【第一話】碧仁、ケンシの道へ
時間軸でいえば、現代から500年後。
世界線でいえば日本が実在するこの世界線と交わっているようで交わっていない、別レイヤー上に存在する世界といったところです。
物語の主軸となるジャポニワ国は、日本を模倣し作られた国(あくまで日本とは別国)。
中でも大枠は、
・冠位十二階
・八犬士(南総里見八犬伝)
を参考にさせてもらい、世の中の制度を整えています。
あくまで参考なので、史実や実際の時代背景と異なること、チグハグな参考の仕方であることはご了承ください。(そのためジャンルは歴史モノではなくファンタジーです!)
ここから加筆・修正行う可能性は大いに有りですが、ひとまず主人公:碧仁と共に歩んでいく物語の始まりです。
時は2525年ージャポニワ国。
かつては"倭=大和"と称され、"日本"という名で幾年もの長い年月を駆け抜けたとされるその国は、我が国の礎とも言えよう。
日本にはかつて「冠位十二階」という制度があったという。
伝説上の国:日本へ大いなるリスペクトを持つ第5代ジャポニワ国王は、それまで100年続いた世襲制を断ち切り、実力主義的制度「カンイジューニカイ」を施行した。国王は己の権威を自ら放棄し、若き有能な人材へ国政を託した。
国を治めるにあたり重要な権力を握る官僚には、12段階の称号=カンイが与えられる。
第1カンイ:トクイ
第2カンイ:トクロ
第3カンイ:ジンハ
第4カンイ:ジンニ
第5カンイ:レイホ
第6カンイ:レイへ
第7カンイ:シント
第8カンイ:シンチ
第9カンイ:ギリ
第10カンイ:ギヌ
第11カンイ:チル
第12カンイ:チヲ
彼らはその称号を得た暁に、特別な能力を授かる。その能力はカンイを得た者に託されるブローチの中に宿り、そのブローチには命こそないものの1つ1つに"意志"がある。
そしてそのブローチの意志とカンイを持つ者自身の意志によって認められた人物が、そのカンイの次なる後継者となる。
ブローチの意志のみで決めることはできない、カンイの意志のみで決めることなど以ての外だ。その運命の時は、即位の翌日に起こるかもしれないし、30年経っても訪れることはないかもしれない。
カンイジューニカイ施行から早25年、未だ1代目トクイ:紫貴からそのカンイを譲り受ける人物が現れることはなかった。
***
ついに、この日が来た。
晴れ渡る空を牛耳る陽の光は、新たな生活を迎える青年へ静かなる声援を浴びせている。
その空に負けぬ晴れやかな面持ちで門の前に立つ青年:碧仁は、親代わりとなって己をここまで見守り育ててくれた老夫へ深く頭を下げた。
両の親はいない。血縁上の"親"とされる男女から彼が授かったのは、その丈夫な身体のみだ。碧仁という名も、今彼の目の前で口元をへの字に曲げて涙をぐっと堪えている義親が授けてくれた。
「旅立つには絶好の日和だな。幸先が良い」
碧仁は今年で18歳となった。
高等学校を卒業し、この度"親元"を離れ独り立ちする。
「じっちゃん、今まで本当にありがとう。たくさん苦労もかけた、感謝してもしきれないよ。どうか身体には気をつけて、元気でね」
碧仁がこの家に来た18年前は働き世代真っ只中だった義親も、今では小石に蹴躓いて転びかけるようなうっかりおぼつかない場面も増えてきた。
本来なら、今度は自分が支える番だと意気込み共に暮らし続けるのが義理と人情だったのかもしれないが、碧仁には明確に目指す先があった。
「それにしても、初めて聞いたときは驚いた。碧仁が"カンイ"の道に進むとは」
そう義父がしみじみ頷き呟くと、碧仁は慌てて開いた右手で宙を仰ぎ苦笑する。
「だから違うって、じっちゃん。俺が目指すのはカンイじゃなくて、カンイにお仕えする"ケンシ"」
カンイジューニカイ制度に付随して生まれた役職の1つ、カンイの命と権威を守り抜くことへ徹する言わばカンイの護衛的存在、それがケンシだ。
ケンシという役職名は、日本に古くから伝わる物語「南総里見八犬伝」で重要とされる人物たちの"八犬士"から来ているという。第5代ジャポニワ国王が独断と偏見で名付けたと言われているが、同じ儒教の五常=仁義礼智信に由来するとはいえ、時代背景も違うこの2つを掛け合わせるとは当時の君主は実に奇抜な考えを持った御方だと碧仁は密かに思っている。
