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第9話

 真太は、さっき思っていた疑問点をイヅに聞くことにした。さっさと聞かないと、いつもの事だが、また忘れてしまいそうである。

「そういえばイヅ、アボパパの氷漬け荒療治をイデにばらしていなかったんだね。内緒だって言っていたし、忖度したんだろうね。でも、イデとは兄弟だからテレパシーで繋がっているんじゃないかな。イデはイヅから聞きだしていなかったのが、ちょっと不思議だったんだ」

 イヅは、ちょっとすました感じすらさせて、

「前から何度も言ったと思うけど、僕はテレパシーに関しては、大人の関係が出来上がっているんだ。普段は誰もテレパシーで繋がらないし、他のテレパシー能力者もみだりに他の奴の考えをのぞいてみることはしないんだ。イデだってそうさ。それにあいつは僕の事は兄として尊重しているんだ。一緒に過ごして分かったことは、前世とかの噂とは違ってイデは利口で礼儀正しい。それに、イデがこっちに来てはいない間、僕が彼の母親のズズンさんの世話をしていたのも、割と恩義を感じているしね。だから、僕が知っているであろうことも、聞き出そうとはしないんだ。僕から知ればきっと、アボさんと僕が気まずくなると、遠慮しているんだな」

「ひぇーかなりまともで、良い奴なんだね。パパ。あいつ、前世とは違う感じなんじゃないか」

「そうらしいな。イダの子として生まれたし。今世の親に似たのかもしれない」

 アボパパはそう納得して安心したようである。

 それから、真太はイヅのすまし顔にめげず、聞きたいことを聞くのだった。

「それにしても、イデは誰の仇を打つって言うんだ。そしてやっつけたい奴にはどんな恨みが有るのかな。そこんとこの事情、イヅは知っているんじゃないか」

「その事、僕に話せって言うのかな」

「イデがナイショだとか言ったのか。口止めされたって?」

「されてない」

「だろ、そんな気がしたんだよ。そういう場合は話したって良いのと違うか。むしろ話しとけって事かもしれないよ」

「その話、僕はこのメンバーに言って良いのだろうか・・・」

 アボパパは、

「イヅが良く考えてくれ。俺らはどういう事か知らないんだから、意見できないからな」



 以下、イヅが話したイデの事情。三人称で物語風なのは、千佳由佳が興味を持ってやって来て、舞台の脚本にするつもりの為。

 はるか昔、何度か生まれ変わっていたイデが、千佳由佳の父親の祐市と同じく魔人だった頃。イデは魔人の国の第三王子ココであり、上は第一王子カカ、第二王子ククそして、姉ヒイラギと言う名の王女が居た。ヒイラギは日の国の言葉だが、魔人の国の言葉でも、同じ木の名だったとイヅが言うのでそう呼ぶことにする。王子の名が適当な気がするが、発音が難しく、そういった名で通すつもりの千佳由佳である。

 ココ達魔人の国に隣接して、魔界と呼ばれる国があった。そこには魔物や鬼の類、そして人間界から落ちて来た人間の魂の住む国で魔王が支配していた。その頃は、魔人たちは自分たちは人間と思っており、魔王の支配する世界とは一線を引いて、一切関わりを持つことは無いように結界を張っていた。香奈ママの得意とする技を、グレードアップした感じと思ってほしい。

 そして、グレードアップしている結界でも魔界の能力のある魔物たちに破られて、侵入されることがあった。そんな能力のある、魔王の息子らしい者がやって来たのだが、王女ヒイラギは偶然か魔物の企みか、彼と出会った瞬間恋に落ちた。兄の王子達や国王が気付いた時には、ヒイラギはそいつと駆け落ちして、自分たちの国を出て行ってしまっていた。皆嘆いて、必死で探すが、国の内外にヒイラギの気配は無くなっていた。その時、ココは人間界と言うものが、自分たちの住む世界の他にあるし、霊獣界の存在も知った。知ったけれど、そこに行く能力は無い。しかし、ヒイラギの恋人はその世界の間を行き来する能力があって、二人で人間界に逃げていったのが分かった。

 皆諦めて数年経ったころ、ヒイラギは小さな男の子を連れて、国王達の所へ戻って来た。ヒイラギの家族達は内心ぎょっとしたが、思い直してヒイラギと魔物の子も受け入れた。しかし、最初の家族の引いた雰囲気を敏感に察していたらしいヒイラギは、程なくどこで手に入れたのか、毒を飲んで死んでしまい、連れて来ていた男の子は、居なくなっていた。皆で男の子を手分けして探した結果、手伝った親類から毒を飲んで死んでしまっていたらしいという報告があった。

 姉になついていたココはとても悲しんでいて、最初に快く受け入れなかった家族を恨んでいた。

そんなこともあった時期も過ぎ、国王夫妻は亡くなり、第一王子カカは幼少のころからの婚約者ズンと結婚して王位を継いだ。国は安泰したのだが、二人には子供が出来ず、このままでは次の代の王は第二王子の子に王位が移るはずだった。しかしある日、国王カカが以前付き合っていたが分かれてしまった女性、つまり以前の浮気相手が、城に男の子を連れてやって来た。そしてその子はカカの子だと言った。なぜ今頃になってとも言えるが、男の子の年齢的にも話は合っているし、見れば王族一家の顔つきのパターンが見え、似ているから間違いないだろうと、親子二人を引き取った。王妃は反対する。彼女としては気に入らなかっただろうが、仕方がない。

