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Ep1. 選考結果

就職活動といえば面接、面接といえば就職活動。


「楽してお金が稼ぎたい」「御社なら受かりそう」と言う本音に蓋をして、相手を気持ち良くさせる建前を心の底から思っている風に伝えることに心血を注いだ時間は、今思えば必要だったりそうじゃなかったりで……。


そんな矛盾した感をすり減らして残ったのは、若気の至りとでも言うべき、苦々しい失敗の思い出だったりしまんか?




ーーーコンコンコンッ


「どうぞ」


「失礼します!」


俺は練習通りの所作で面接室に入った。


部屋の中にいたのは、五十代くらいのおじさん一人だった。


紺色のスーツ、藍色のネクタイで、如何にも普通のサラリーマンという感じだ。


「どうぞ、お掛け下さい」


限りなく無感情な声で、俺を対面にあるパイプイスに促す。


「はい、失礼します!」


イスの傍らにカバンを置き、座面に浅く腰掛ける。


「では、まずお名前を教えてください」


「はい、三上マサルと申します!」


男性は無言で頷き、俺の方をジーッと見つめながら続ける。


「では、三上さんの志望動機をお願いします」


ーーーそして、俺の通算50件目の就職面接が始まった。



***



俺の就職活動は難航していた。


エントリーシートや筆記テスト、グループワークで落ちた企業もあったが、面接で落ちた企業が断トツで多かった。


面接結果に企業側からのフィードバックなんてものは書いてあるわけが無いので、何が原因なのかはよく分からなかった。


それでも尚、内定を貰えるまで面接は続いていかなければならない。


正直、気が滅入ってきた。


昔から答えのない問題が嫌いだった。


国語の記述問題や数学の証明問題、自分なりに考えても分からず、解答集を見ても意味が分からない。


とにかく、分からないことはストレスで、理解しようとすることは面倒くさかった。


親の目や周りの常識に絡め取られ、就活を続けているが、体調に異常が出る程度には追い込まれていた。


「ですので、コミュニケーション能力には自信があります!この長所を活かして、御社に貢献したいと考えています!」


「はい、どうも。では、質疑応答に移ります」


とりあえず、用意していた回答をその通り読むことが出来た。


そう安堵した矢先のことだった。



「キミはそれで、社会に通用すると思ってるの?」


面接官の態度が豹変した。


語気は強く、目つきは鋭く、即座に俺は怯まずにはいられない。


「……そ、それで……とは?」


ひよる心を押し殺し、俺は言葉を絞り出す。


「その、何も分かってないのに、知ったかぶって上から目線で威張ってることだよ」


分からない。俺には自分が何を言われているか分からなかった。


それが的を射ているのか、的を外しているのか、それさえ分からなかった。


面接の場で急に罵倒にも似た言葉をぶつけられた俺は狼狽し混乱した。


後から考えたら、圧迫面接の一種だったのだと思う。


それをそういう手法だと考える余裕はこの時の俺には欠片もなく、そのあとも続く手厳しい指摘を朦朧とした状態でただただ聞き続けるしかなかった。



***



帰り道、日の落ちた闇の中を駅まで歩く。


俺は肩を落とし、腹の奥底から湧き上がる何かで咽び泣いていた。


情けなかった……んだと思う。


相変わらず、あの面接官が言ってたことには何一つピンときていない。


だから、悲しかった訳でも、ムカついた訳でもない。


ただ、あの状況で初対面の大人に叱られて、狼狽えて何も言い返せなくて……


ダメだ。上手く考えがまとまらない。


とにかく分かるのは、またお祈り(ダメ)だったということだ。


通知は来なくともわかる。


受かってたら、逆に怖い。


これで51回目のお祈り(ダメ)


