成学校より研修で参りました、雪弥と申します。よろしくお願い致します」

雪弥が挨拶すると、紅氏は「君がギヌ坊やの!」と何とも嬉しそうな表情を浮かべ、握手を求めてまでいる。どうやら雪弥の双子の弟であるギヌ氏とは同じカンイということもあり仲が良いらしい。

「弟が大変お世話になっております。紅様が弟のことを気にかけてくださっていることは本人からもよく話に聞いておりました」

雪弥の言葉が過去形であったことに紅氏は疑問を持ったようだが、雪弥はそれを察して補足する。

「現在私が寮生活で離れて暮らしているので、弟とは久しく会っておりません。今は紅様の方が彼と顔を会わせる機会も多いでしょう」

物理的距離が理由とわかると、紅氏も安堵している様子だった。

「見るにギヌ坊やは、兄のことを大層慕っているようだからな。規則が許すのであれば、弟のためにもたまには実家へ顔を出すといい」

紅氏の言葉に、雪弥は指令を受けたかの如く丁寧な一礼で応える。そのあまりに綺麗な所作に紅氏も「今のはあくまで提案だ。強制ではないから気が向けばで良い」と苦笑している。

「待たせたな、そちらの君の名も聞こうか」

2人の会話を静かに聞いていた碧仁へ、紅氏が目線を向け直した。その真っ直ぐで吸い込まれそうな瞳にいくらか緊張したが、雪弥に倣って碧仁も己が何者かを名乗る。


「ああ、君が噂の」


碧仁の名を聞き、紅氏はその一言と不敵な笑みを碧仁へ向けた。


「噂、といいますと」

「本人が知るには時期尚早だな」


碧仁の問いを端的な台詞で片付けると、紅氏は碧仁へ左手を差し出す。雪弥と成り行きで握手した手前、碧仁とも握手を交わしてくださるつもりらしい。

しかし残念ながら碧仁の左手は開かずの間であり、握手をするのに適していない。


「ご無礼承知でお願い申し上げますが、右手に返させていただくことは可能でしょうか」


碧仁が様子を伺いながらもお頼み申し上げると、彼は碧仁の開かぬ左手を一瞥し「もちろん」と微笑みを浮かべて右手を差し出した。

碧仁も安堵して差し出された右手へ手を伸ばしたのだがー


彼らの右手同士が結ばれることはなかった。


紅氏が、一度下ろしたはずの左手で碧仁の右手首を捕らえ捻り上げたからだ。

瞬時に雪弥が間に割って入り事なきを得たが、突然の行為に碧仁は呆然とするしかなかった。その姿を目にし、紅は薄ら笑みを浮かべてさえいた。


「すまないな、急に。ただこちらも身を預ける立場にある故、研修生といえど手加減は出来ない。少々手荒にでも君にはこの世界の無慈悲さを味わってほしくてね」


紅氏が容赦なく碧仁の不意をついたのは、これからの碧仁を思ってのことであった。


「己の弱点を匿い別の手段を以って補おうとする姿勢は立派だが、上司であれ味方であれ安易に借りを作るとそれを逆手に取られ身を滅ぼしかねない。それに、そういう小賢しい振る舞いを平気で出来てしまう愚か者ほど、狙ってくるのはその弱点なりに気を張った左手ではなく、それを庇うため代わりに差し出された無防備な右手の方だったりする。先に自信のある方を叩き潰せば、その者は途端に戦意も戦力も防御力も失うことになるからな。人間、コンプレックスに対しては人並み以上の努力を惜しまず克服への道を辿ろうとするものだが、人並みに出来てしまうことに対しては注意が向かず、当たり前にそれを頼り、隙が生まれる。そういう隙をつき、つけ込んでくる輩もこの世界には数多くいる。相手が誰であれ油断するな、常に気を張っていろ」


開かぬ左手を気にかけるあまり、人並みに動く右手を過信していたのかもしれない。

それを身をもって教えてくださった紅氏に感謝するとともに、碧仁は教訓として胸に強く刻み込んだ。


「とはいえ私もこうしてカンイという立場でありながら、かねてより得意であった芸事へ未練がましくうつつを抜かしてる身だからな、人のことは言えない。好きでやっていることだからこそ、足元を掬われ奪われることがないよう用心しているつもりではあるがね。得意な分野こそ、自分の地位に胡座をかくことなく常に精進していたい」


紅氏の飽くなき精神の前では、碧仁も己の存在のちっぽけさを痛感せざるを得ない。それでもその劣等感を、少しでもこの御方の力になりたいという原動力へ変換することで昇華した。


「いただいた教訓という名の借りは、必ずこの身を尽くして紅様へ御仕えすることで返させていただきます」

「さっそく活かしてきたか。なかなかやるな、気に入った」


不意をつかれたように浮かべたその笑みは屈託がなく、碧仁は初めて紅氏の本当の笑顔を見た気がした。


ということで、碧仁と雪弥が配属されたのは第5カンイ:紅でした。


紅さん、芸能界を強かに生き抜いてきた逸材だけあってなかなか浮世離れした癖の強い御方でございます。

そんな紅と接することで、ど誠実な碧仁&ど真面目な雪弥ペアはどのような成長を遂げることとなるのでしょうか。


次回もお楽しみに!

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