再会
空は澄みわたっていた。
森の中、ひと気のない細道の先に佇む崩れた庵。
木々の隙間から差し込む日差しは淡く、風に揺れる葉の音だけが、時の流れを告げていた。
美緒はそこで、ひとりの男と向かい合っていた。
金色の瞳。風に揺れる黒い羽根。
蓮翔。
その名が胸の奥で脈打つように響いていた。
知らないはずの顔なのに、どうしようもなく懐かしい。
初めて会ったはずなのに、まるで、何度も何度も――会っていたかのようで。
「……れん、しょう……」
ぽつりと、その名が唇から零れた。
自分の意思ではない。
心が、勝手に彼の名を呼んでいた。
その瞬間――美緒は自分の口を、両手で押さえた。
「……っ、私……なにを……?」
声が震えた。
胸の奥が、ひどくざわつく。
頭では理解できない。けれど、魂の奥が確かに彼を知っていた。
蓮翔はその姿を、まるで遠い記憶をなぞるように、静かに見つめていた。
そして、迷いも、ためらいもなく近づくと、そっと美緒を抱きしめた。
腕の中に、美緒の細い肩がすっぽりと収まる。
美緒は驚きに身をこわばらせたが、逃れようとはしなかった。
ただ――その温もりに、心の奥が静かに震えた。
「……ずっと、待っていた」
蓮翔の声は低く、絞り出すようだった。
千年もの間、胸の底に押し込めていた想いが、今、初めて言葉になった。
「今度こそ……ずっと、そばにいてくれ。
お願いだ……もう、どこにも行かないでくれ。
お前がいない時間は、もう耐えられないんだ……」
ただの懇願ではなかった。
魂からあふれ出す、切なる祈りだった。
美緒の瞳に、知らぬ涙が浮かぶ。
この温もりに、理由もなく惹かれる自分。
この声を聞くだけで、胸が張り裂けそうになる自分。
(……どうして?)
そのとき、不意に、空気が澄んだ音を孕んだ。
――しゃりん。
どこからともなく響いた、やさしい音色。
それはかすかに、前世の記憶とともに降る。
何かが、ゆっくりと呼び覚まされていく。
美緒の中で、時間と時間が重なり合う。
理屈では説明できない、名もなき契り。
それが今、静かに結ばれようとしていた。
蓮翔は、美緒をそっと抱きしめたまま、耳元でささやく。
「ようやく……お前に、会えた……」
言葉のひとつひとつが、美緒の胸に深く落ちていく。
「好きだ……ミオ……」
美緒を抱きしめる蓮翔の目から、
ひとしずく、涙がこぼれる。
長く離れていた時間を取り戻すように。
静かに、再会の契りは結ばれた。
そしてふたりの運命は、ふたたび、動き出す。