選ばれない。俺は選ばれない。


いつもそうだ。


就職活動だけじゃない、家でも学校でも、俺のことを誰も相手にしてくれない。


愛想は使ってくれるが、好きになってはくれないのだ。


なんでかは分からない。


少なくとも今の俺には。


なぜ……なぜなんだろう。


普通にしてるだけなのに、一生懸命やっているだけなのに。


街頭と、たまに行き交う車のベッドライトが照らす道を哀愁を漂わせたまま歩いていく。




『!』


ふと、スマホからメッセージ通知が聞こえてきた。



ポケットを(まさぐ)り、手帳型のカバーを開くと『メールを1件受信しました』とあった。



そして時間差で通知欄が表題にスライドした



『選考結果』



おかしい。


現在選考中の企業は今日、今さっき行ってきたあの1社だけのはず。


いくら面接の内容が酷かったとはいえ、即日に選考結果が送られてくるわけはない。


スパムメールかもしれないという疑念を抱きながらも、どこかの企業で欠員がでた可能性もあるという淡い期待を抱きつつ、俺はポップアップをタップした。


スマホがメールアプリを起動し、受信ボックスが、一覧となって現れる。


新着のアイコンがつけられたそのメールをみてなにやら違和感を感じていた。


差出人の表示がなかったのだ。


差出人の名前はなく、「選考結果」の表題のみがあった。


「……はぁあ」


俺はそこで深い嘆息を漏らす。



釣られた。


俺が就活生であることを知ってか知らずか、就活生ならば必ず見てしまうであろうタイトルのスパムメールだったのだ。


俺はすぐさま、スパムメールにチェックを入れ、メールを削除する操作を行う。


『!』


するとまたメールの通知が来た。


受信ボックスの1番上に新たなメールが表示される。


『驚かれましたか?』


「うわぁっ!」


ギョッとしてスマホを手放してしまった。


慌てて中空で拾い上げると、再び画面に目を落とす。


『うふふ、申し訳ありません( *´艸`)』


そこには新たなメールの着信があった。


顔文字付きでちょっとムカつくが、それどころではない。


そして、また1件、また1件とメールが、送られてくる。


『でも、驚かずに聞いてください』


『厳正なる選考の結果』


『貴方は見事、合格致しました』


そこには俺が、こぽ1年間焦がれ続けてきた文章が映し出されていた。


まあ、普通メールのタイトルじゃなくて本文に書かれているはずなんだが……。


しかし、一体なんなんだこのメールは。


誰かのイタズラなのか?


『イタズラなどではありません(*^_^*)』


「……?!!??」


もう訳が分からない。


『つきまして、貴方をこちらの世界にご招待いたします』


『直接お会い出来ることを心よりお待ち申し上げております 』


俺の理解を追い越して畳み掛けるような通知音の連続。


『追伸』


『少々痛いのでお許しくださいませ』


「痛い?」


どういうことだ?なんで招待を受けて、痛い思いをしなきゃいけない?


それに、こちらの世界ってなんだよ。


「おい!危ねぇぞ!!」


突如、暗かった路地に光が差し、怒号が響き渡る。


声のする方を見やると、路地の道はいっぱいの大型トラックが猛スピードで侵入してきていた。


「……へ?」


圧迫面接の疲れからか、はたまた謎のメールで混乱していたためか、かなり反応が遅れてしまった。


トラックはまっすぐこちらに向かってきている。


あ、これ、終わった。



ーードゴンッ!



大きな衝突音が、俺の意識を刈り取った。


いや、多分命もだ。


あーあ、終わっちゃったよ、俺の人生。


まあ、でも、これでいいのかも。


就活も終わらないし、誰にも好かれないし。


このまま生きてたってたかが知れてただろうし、いっそここで終わってしまった方がよかったのかもしれない。


てか、死後の世界ってどうなんだろ。


ホントに輪廻転生とかすんのかな?


と、走馬灯が流れるわけでもなく、誰かに思いを馳せらせるわけでもなく、俺の短い人生は幕を下ろしたのだった。



***











めのまえが まっしろに なった ▼









というのはまさにこのことだろう。


いや、あのゲームはバトルに負けても誰一人、一匹として死にはしないのだが。




俺はトラックに轢かれた衝撃で、目の前が真っ白になった。


恐らくは死んだのだろう。


今はただ真っ白な空間の中に浮かび上がり、漂っている感覚だ。





死んでなければ「夢見心地」と例えたかもしれない。


俺はその場に浮いて風のような謎の力によってどこかに運び込まれているような感じだ。


このまま閻魔大王のところに行って、天国に行くか地獄に行くかを決めてもらうのだろうか。


確か生前犯した罪を聞かれて、その回答次第でどっちに行くか決まるんだったよな。




ということは、また面接!?


死んでなお、就職活動からは逃れられないのか……



もしくは、龍を象った通路を通って、触手の生えた謎の人物に自己PRの修行をつけてもらうかどっちかだな。


それならまずは面白いダジャレを考えなきゃいけないんだよなぁ。




…………………カニは苦手(2が手)なんです、なんちって。




なんて呑気なことを考えていると、強烈な眠気がやってきた。


抗うことが出来ない眠気により、俺の意識は遠のいていく。




このままスッと消えていくのか……。




まあ、でもいいか。


どうせ生きてたって生きてるのか死んでるのか分からなかったし。


もう何も考えなくていいのなら、俺はそっちの方が幸せかも。




内心そう思いながら、俺は永遠かもしれない眠りに落ちていった。



最後まで読んできださりありがとうございます!

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