 しかし、数日後王妃は毒を飲んだらしく、死んでしまった。

 ココはこの一連の、次々に国王一家の女性が毒で死んでしまう出来事に、違和感があった。しかし兄である国王が元恋人の子を王位継承者と認めてしまった。

 それにしても、いくら内密にしようとしても、噂で国王の一家のひとりと魔族が結婚していたことが、国民の間に広まっていた。その為、国民達の中には、結界の隙間からやって来た魔界の一族達と付き合うものが出て来て、魔人と魔界の魔物は段々交じりあって来て、ある日この国の超能力者が張っていた結界は、ことごとく破れさってしまった。そして、隣国魔界からは魔物の軍隊が攻めて来た。そのショックの為か、国王カカは心臓麻痺で急死してしまった。次は王と元恋人との間の息子が国王になるが、当時若干19歳だった。

その為、補佐として国王の弟達、ククとココが共に、攻めて来た魔界の魔物たちと戦うことになった。戦況は厳しく、負け戦である。魔人はほぼ人類と同程度の能力だし、魔物は現在の奴よりも能力は劣ってはいたが、超能力があって、人類と戦えば勝つのは必然だった。それでもククとココは最前線で必死で指揮をして、作戦を練り何とか踏ん張って、魔物の侵攻を阻止しようとした。そして、二人を含めて魔人の中にも超能力が表れて、何とか魔物たちを国外に追い払う事が出来た。つまり結界が強化され、出来上がったという事である。二人は疲れ果ててしまっており、部下に休憩を促され、では一時休もうと本陣に戻った。すると、そこに控えていた、若すぎて役立たずと思っていた国王が、二人の前で豹変した。なんと、見かけは魔物の王の様な風体である。

「ははは、だまされたなお前達。我は魔王とヒイラギの子だ。魔人の国は目障りだと、先王の代から言われていたからな。先王の息子である我が父が結界の綻びからなんとか入り込んでヒイラギを手に入れ、内側から魔界の毒で一網打尽にすることにしたはずだったが、お主らは魔王の血から取り出した毒が、効かない体質らしい。こうなったからには、国の薬師がヒイラギの血と毒を混ぜてみたぞ。怨念の混じった血と魔王の血が混じった毒、はたして効くであろうかな」

 そう言って真っ赤な血潮をククとココに浴びせた。力が尽きかけて戻って来ていた二人に、血の混じった毒を避ける力は無く、毒にやられて死に絶えるしか道は無かったのだった。

そいつを国王カカの息子と見誤っていたが、ヒイラギと魔物の王子の子であったので、同じように一族の顔に似ていただけだった、という事なのである。

千佳由佳は、イヅの話を必死で書き写し、

「あたし、ヒイラギ役が良いけど、由佳ちゃんもでしょ。年齢からしたら、あたしは王妃よね。後、王子役三人と、国王と年齢行った方の王妃、それに魔王の王子、こっちはヒイラギの子一人で良いよね。この話、男の役が多いね。どっちにしても、カッコいい役は少ないし、出演したがる人いるのかな」

 千佳はそう言って、真太達を見た。真太は、

「俺ら、もう芝居する年頃は過ぎた気がするんだが」

「やる気のない人には無理には勧めないわ。でも王子三人と、ヒイラギの息子は必要ね」

 由佳は、

「出演者が少ないときは、千佳ちゃんかあたしかが、ナレーションも読むべき?」

「難しくなりそうね」

「翼君はこの前、小道具係するからって言ったけど、小道具なら役者も兼務できるよね」

 由佳はそう言って、辺りを見回す。

「アビって、最近は魂変わったんでしょ。学校行ってなくて世間を渡っていける訳?お芝居とかして、違う人生も感じてみてはどうかしら。今更学校に通い直す訳にもいかないし。困ったことよね」

 そう、爆弾宣言しだす。由佳が困ってくれても、今更どうしようもないアビだ。

「イデのだいぶ前の前世の芝居をするのか。俺にも何かやらせたいのか」

 的確な質問である。

「先にやるって言って、好きな役選んだ方が楽よ」

 的確なアドバイスだ。

「魔王の王子とヒイラギの息子にしようかな」

「おっけー。アビ決まりっと」

 由佳はノートにメモりながら、じっとイヅを見るという器用なことをしている。イヅは、

「僕はククにする」

「出番、少なそうね。良い選択だわ」

 千佳も勧誘する。

「後になるほど難しい役どころになるのよ」

 ロバートがふざけて、

「男は王妃とかダメなのお」

 とか言い出した。

「ちょい役はママにさせようと思ったけど。大体男の出番が多いのよ。一応、戦いの場面とかあるし」

 アビが、

「僕、魔物の兵隊さんしたいです」

「残念、一度希望したら取り消せないルールなの。それ、聞いてなかったとしても、決まりだから」

「そう言われるだろうと思ったさ」

 千佳は才能のある男役は翼しかいないと思い、ココ役として翼を呼びに行こうと入り口を見ると、翼はアマズン川岸に何処にでも生えている木の葉っぱを持って来た所だった。

「小道具で来たよ。男役の衣装だ。きっと昔はこんな感じだよ」

「葉っぱ腰に巻くんだー。言っておくけど、ココ役、翼だから」

「えっ、僕も出るの・・・また来る」

「きっと作り直す気ね。最近、あいつも根性悪くなってきた感じ」

 察した千佳である。

「千佳、今日はこの辺で解散で良いんじゃない。後で出番の時のセリフ書き写して配ったら良いよね。そこだけ覚えてもらったら、ナレーションできっと台詞を話すとき分かるんじゃない。ここにはコピー機とか無いもん。」

 アビは、

「ナレーションがあるって、じゃあ、俺って最後の豹変のとこだけで良いよね」

 由佳は、

「えーと、まだ何とも言えないわ」

 アビをからかっているのだろうか。


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