碧仁は8つの頃からこのケンシに憧れ、己もいつかケンシになってやると勉学と訓練に明け暮れてきた。
そして高等部を卒業し新たな春を迎えたこの度、数々の難関な試験を乗り越え碧仁は晴れてケンシ養成学校入学への切符を手に入れたのだった。
「それでは、行ってまいります」
愛する恩師へ敬意を込めて一礼すると、碧仁は故郷の土を踏み締め新境地へと歩み出した。
***
ジャポニワ国の中心地に位置する、ミヤコ。
旧国王の意思を継ぎ、カンイの総意で国を挙げ守り抜いてきた歴史ある建造物が今も現存する唯一の区域である。
日本を敬愛してきた歴代の国王たちが実寸大のプラモデルの如く神社仏閣を模倣し建設してきた"ジンジャ"や"テラ"は以前全国各地に点在していたが、現在はこの地に全てが集約されている。500年前を生きた日本人たちが目にしたらひっくり返ってしまうやもしれないが、"ホーリュージ"のお隣さんに"キンカクジ"が位置し、そのお向かいさんは"イセジングー"だ。日本の歴史に関しては嗜む程度の知識しかない碧仁でもそのカオスさは容易に受け取れる。
ジャポニワ国・第2の首都とされるミヤコには、碧仁がこれから身を置くケンシ養成学校のほか、御隠居された旧国王の住まいも密かに存在するという噂を耳にしたことがある。ただ実際目にしたことのある者は誰1人おらず、田舎者に括られる碧仁にとっては都市伝説のようなものである。
ケンシ養成学校、登校1日目。
新品の制服に身を包み、笑みをうっかりこぼれ落とさぬようどうにか真剣な眼差しに努めて校門をくぐった碧仁は、教室の前で一度足を止めると大きくひとつ深呼吸をした。
心を決めて、教室の扉を開く。
新たな仲間との、新しい生活の始まりだ。
「おはようございま…」
碧仁が最後の1文字まで発せなかったのは、入学初日早々教室内に殺伐とした空気が漂っていたからだった。
教室の中央には1対1の物騒な構図が出来上がっている。新入生同士の対立が火花を散らした要因のようだ。
初対面の相手といきなり喧嘩が出来る神経が平和主義の碧仁には理解し難かったが、正義感だけは反射的に出てしまうほど有り余っているゆえ、咄嗟に身体が動いていた。
喧嘩相手へ振り下ろされかけていた拳を寸手のところで捕まえると、その者たちへ声を掛ける。
「同じ志を持つ人間が集まる教室だろ?ここは争うための空間じゃない」
2人へ交互に目線を向けながら言の葉を伝えると、不本意に拳を封じ込められた方の生徒が今度は碧仁へつっかかってくる。
「俺だって争いたくはない。だけど、こいつがあまりに生意気なことを言うから」
見るにこちらの暴力で物を言わせようとしている方の彼はこの通り頭に血が昇っている様子であるが、もう片方の掴み掛かられていた方の彼はいたって冷静沈着、相手が腹も立てたくなるほど涼やかな顔をしていた。
いらぬことを発して後者が前者を怒らせたのだろう。
「私は何も。ただ『つまらぬ戯言を言っている暇があるなら、その品の欠片もない空っぽの頭へ知識の1つや2つ入れてみたらどうだ』と提案したまで」
想像の斜め上をいく買うには十二分な売り言葉を相手へ送っていたようで、碧仁も若干その不憫な空っぽ頭くんへ同情しかけたが、それほどの物言いをさせた"つまらぬ戯言"がどのような内容だったか知らないことには善悪の判断もつけ難い。
「双子の片割れがこんな高飛車小僧とは、ギヌ様もさぞ御苦労されただろうな」
二度も同じ屈辱的な提案を口にされた腹いせに、青年はそのような言葉を投げ捨て己の席へと戻っていった。
つまらぬ戯言、とはこれのことか。
「怪我はないか?」
自分が教室へ来る前に手をあげられていたらと脳裏によぎり念のためその場に残される形となった方の彼へ碧仁が声を掛けたが、彼は「そのように見えるか?」と逆に聞き返してくる。たしかに高飛車小僧とは言い得て妙かもしれない、碧仁は苦笑いするしかなかった。
そんな彼も席につくから碧仁も前のコクバンー教室前に設置された巨大タッチ式液晶パネルに映し出された座席表を見に行くと、こそこそと1人の生徒が碧仁の方へ歩み寄ってくる。
「登校早々に喧嘩を止めに入るなんて、勇敢だね」
あの喧嘩が始まった際、教室内には複数人の生徒がいた。その中で止めに入ったのは碧仁ただ1人だった。
権威ある位の方々へお仕えする職を志して入学しただろう生徒たちがその様とは今の若者も廃れたものだと碧仁は呆れずにいられなかったが、「それなら君も」とその視線を相手へ向けつつ言いかけ、またも続きの言葉を失ってしまった。
「女に男の喧嘩を止めるのは無茶だとでも言いたいのか?まったく失礼なやつだな」
碧仁へ話しかけてきたその生徒は、性別としてはれっきとした女であった。口調は随分と男勝りであるが。
「わるい、そういうつもりはなかったのだけど」
「顔は明らかにそう言っていたな。まあ嘘をつけない正直者は嫌いじゃない」
彼女は腕組みしながら微笑みを浮かべる。
「私の名は仁以菜。君と同じ"仁"の字が名前に含まれているね」
名乗った覚えはないはずだが、なぜか彼女は碧仁の名を知っていた。
「今その座席表へ人差し指を滑らせて自分の名を探していただろう?その指が"碧仁"の名を見つけるなり、ぴたりと止まった」
そう言われれば無意識のうちにその動作をしていたかもしれない。碧仁は情けない笑みを浮かべる。
「それにしても、雪弥は相変わらずの言い草だな。そりゃ、出会ったばかりの同級生から高飛車小僧と揶揄されても文句は言えないよ」
仁以菜は先程喧嘩をふっかけられていた方の青年:雪弥へ目線を向けて眉を顰める。
「仁以菜はその雪弥と顔見知りなの?」
とても他人に向ける憐れみの目ではないと察し、碧仁は彼女に訊く。
「腐れ縁というやつかな、あの双子たちとはね」
苦笑を浮かべながら返された答えを聞いて、そういえば先程喧嘩の流れで聞き逃すには難しい事実が耳に入ってきたことを思い出す。
「雪弥の双子の弟は、歴代最年少の弱冠15歳にしてカンイへ就任し18歳になった今も現役で職務に励んでおられるギヌ氏。先程彼が言いふらしていた内容と事実は相違ないよ」
何も言わずとも碧仁が黙って仁以菜をまっすぐ見据えた理由はわかったようで、彼女の方から話して聞かせてくれた。
「幼い頃からケンシになるため鍛錬を積んできた青年と腹の中から共に時間を過ごしてきた存在がまさかカンイに抜擢されるなんてね、何の運命の悪戯だろうか」
それでも雪弥は、こうして今日という日にこの教室へ足を踏み入れた。真意は本人のみぞ知り得ることであるが、少なくとも碧仁はその瞳にただならぬ闘志を感じた。
その決意は、誰であっても邪魔すべきではない。
「何はともあれ、これから1年間同じ教室で勉学に励む同志だ。お互い協力できればと思う。誰とでもそうなれるわけではないが碧仁、君とならその関係が築ける気がする」
出会って数分の人間へその言葉を贈れる仁以菜の洞察力と決断力に、碧仁は僅かに驚きを隠せなかったが、斯言う碧仁も仁以菜とは良い関係が築けそうな予感がしていた。
仁以菜から差し出された右手に、碧仁は自身の右手で応える。
たしかに、幸先は良いかもしれない。
機嫌良く煌々と空を照らす太陽の如く、碧仁の心も僅かにあった不安を押し退け晴れ渡るのだった。
「これはこれは、とんだ"迷い犬"が紛れ込んだものだ」
人知れず放たれたその言葉を直接耳にした者は、この世に本人を除きただ1人として存在することはなかった。
舞台となるジャポニワ国は、伝説上の国:日本を敬愛し理想モデルとして歴代の王が統治してきた国。
これからも少しずつ日本を模倣したモノや制度を登場させようかななんて思っています。
ちなみにカタカナで表記している名詞は基本的に、同じ名称のものを模倣し作られたものではあるものの、全くの別物という設定です。
文章で伝えるには限界がありますが、ホーリュージもキンカクジも本物とは柱の数が違ったりどこか歪だったり、現代風にトイレはウォシュレットだったりするわけです。
また500年後の世界ということもあり、劇中に登場したコクバンのようにあらゆる道具が今よりずっとハイテクなものへと進化していたり、当たり前にペーパーレス社会が進行していたり、そんな描写も出来たらなあと思ったりもしています。
まだまだ始まったばかり、行き当たりばったりの物語になってしまうかもしれませんが、お付き合いのほどよろしくお願いします!




